故郷
人間誰だって、帰りたい時がある。
仕事が辛い時やそこでの人間関係が辛い時、素朴なものでは家族に会いたい時なんかもそうだ。
俺は帰りたかった。俺の故郷に。あの街に、あの光景に、あの家に。
しかし、たった五年故郷を訪れなかっただけで、あの場所は様変わりしていた。
田園風景が何処までも続いていたあの場所は、真ん中に大きな道を作り、その近くに小学校をこさえていた。
故郷にいた頃はいつも通っていた店は潰れ、随分とデカいスーパーがそこに居座っていた。
俺が通っていた小学校や中学校、そして高校もいつの間にか教員は皆知らない人しか居らず、知っていた人は全員いなくなっていた。
家へと続く道も変わっていた。あの明らかに通り辛かった道が廃止され、新しい道がそこに完成していた。
俺の知ってる故郷は、知っていた故郷は随分と変わってしまっていた。
唯一変わらなかったのは、実家だった。俺が生まれ、そこで育ち、出ていったあの家は、あの家だけは変わっていなかった。
あの家だけが、俺の故郷になっていた。でも俺は、家以外の、故郷を失ったんだ。