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第肆拾陸話 竜を駆る

 




「どこのどいつだか知らねーが、高い所からオレを見下ろすんじゃねーよ」


「気絶させる前に理由を聞いておこう。何故人間を襲った」


「話してんのはオレの方だろうが。いいからさっさと降りろよ、クソガキ」


「ちっ」



 俺が乗っている岩を夜黒が拳を振るって破壊してくる。そこから跳躍して、地面に着地する俺を見て勝ち誇った笑みを浮かべる夜黒。


 話を聞かない奴だな。口が利けるように少々痛めつけるしかあるまい。

 九字護身法の印を結びながら、大きく吸った息を魔力で火炎に変換し、一気に噴き出す。



「臨・闘・在・臨……火遁・火吹カスイの術」


「はっ、そんな弱ぇ吐息ブレスオレに勝てると思うな。本当のブレスを味わわせてやるよ!」



 夜黒が大きく開けた口から黒炎を放出してくる。

 火炎同士衝突するも、俺の火炎は黒炎に呑み込まれてしまい、そのままこちらに襲い掛かってくる。俺はその場から大きく移動すると、クナイや手裏剣を夜黒に投げつけた。



「こんなオモチャで竜の鱗を貫けると思うなよ!」


(硬いな、皮膚に刺さりもしないとは)



 投げたクナイと手裏剣が、鉄に当たったかのように弾かれてしまった。裂傷もないところ、相当硬いのだろう。擬人化しているから人肌に見えるが、実際は竜の鱗だからな。


 先程鳴神で強襲した時も、本来は腹を貫く筈だったが貫けなかった。オーガの枯葉クレハのように、肉体が特別頑丈であると思った方が良い。


 なら、内部に攻撃を浸透させるか、比較的弱所を見定めてその一点を突くしかない。



「どうしたクソガキ、来ねーならこっちから行くぞ」


「っ!」



 背中にある竜の翼を羽ばたかせ、地面よりも少し高く浮きながらこちらに猛進してくる。そのまま拳打と脚撃の連打を浴びせてくるが、冷静に見極めて躱す。


 挙動が恐ろしく速いが、動きが素人なので回避は造作。だが一発でもまともに当たれば身体が木端微塵になる破壊力を兼ね備えているので油断はできない。



「ちょこまかと、小さくて当て辛い奴だな」


「“徹し”」


「ぐっ!? へへ、痛くも痒くもねーぞ」


(骨法も効かぬか……)



 機会を見計らって腹部に掌打を当てるも、夜黒には効いていなかった。直接内部に衝撃を与える“徹し”でも全く効いている様子がないとなると、内部も相当強靭なのだろう。


 うむ、厄介だな。

 となると、残されたのは弱所を見定めて一点を突く攻撃しかないか。俺は鑑定眼を発動し、夜黒の弱所を発見して作戦を立てた。



「どうした、もう終わりかよ?」


「兵・者・闘・兵・階・陣・土遁・土牢守壁どろうしゅへき


「こんな土くれで、オレを封じれると思ってんのか!? っていねぇ、どこだクソガキ!」


「こっちだ蜥蜴」


「上か!?」



 土遁の術で夜黒を土の牢に閉じ込めたが、一瞬で破壊されてしまった。だがそれでもいい。一瞬でも奴の視界を防いで真上に移動することが目的だからだ。


 声を出してわざと居場所を教えると、夜黒は気付いたのか顔を上げて宙に浮かぶ俺を見つけた。


 そのタイミング(機会)で、俺は再び大量のクナイを上から投げつける。さらに背負っている刀の鞘を左手に持ち替え、右手で刀印を結んだ。



「学習しねーな! そんなオモチャじゃ効かねんだよ!」


「忍法・変わり身の術」


「消えた! どこに行っ――」



 夜黒が上を向いている時、俺は地面に突き刺さったクナイと位置を交換していた。そして、左手に持つ鞘から刀を抜刀し、居合切りを放つ。



雷斬らいきり


「ギャアアアアアアアアアアアアッ!?!?」



 雷を付与した刀を下から上に振り上げ、夜黒の弱点である首筋から顎下にかけて斬り裂いた。

 硬かった他の部分よりもそこは柔らかく、弾かれることもなく斬り裂ける。血を噴き出しながら絶叫を上げる夜黒の顔は憤怒に染まり、俺を睨んできた。



「クソガキテメェ、よくもやりやがったなぁ!!」


(今の斬撃を喰らっても倒れないか。手応えはあったのだがな)


「殺す前に教えろ、何でオレの“逆鱗”がある場所をテメェが知ってんだ」


「敵に教える馬鹿がいるか」


「あーそうかよ、ならこれだけは教えろ。土くれで目隠ししたのも、上に移動したのも、全部オレの“ここ”を狙う布石だったってのか。アアン!?」


「そうだ」



 血が流れている首筋を親指で指し示しながら問いかけてくる夜黒に、一言で答える。


 ふむ、それぐらいは気付くか。

 奴が言った通り、俺は確実に弱点を突く為に作戦を立てた。まず土牢守壁で視界を防ぐ。別にすっ飛ばして初めから真上に陣取りしてもよかったのだが、奴の思考力を奪いたかった。


 そして自分から居場所を教えれば、奴は俺を見上げ、弱点である顎の下を露出させる。効果がなかったクナイを投げつけ油断させたところで変わり身の術を使い夜黒の懐に転移して、雷の居合切りで首を斬ったのだ。



「ちっ、ムカつく小細工しやがって。テメェはオレを怒らせた、本当の姿で殺してやるよ! うおおおおおおおおおっ!!」


(何をするつもりだ?)



 夜黒の魔力が膨れ上がった刹那、突如身体が膨張する。

 みるみるうちに姿を変えると、見上げるほどの大きな黒竜に変貌した。


 ふむ、擬人化を解いて真の姿になったという訳か。

 それにしても大きいな。小夜と初めて会った時の姿より二回りほど大きいといったところか。


 これでは弱所である逆鱗に攻撃を通すのが難しいと考えていると、夜黒は黒い翼を羽ばたかせ空へと舞い上がった。



「死ねクソガキ! 黒炎丸こくえんがん!!」


「ちっ!」



 竜の姿となった夜黒が、黒炎の玉を何発も放ってくる。

 慌ててその場から離れるも、逃げたところに次々と放ってくる。


 これでは防戦一方だな。

 俺は空を飛ぶ手段がないのに、奴は空の上から広範囲高威力の攻撃を好き放題放ってくる。


 破壊力はあるが機動力に劣る巌岱大将軍がんだいだいしょうぐんを出したところで、攻撃は当てられないだろうし魔力を無駄に消費するだけだ。


 う~む、圧倒的不利な状況だな。



(さて、どうするか)


「どこに隠れたクソガキ、出てきやがれ!」


「もうやめるんだ、兄さん!」


「邪魔すんなハクヤ、オレはあのガキを殺すんだよ!」


「あれは、白夜か?」


 気配を消し木の陰に隠れて作戦を練っていると、白き竜が現れる。見覚えがあるので、白夜で間違いないだろう。

 白夜が立ち塞がって何か話しているが、夜黒が放った黒炎が直撃し空から落ちてしまう。


 あいつ……何しに出てきたのだ。いや、丁度いいかもしれん。

 打つ手を閃いた俺は白夜が落ちたところへ向かい、這い蹲っている白夜に声をかけた。



「おい、大丈夫か」


「人間の子供がここで何をしている……お前は誰だ」


「時間がないから詳しいことは省く。俺は竜王様からあの竜を止めてくれと仰せつかっている者だ」


「オオジジ様から?」


「そうだ。奴を止めるのに協力してくれ」


「急過ぎて何がなんだか分からん。お前を信じていいのか?」


「我が主君であるオリアナ王女に誓う」


「……わかった。お前を信じてみよう」


「よし、なら俺を背に乗せて飛んでくれ」


「ななな、何だと!?」


「何をそんなに慌てている」


「いや……う~ん、わかった。特別に乗せてやる」



 よし、白夜の背に乗せて飛んでもらえれば空中でも戦える。


 何故か俺を乗せるのに渋っているようだが、仕方ないといった感じで乗せてくれた。まぁ乗るというより、翼の付け根の間に立っているといった感じだがな。

 不安定ではあるが、影縄の術で足を固定しているから落ちることはない。


「よし、飛んでくれ」


「わかった。落ちるなよ」



 指示を与えると、白夜は白い翼を羽ばたかせ大空へ舞い上がる。

 何かに乗って空を飛ぶことは小夜で慣れているので、振り落とされることもなかった。白夜は移動し、夜黒の前に躍り出る。



「いい加減しつこいぞお前」


「兄さんがやめるまで何度でも言うさ!」


「だったら消すしかねーな、黒炎丸!」


「上に回避だ、そのまま動き続けろ」


「乗せてやってはいるが、ワタシに命令するな!」



 夜黒が黒炎を放ってくるので、白夜に指示して上昇し回避させる。避けた後で、気付いたように文句を告げてくる白夜を諭すように協力を求めた。



「頼む、お主の力が必要なんだ。兄を止めたいのだろ?」


「んぐぅ……わかった! 今回だけだからな!」


「よし、なら奴に近付いてくれ。雷遁・飛電」


「ぐっ、何だ今の電撃。まさかあのクソガキを乗せてやがんのか、ハクヤ!」


(気付いたようだな)



 白夜に接近してもらい、近くから電撃を浴びせる。

 その攻撃によって俺が白夜に乗っていることに気付かれたが問題はない。


 さて、奴をどう倒すか。

 夜黒を倒す作戦を練っていると、白夜が文句を言ってきた。



「おい、あんな電撃程度じゃ兄さんは止められないぞ。考えはあるのか?」


「ある。最終的には俺が奴の懐に近付き逆鱗に大技をぶち込む」


「お前、兄さんの逆鱗の場所が分かるのか!? ワタシでも知らないのに!」


「ああ。だが一度攻撃しているので奴も警戒しているだろうから、まずは注意を逸らすか弱らせなければならん」


「承知した。それと図々しいお願いだが、兄さんは殺さないでくれ」


「心配するな、元より殺すつもりはない」


「そうか! ならワタシは何をすればいい」


「そうだな、まずは全力で逃げろ。来るぞ」


「よくも妹を誑かしやがったな、クソガキーー!!」



 何故か怒っている夜黒が黒炎を連射してくる。

 白夜は空を上下左右に動き周って逃げるが、夜黒も凄まじい速度で追いかけてくる。二人の速度は互角だが、ぴたりとくっついて攻撃を放ってくる夜黒の方が一方的に有利だ。



「俺が言う時に躱せ。右、左、右、今度は上だ」


「注文が多い奴だな!」


「いいぞ、その調子だ」


(命令されるのは腹が立つが……不思議と嫌ではない。この感覚はなんだ?)


「ぼさっとするな、次が来るぞ」


「クソ、当たらねぇ!」



 追いかけながら攻撃してくる夜黒に対し、俺は絶妙な時に白夜に指示をして回避させている。夜黒が黒炎を放つ時は魔力の反応が大きくなるから、撃ってくるタイミング(機会)は分かり易かった。


 だが、逃げているだけでは駄目だ。

 俺も牽制に飛電を放っているが、その程度では大した傷を負わせられない。もっと大技を浴びせて怯ませないと近づくこともできん。



「白夜、逃げながらでいい。吐息を放つ魔力を溜めるんだ。準備が出来次第、俺の言葉を聞いたら宙返りしてくれ」


「わかった! (あれ、ワタシこの子供に名乗ったか?)」


「いつまでも逃げてんじゃねぇよ!」


「今だ!」


「ふん!」


「消えた!?」



 俺の言葉を聞いた白夜が、その場で宙返りをする。夜黒がその下を通り抜けていき、今度は俺達が背後を取ることに成功した。

 奴が俺達の姿を見失って困惑している今が好機だ。



「臨・闘・陣・臨・在――今だ、撃て!」


白竜の吐息(ホワイトストリーム)!!」


「風遁・塵旋風」


「グァアアアアアアアアアアッ!!」



 白夜の口から放たれた一筋の暴風を強化するように、俺も風遁を使った。二つの暴風が合わさった攻撃は夜黒の背中に直撃し、怯ませることができた。



「今だ、奴に近付いて組付け」


「分かった!」


「クソ、離しやがれ!」


「嫌だ、絶対に離さないぞ!」



 白夜が接近し夜黒を羽交い絞めにする。夜黒は抜け出そうと暴れるが、大技を喰らったばかりなので振りほどく力が出ていなかった。


 白夜が時間を稼いでいてくれている間に、俺は影縄の術を解いて抜刀すると、二人の身体を駆け抜けて夜黒の逆鱗に刀を突き刺す。



「雷遁・建御雷神たけみかづち


「ギャアアアアアアア!!」



 強力な電撃が夜黒の肉体を駆け巡る。

 如何に内部も頑強な竜であろうと、弱点から高威力の電撃を内部に浴びせられては無事な訳がない。


 絶叫を上げて気絶してしまった夜黒を白夜が抱きかかえ、地面にそっと下ろす。俺も白夜の背中から下りた直後、白夜も擬人化した。



「兄さんは死んでいないだろうか」


「心配するな、痺れて気絶しているだけだ。回復したらじき目を覚ますだろう」


「そうか……人の子よ、兄さんを止めてくれてありがとう。お蔭で助かった」


「礼を言うのはこちらの方だ。お主が協力してくれなかったら、止めるのにもっと苦労しただろう」


「い、言っておくがな! 今回は特別に乗せてやったんだぞ! 竜が人間を乗せて飛ぶことは、本来特別なんだからな!」


「そうか、それは悪かった」



 指を差しながら文句を言ってくる白夜に頭を下げて謝る。

 顔を赤らめるぐらい怒っているのだから、相当嫌なことだったのだろう。


 しかし謝ったら謝ったらで「いや、別に嫌だという訳ではないんだがな……」と訳の分からぬ言い訳を連ねている。


 むぅ……こいつは何が言いたいのだろか。まぁいい、放っておこう。



「どうでもいいが、兄を連れて戻ったらどうだ。あちらも終わっているようだしな」


「そうなのか?」


 首を傾げている白夜に「ああ」と言って頷く。

 実は分身を一体置いておいて、夜黒と戦っている間も向こうの状況を逐一把握していた。危険な場所の中にいる姫様をそのままにする訳にはいかぬからな。


 何かあれば変わり身の術ですぐに分身と入れ替わるつもりでいた。


 だが族長の赤真が一人で若い竜達を制圧してしまったので、心配する必要はなかった。若い竜達も高レベルだし数が多いのだが、それでも赤真は危なげなく完封していた。


 レベル測定不能は伊達ではないということだろう。



「分かった。ならお前も一緒に行こう。兄を止めてくれた者を皆に紹介したい」


「いや、俺は行けない。訳あって姿を見せることができないのだ。なのでお主も俺については何も話さないでくれ。兄の方にも言っておいてくれると助かる」


「そうか……何か事情があるのだな。ならばせめて、名前だけでも教えてくれないか。ワタシが乗せた者の名ぐらい、知っておきたい」


「……サイだ」


「サイか……その名前、しかと覚えたぞ」



 仕方なく本名を名乗ると、白夜は嬉しそうに笑ったのだった。



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