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第参拾肆話 脈動

タイトルを変更いたしました。

 



「お主達の尽力によってこの地を守ることができた。心より感謝する。どうか……安らかに眠ってくれ」



 そう言って、右手に持っている薪を大きな焚火にくべる。


 ぱちぱちと飛散する火花が、死んでいった者達の魂のようで、夜空(あの世)へ静かに旅立っているように見えた。


 アンデット軍との戦いの後、十分な休息を取ってから皆で仲間の死体を回収した。


 修羅やゴップなどの主力は誰一人欠けることはなかったが、キラーアントやホブゴブリン、ミノタウロスや魚人など各隊から犠牲が出てしまった。


 千の敵と戦って二十人ほどの死者しか出ていないのは、結果だけみれば大勝と言っていいだろう。


 だが二十人もの仲間が死んでしまったことには変わりない。彼等の頑張りがあったからこそ、少ない被害で済んだのだ。


 俺達は大きな焚火を作り、仲間達の死体をくべて火葬し、あの世へ送る。


 ありがとうと感謝を述べ、全員で弔った。

 敵であるアンデット軍も弔いたかったが、小夜の破壊攻撃によって跡形もなく消滅してしまったので、代わりにもう一度俺が薪をくべる。


 その間、命がずっと経を唱えてくれていた。



「サイ様……」


「まだちゃんと言ってなかったな。修羅、よくぞ大将として軍を率いたな。此度の勝利はお主の力だ」


「そんなことありません! 我はファウストに勝てず、仲間を危険に晒しました。それに、結局サイ様のお力を借りることに……大将として不甲斐ないです」


「気持ちは分かるが、そう卑下するな。お主が皆を上手く纏めたことは、ここにいる者達が全員わかっている」



 確認するように周りを見渡すと、皆が力強く頷いていた。

 誰もがちゃんと理解しているのだ。修羅が魔王軍を勝利に導いたことをな。


 だが本人は、ファウストに勝ちきれなかったことを引きずっている。俺と小夜の力を借りてしまったことも申し訳なく思っているのだろう。



「ファウストの件はもう済んだこと、くよくよしていても仕方ないだろう。次にあのような強敵と戦う時は勝てるように鍛錬すればいいだけだ。自信を持て、修羅」


「サイ様……」


「俺としては、お主はもう新たな魔王として名乗ってもいいと思っているのだが……」


「いえ、我などまだまだ魔王の器ではありません。ご迷惑を承知ですが、サイ様にはまだこの地に残っていただきたいと思っております」


「うむ? 皆はどう思っている?」



 ゴップやタロス達に問いかけてみるも、顔を俯かせて黙ってしまう。それはドワーフのボルゾイ殿や魚人族の長であるペペも同様で、寂しそうな顔を浮かべてしまう。


 彼等の反応に違和感を抱いていると、リズが俺の背に合わせるように屈んでこそこそと教えてくれる。リズの話を聞いた俺は何故彼等が浮かない顔をしているのか気付き、深いため息を吐いた。



「そんな捨てられた子犬のような顔をするな。お主等、何か勘違いしていないか?」


「「えっ?」」


「何も今生の別れをするという訳ではないのだ。お主達がこの地を守れるようになったら俺が二度と関わらないと思っているみたいだが、別にそんなことはないぞ」


「でもよ、ガキんちょはその為にアタイらを強くしたんじゃねーのか。ガキんちょがシュラに魔王になれっていうから、もう魔界こっちには来ねーつもりなんじゃねぇかってアタイ達は思ってんだよ」


「確かに今までより来る頻度は少なくなってしまうが、普通に来るぞ」



 怪訝そうに聞いてくる枯葉に、それは違うと首を振った。

 余所からの侵略を防げる力を身につけさせるのが先決だと考えた俺は、父上やアルフレッドに相談して貴族としての勉強や習い事を先送りにしてもらっていた。


 修羅達が十分戦えるようになったから今度は家の方を優先するのであって、魔界と関わらない訳ではない。


 俺としても折角できた皆との繋がりを断ち切るつもりもないし、前世を思い出させてくる日本風の家や食材と別れたりはしない。


 それに元々はボルゾイ殿やダンケといったドワーフ達と交流するのが目的だったので、魔界には時々足を運ぶつもりだった。

 その考えを伝えると、彼等は安心したように顔を綻ばせる。



「そういえば最初はそんな話を儂等としていたな。よかったな、タロス」


「ムフー! サイ様、どこにも行かない」


「おい、どうしたタロス」


「タロス殿、気持ちは分かるぞ」


「だから言ったんだ。サイ様はオレ達を見捨てないって」


「いやいや、サイ様はいつも無表情で何を考えていらっしゃるのか分かりませんからね! 不安になるのも仕方ありませんよ。ですよね、マサムネ殿」


「何でオレに聞くんだ……」


「またまた~、影では心配していた癖に~」


「おい鼠、調子に乗るなよ。くだらないこと言っていると食ってやるぞ」



 ボルゾイ殿に尻を叩かれたタロスが、興奮したように俺を抱えて肩車してくる。それを見守りながら、信玄やゴップ、ナポレオンや政宗があ~だこ~だと騒いでいた。



「はぁ、ご主人様は甘過ぎます」


「珍しく小夜とは同意見ですが、それがサイ様の良い所でもありますからね」


「リズ殿と小夜殿にも、儂等は感謝しておりますよ」


「あ、ありがとうございます」


「スイゲツさんもミコトさんも、思い出したかのようにお世辞を言わなくていいですよ。まぁ、気持ちは受け取っておきましょう」


「おいタロス、ガキんちょ寄越せ! 勘違いさせた礼にしばいてやる」


「ヤダ、渡さない」



 皆がわいわいしている雰囲気の中、一人だけ真面目な顔をした修羅が俺に告げてくる。



「サイ様、やはり我はまだ魔王にはなれません」


「ふむ、無理に押し付けるのもよくないな。わかった、ならばもう暫く俺が魔王代理を務めよう」


「ありがとうございます、サイ様!」



 そう告げると、しかめ面だった修羅に笑顔が戻った。

 次期魔王を担う者として、そこまで喜ばれるのも困りものだが、今回は大目に見てやろう。修羅もそうだが、皆にはこれからも強くなってもらわなければな。



「これからもよろしく頼む」


「「はい!!」」



 ◇◆◇



「私の聞き間違いか? ファウストが負けたと聞こえたんだが」


「聞き間違いではありません。ファウスト、並びにアンデット軍は全滅しました」



 魔王城の玉座に座る魔王。

真王吸血鬼ロード・オブ・ヴァンパイア】キュラソン・ヴァーニーは、配下からの報告に眉を顰めた。

 つまらない冗談だと聞き返したが、配下は淡々と真実を告げる。



「帝国からの侵略を守り続けてきたファウストとアンデット軍が、リョウマのいない死に体同然の雑魚共に負けたのか?」


「どうやらジャガーノートにやられたようです」


「なるほど……怪物の仕業か。とっくに消えたか再びに眠りについたと思っていたが、まだあの地に残っていたとはな。となれば、敵もただでは済まないだろう。ふっ、更地にでもなったか?」


「いえ、敵は無傷のようです。ジャガーノートはファウスト軍だけを攻撃したようです」


「何を言っている、あの怪物は敵味方関係なく無差別に破壊するんだぞ。もしや、リョウマが現れたのか?」



 ジャガーノートを手懐けられる者は魔王リョウマしかいない。

 ファウスト軍だけ攻撃されたのならば、リョウマが戻ってきた説が濃厚になる。主君の考えに同意するように配下も頷いた。



「ちっ、やってくれたなリョウマめ。一度姿を消して私を油断させたのか」


「それは違うと思います。彼の魔王は策略を練るタイプではありません。戦う意志があるのなら、本人とジャガーノートだけで攻め入ってくるでしょう。それだけの力を持っていますからね」


「……それもそうだな」


「どういたしましょうか」


「様子見だな。ファウストを失ったのは正直痛い。帝国の動きも気になる。ファウストの代わりは用意したが、念の為補強しておけ」


「かしこまりました」



 キュラソンに命じられた配下は、暗闇に溶けるように姿を消す。

 魔王はワイングラスを傾け一口だけ口に含むと、苛立ちを表すように握り潰した。



「ファウストが魔王になれば、二か所から帝国を盗りにいけたものを……この借りは高くつくぞ、リョウマ」



 ◇◆◇




「調べさせたところ、ファウスト軍が消えたのは間違いないようです。殿下、どういたしますか」


「うむ……」


 配下からの報告を聞いたクリフォード皇子は、考えるように腕を組んだ。


 人界に置いて、最も保有領土が大きい巨大軍事大国、ゼーラ帝国。


 その南西端にあり、魔王キュラソンが支配する領土と隣接する軍事拠点には、第五皇子・第八皇位継承者のクリフォードが大将として常駐していた。


 クリフォード軍は、アンデット軍を率いる【死霊王】ファウストを相手に、国土防衛と侵略行為を長年に渡り繰り返している。


 とはいっても、ここ数年はどちらも本気で領土を取りに行っている訳ではなく、小競り合い程度に収まっていた。


 何度倒しても復活してくるアンデット軍は厄介極まりなく、また大将であるファウストも恐るべき能力を有しているので攻略は困難。


 しかし、そのファウスト軍がつい最近になって大きな動きがあったらしい。

 全軍を動かして、魔王リョウマが支配する領土へと進軍していた。アンデット軍の代わりは配置されたが、今のところアンデット軍は帰還していない。



「憎きファウストがいないのは好機でしかないな。ここは様子見ではなく動く時だろう」


「慧眼です殿下、私も同じ意見です」


「ならば全軍に戦争の通達をしろ。魔界の領土を皇帝陛下ちちうえへの手土産にするぞ」


「はっ!」



 ファウストが居ないのを見て、クリフォードは侵略戦争に打って出る。


 魔王キュラソンの配下の介入によって侵略は中断してしまったが、千年に渡る膠着状態を破り、僅かだが魔界の領土を手に入れることに成功した。


 クリフォードによるその功績は、帝国全土に轟いたのだった。



 ◇◆◇



「魔王シノビ? なにそれ?」


「ハンター協会から広まっている噂だそうで、どうやら姿を消した魔王リョウマに代わって新しい魔王が誕生したようです」


「なにそれ、ヤバいじゃん」


「はい、ヤバいです」



 配下からの報告を聞いたスナック国王は、お菓子を食べていた手を止める。他人事のように口を開くと、配下も真顔で答えた。


 竜と共存している大国、ドラゴニス王国の南東に隣接しているカロリー王国は、吹けば飛ぶような小国である。


 小国ではあるが、高級品であるチョコの原料となるカカオや、様々な果物を栽培していたりと、特産物が豊富でそれなりに黒字経営を保っていた。


 因みにリズがサイの為に仕入れているのもカロリー王国産のチョコである。


 そんなお菓子の国であるカロリー王国に、何百年ぶりの危機が迫ろうとしていた。


 実はカロリー王国も、魔物が跋扈する大魔境に隣接している。が、隣接しているのは魔族にしては珍しい平和的な考えを持つ魔王リョウマが支配する領土だった。


 魔王リョウマは人界を侵略してこない。

 知恵のない魔物が時々襲ってくるだけだ。ドラゴニス王国のように『竜魔結界』がある訳ではないので、小規模の軍と冒険者ギルドに対応してもらっていた。


 大魔境と隣接してはいるがその程度のことで、魔王リョウマのお蔭で何百年と大きな戦いもなく平和に過ごしていられた。


 しかし、最近になって魔王リョウマが消えて新しい魔王が誕生したという噂をハンター協会が流しているらしい。


 ハンター協会は冒険者ギルドと違って国が認めている制度ではないが、各国も放置しているのでスナック国王も放置している。


 レアな物を手に入れてきて売ってくれるのは、人間の業欲を満たしてくれるから必要なのだそうだ。

 特に貴族の中で暗黙のルールとされていた。


 話が逸れてしまったが、とにかくハンター協会によるとリョウマが消えて新しい魔王が誕生してしまったそうだ。


 その魔王シノビとやらが他の魔王と同じように好戦的だったら、カロリー王国のような小国は一瞬で消し飛ばされてしまう。


 とどのつまり、国家存亡の一大事だった。



「どうしようモティ!? このままじゃ僕の国がクッキーのように粉々になっちゃうよ!」


「落ち着いてください陛下」


「バカなの!? これが落ち着いていられるか!」


「落ち着け!」


「ぐへっ!?」



 襟を握って揺らしてくるスナック王の大きな腹を、宰相のモティが拳をめり込ませる。やせ細った老人のパンチなのに、意外と力が強かった。



「僕、一応王様なんだけど……」


「そんなことより陛下。もしかしたら魔王シノビは魔王リョウマより平和主義者かもしれません」


「そんなことよりって……まぁいいや、何でそう思うんだよ」


「魔王シノビに直接会ったハンター達の噂によると、領土に近付くなと警告されたそうです。わざわざ警告するということは、新しい魔王も積極的に人界を侵略するような者ではないのでしょう」


「な~んだ、じゃあ今まで通り放っておけばいいんじゃん! やったね!」



 話を聞いて満面の笑顔を浮かべるスナック王は、食べかけのお菓子を手に取ろうとする。そんな愚王の頭をモティ宰相がハリセンでパーンと叩いた。



「痛った!? 何すんだよぅ、痛いじゃないか」


「やったね! じゃないでしょう陛下。そんな能天気なことを言っている場合ですか。これは間違いなく国家存亡の危機。今までのように静観するのではなく、手を打たねばなりません」


「手を打つって、こんな弱小国が魔王と戦える訳ないじゃん」


「戦う訳ではありません。こちらから接触し、友好関係を築くのです」


「友好関係? 魔族相手にかい?」


「はい。幸い、魔王シノビは平和主義なようですから。それに魔王リョウマのように放任主義でもなく積極的に他者と関わっていることから、話し合いを行える可能性は高いです」


「大丈夫かな~? 会った瞬間食べられたりしない?」


「わかりません、陛下は美味そうな見た目ですから……」


「そこは否定してよ……」


「冗談はさておき、手遅れになる前に王としてやるべきことをやりましょう。先祖が守ってきたこの国を滅ぼしたいのですか?」


「はぁ、分かったよ! やればいいんでしょう!」



 カロリー王国は魔王シノビと友好関係を築くことにした。

 モティ宰相が下した判断は、カロリー王国の今後に大きく影響を与えたのだった。



 ◇◆◇



「女王陛下!」


「あなたがそんな大声を出すなんて珍しいですね、何事ですか」



 王宮にある謁見の間の扉が、ドンッと大きな音を立てて開かれた。

 豪奢な衣服を身に着けた老人が、小走りで玉座に座っている者へと近づく。


 ドラゴニス王国第九十九代女王、アルミラ・ウル・ドラゴニスが問いかけると、宰相エイダンは険しい顔を浮かべてこう答えた。



「王女の中に“竜紋”が現れました」


「ついにこの時がやってきましたか……。それで、竜紋は誰に浮かんだのですか? マーガレットですか? それともコーネリアですか?」


「それが……」



 思い当たる娘の名を告げるアルミラ女王に、宰相エイダンは答え辛そうに口を開いた。



「竜紋が現れたのは、第三王女のオリアナ様なのです」





ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます!


これで第弐章は終わりです!

楽しんで頂けたでしょうか?


ここまでが物語の序章となっており、次章から忍びとしての本編となっております。


第参章は継承編となっております。

やっと正ヒロインが登場したり、忍びパートがありますので、楽しみにしていただけたらと思います!


誤字脱字報告ありがとうございます!

非常に助かっております!



ブクマ、いいね、評価ポイントありがとうございます!

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