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第参拾壱話 魔王軍大将 修羅

 



「ご、ご報告します! ゴースト隊は全滅! 並びにレギオン、ネクロマンサー、スカルジェネラル等の隊長格が軒並みやられています! アンデット軍は半壊……いえ壊滅寸前にまで陥っています!」


「馬鹿な……隊長格は全員がレベル100越えなのだぞ。それが悉く敗れるということは、敵も相応以上のレベルということだ。おかしい、この地は魔王リョウマ以外雑魚ではなかったというのか?」



 配下のリッチから戦況を報告されたファウストは、怒りを通り越して困惑していた。

 今頃は華麗な勝利を飾っていると考えていたが、それどころか無敵のアンデット軍団は壊滅状態にまで追い込まれている。


 その要因は、持っている情報の違いだろう。

 魔王リョウマが支配する領土には、たった一人の存在が他の魔王達を牽制できるほどの圧倒的な力を有したリョウマだけしか強い者はいないと聞いている。


 それにリョウマは配下も作らず、他の魔族や亜人は平穏を望む劣等種の雑魚ばかりな筈だ。


 ならリョウマなき今、何故返り討ちに合っている?

 考えられるとしたら魔王が飼い慣らしていた【破壊の権化】が健在だったことだが、依然として怪物は姿を見せていない。


 つまり、この地にいる者達だけにアンデット軍が破られているのだ。レベル100越えの配下を退けるほどの強者によって。


 元々強い種がいたのか……それとも短期間の間に強くなったのか。どちらも信じ難いが、現状を見る限り受け止めざるを得ない。



「どういたしますか、ファウスト様」


「お前とドラゴンゾンビを出す。それで終わらせろ」


「はっ! 必ずや、ファウスト様に勝利をもたらしましょう!」


「頼んだぞ」



 ファウストが命令を下すと、リッチがアンデットドラゴンを召喚して敵魔王軍に攻め入る。今まで調子に乗っていた敵兵も、リッチとアンデットゾンビの出現に慌てふためいていた。



「まさかリッチとドラゴンゾンビを出す羽目になるとはな……少々敵を侮っていたようだ。だが、あやつらが出た以上はお終いだ」



 勝ち誇った台詞を吐くファウスト。

 それもその筈で、リッチとドラゴンゾンビはファウストの右腕だ。共にレベル250越えと超強力で、あの二体を相手に立っていられる者はいない。


 まさかここまで追い詰められるとは思っていなかったが、不可解なこの戦争もようやく終わるだろう。



「さぁ、今度こそ貴様等の心地いい悲鳴を聞かせてくれ」



 ◇◆◇



「シュラ殿ー!」


「ナポレオン、戦況はどうなっている。詳しく教えてくれ」


「勿論ですぞ! シンゲン殿達の落とし穴作戦から始まり、他も順調に戦果を挙げていますぞ! タロス殿やゴップ殿、それにミコト殿やクレハ殿にスイゲツ殿も敵の将兵を撃破しております! それはもうこんな風に! トゥ、ヘア!」


「このままいけば勝利は目の前だろう。シュラの作戦が上手くいっている証拠だ」


「そうか、皆頑張ってくれているのか」



 戦場を眺めやすい高台に張ってある陣幕へ、ナポレオンを乗せたマサムネがやってくる。


 二人からの吉報を耳にした魔王軍大将のシュラは、深く息を吐いて安堵した。


 シュラがまずやったのは、鼠人そじん族とデアウルフ達に非戦闘員を避難させることと、敵軍の情報を知ることだった。


 敵の布陣を知ったシュラは、将棋の如く味方の兵を配置する。勿論、こちらが有利になるように。


 作戦という作戦ではないが、今のところ配置づけが面白いことに上手く嵌っている。これまで実践を通してサイから教えられてことが活かされていた。


 しかしこのまま勝てるほど甘くはないと考えているシュラは、気を引き締めるようにナポレオンとマサムネに告げる。



「まだファウストが出てきてない。奴を倒さなければ我等に勝利はないぞ」


「そ、それはそうですな」


「ああ、オレ達だって油断はしていない」


「報告! 報告します! 新たに現れたリッチとドラゴンゾンビによってわが軍が押し返されております! タロス様やクレハ様たちが応戦するも、苦戦している模様です!」



 突如、他の鼠人族とデアウルフが慌ててやってきて、新しい状況を報告してくる。それを聞いたシュラは、険しい顔を浮かべて口を開いた。



「ファウストもついに切り札をきってきたな」


「どうしましょう……タロス殿やクレハ殿で手に負える相手でないならば、サイ様のお力を貸しいただくことも……」



 シュラの顔色を窺いながら心配そうに意見するナポレオンに、シュラは「いや……」と言って、傍らに置いてある刀の鞘を手に取り立ち上がった。



「サイ様は我等だけで追い払えると信じてくださったのだ。我等を強くしてくれたのも、全てはこの時の為。ならば我等は、サイ様の期待に応えなければならない」


「シュラの思いはオレとて同じだが、どうする。このままでは不味いぞ」



 そう尋ねてくるマサムネに、シュラはこう返した。



「我が出る。お前達は自分の判断でサイ様に報告してくれ」



 ◇◆◇



「【多くの火球を放つ魔法(メニファボル)】」


「――っ!?」


「ミコト!」



 空中にいるリッチが、無防備のミコト目掛けて多数の火球を放つ。クレハは間に入り、腕をクロスして防御しミコトを守った。

 身体から煙が上がっているが、【金剛不壊】スキルのお蔭で見た目ほどのダメージはない。



「ク、クレハちゃん!」


「心配すんな、これくらい大したことねぇよ。それよりあの骸骨野郎、バカスカ上から攻撃しやがって!」



 自分を庇ったせいで傷を負ったクレハに心配するミコトだったが、クレハは心配させない為にも問題ないとはっきり告げる。

 そして、舌打ちをしながら空中にいるリッチを睨み付けた。


 リッチとは、高名な魔法使いや僧侶がアンデット化した魔族である。

 アンデット化した理由は偶然だったり呪いを受けたりと様々だが、永遠の命を求めて自らアンデットになることを望んだ者が多いだろう。


 人間の寿命は短い。

 この短い時間では魔法を探求できない。ならば、禁忌に触れてでも不死者になり永遠とわに魔法を突き詰めていきたい。


 そういう邪悪な考えを抱いてしまった高名な魔法使いの成れの果てがリッチなのだ。


 目の前にいるリッチも勿論強い。

 浮遊魔法で空中に浮かびながら、強力な魔法を撃ちまくってくる。空への攻撃手段がないクレハはミコトを守り、ミコトは【巫女】スキルによって強制成仏をさせようとするも、リッチの抵抗力を中々打ち破れない。


 唯一羽があって空を飛べるシンゲンが必死に攻撃を仕掛けているが、リッチは自らを覆うように強固な結界を張っていてダメージを与えられないでいた。


 シンゲンのスキルは敵に攻撃を与えないと発動しないので、まず結界を打ち破るしかないのだが、残念ながら彼の攻撃力では不可能。


 防戦一方を強いられているのはクレハ達だけではなく、ドラゴンゾンビを相手にしているタロス達も同じであった。



「ウヲヲヲヲッ!!」


「グウゥ、重い!」


「斬っても意味なしですか。いやはや困りましたな」


「この化物に弱点はないのか!? ぐぁ!」



 どの時代においても、生物界の頂点に君臨するドラゴン。


 力と誇りと知性を兼ね備えた最強の生物がアンデット化するなんてことはまず有り得ない。純真な身体を汚すのは、いつだって邪悪な心を持つ人間や魔族なのだ。


 ドラゴンゾンビは、リッチや黒魔法使いがドラゴンの死体を黒魔法によってアンデット化したものだった。

 元の魂は宿っていないが、肉体を汚され道具のように扱われるのは誠に遺憾だろう。


 生前とまではいかないにしても、最強種の一角だけにドラゴンゾンビは他者を圧倒する強さを誇っている。

 冒険者ギルドの討伐ランクでいえばSに値する魔物だ。



 そんなドラゴンゾンビと戦っているのはタロスとスイゲツとゴップなのだが、状況は芳しくなかった。巨躯のドラゴンゾンビは質量に比例して攻撃も重く、怪力のタロスでも受け止めるのに必死。


 スイゲツの剣技やゴッブの忍技もドラゴンゾンビには効いていない。腐っている肉を斬っても再生してしまうし、斬る度に剣が錆びてしまう。


 肉体のスペックだけでも厄介なのに、ドラゴンゾンビには吐息ブレスもある。生前のような灼熱の火炎ではないが、全てを腐蝕する吐息に触れればたちまち爛れて死んでしまう。


 仲間のキラーアント、ミノタウロスやゴブリン達もブレスを喰らって死んでしまった。



「フハハ、いつまで耐えられるかな?」


「ウヲヲヲヲヲッ!!」



 リッチとドラゴンゾンビは手強かった。

 伊達に【死霊王】リッチロードの右腕を担っている訳ではない。そんな二体の怪物を相手に、魔王軍の主力が脱落するのも時間の問題だった。


 ――だが、魔王軍にもまだこの男がいる。



渦雷ウズライ


「うぉぉ!? な、何だ!?」


「グゥヲヲヲヲヲ!?」



 突如、雷が迸る竜巻がリッチとドラゴンゾンビを襲った。

 結界に守られているリッチはもみくちゃにされ、ドラゴンゾンビは腐肉が焼け焦げている。


 クレハ達が必死になってもダメージを与えられなかった二体の怪物に、いとも容易くダメージを与えた。

 これほど強力な雷の攻撃を放てるのは、魔王軍には一人しかいない。



「皆、よくやってくれた。この二体は我が引き受ける」


「「シュラ(殿)!!」」



 仲間達の前に現れたのは、魔王軍大将のシュラだった。


 ボルゾイが仕上げてくれた侍風の鎧を身に纏い(兜はない)、右手には雷花ライカという名の大太刀を持っている。


 オーガからオーガキングに進化したことで見た目もより逞しくなっているが、靡く金髪に甘いマスクと顔立ちは二枚目。


 見た目もそうだが、以前の彼と違うのはその身から溢れ出す威厳と風格だろう。皆を纏めるリーダーとしての風格が身についていた。


 頼りになるシュラの参戦に、ミコト達の表情が柔らいだ。



「己、オーガ如きがやってくれたなァ! ゆけードラゴンゾンビ、そいつを踏み潰してしまえ!」


「ウヲヲヲヲッ!!」


「そんなノロマな攻撃が当たると思うか?」


「は、速い!? どこに消えた!?」


「ここだ」


「ぐぉおお!?」



 リッチから命じられたドラゴンゾンビが前脚でシュラを踏み潰そうとしたが、その場に彼の姿はなかった。


 姿を見失ったリッチが驚いている間にシュラが高速移動し、背後から斬撃を浴びせる。バチィンと結界に阻まれてしまったが、衝撃によってリッチは吹っ飛ばされてしまった。


 シュラが目にも止まらぬ速さで移動したからくりは、雷の特性によるものだった。


 雷攻撃の魅力は高威力だと思われがちだが、その強みは速さであるとサイから教えられた。さらに速さを活かすのは攻撃に限らず、他の手段としても扱える。


 自身の身体を一瞬だけ雷に変化させ、超高速移動を可能にした。この方法はサイやリズでも再現不可能で、【雷操作】スキルを有しているシュラだけが使える技である。


 サイの協力のもと編み出したこの技の名は“電光石火”。

 攻撃する時は実体化しなければならないが、瞬時に間合いを掌握できる技は強力だ。


 だが、シュラが編み出した技はこれだけではない。



「ブヲヲヲヲッ!!」


「腐蝕の吐息か。ならば自分に喰らうがいい、大颶風ダイグフウ!」


「グヲヲヲヲヲッ!?」


紫電閃シデンセンッ!」


「グヲヲ――……」



 ドラゴンゾンビが腐食のブレスを放つのに対し、シュラは左手を翳した。颶風を起こすとブレスを巻き込みながらドラゴンゾンビに浴びせる。


 自身が放った強烈な腐蝕を浴びて肉が解け、骨が露出したところで、シュラが紫電の斬撃波を放った。


 斬撃波によって真っ二つに引き裂かれたドラゴンゾンビの骨体は、ずぅぅん! と轟音を立てながら崩れ落ちる。


 この半年の修行期間で、シュラは雷だけではなく風も操れるようになった。


 シュラには風を操る素養もあるとサイに言われ、試行錯誤している内に操れるようになる。その時、【雷操作】が【疾風迅雷】というユニークスキルに進化したのだ。


 何故自分に風の素養があるとサイが分かったのかは不明だが、他の者達の力も引き出していることからサイにはきっとそういう力があるのだろう。


 兎に角、シュラは半年前よりも遥かに強くなっていた。



「馬鹿な……ドラゴンゾンビが鬼の王如きに破られるなど有り得ない!」


「次は貴様の番だ」


「笑わせるな! 貴様の攻撃が私に届くことはない!」


「なら試してみよう」


「その前に貴様を葬ってやる! 【黒炎を放つ魔法(ダグフェルム)】」



 いとも簡単にドラゴンゾンビがやられてしまった事に動揺するリッチに、シュラが刀の切っ先を向けて宣言する。


 彼の挑発に苛立ったリッチは、黒魔法による全てを燃やし尽くす黒炎を地上に向けて放った。



「大颶風」


「なっ!? 私の魔法がかき消されただと!?」


百雷ヒャクライ


「うぉおおおおお!?」



 シュラは颶風を起こし黒煙を消滅させる。

 さらに百発のいかずちを放ち、リッチに連打を浴びせる。ズドドドドドッ! と電撃を受ける度に結界が激しく揺れる。


 衝撃に耐えきれず、ついに強固な結界がパリンッとガラスのように砕け散ってしまった。


 その好機を逃さず、シュラは電光石火によって瞬時に間合いを詰めると、紫電を纏う刀を振り下ろした。



「紫電閃ッ!!」


「ふぁ、ファウスト様ァァアアアッ!!」



 紫電の斬撃を喰らったリッチは、主君の名を叫びながら跡形もなく消滅した。

 これにてアンデット軍の主力を倒したシュラは、仲間のもとに戻る。

 そして、遠くの空に座している【死霊王】を睨みつけた。



「あとは貴様だ、ファウスト」



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