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恋の棘  作者: スミンズ
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8.北村颯斗

 金町さんの部屋はかなり片付いていた。だが話で聞いたようにベットの上にはペンギンの写真集とメイケイエールの写真集があった。僕は取り敢えず居心地が悪くて、部屋の隅で棒立ちになる。すると金町さんが「立ってないで座りなよ」とベットを指差した。僕は少し意識しながらベットに腰を掛ける。


 「取り敢えず、この空気が続くのも辛いから、早速やらない?」金町さんは僕の横に腰を掛けると言った。そうだね、と僕は返事した。自分でも分かるくらい声が震えていた。何とか緊張を押しきって、僕らはベットの上で正座をすると、自然にキスをした。


 「い、いや、やっぱこれ以上はダメだ!」僕はキスの後、唇を噛む。


 「え?」金町さんはキョトンとした顔をした。それはそうだ。すんでだった。しかし冷静になって考えたら準備不足だ。


 「避妊とか考えた?」僕がそう言うと金町さんは下を向いた。


 「しょ、正直やることしか考えてなかった」


 「まあ、僕も心が跳ねてたけど、なんの準備もないじゃないか。それはさすがに駄目だ。無責任なことをしようとしてごめん」


 すると金町さんも「こっちもごめん。浮き足立ってた」という。取り敢えず僕らは体制を元に戻し、ベットから起き上がった。まあ、キスをしたというだけでもだいぶ刺激的だった。ぼっとした頭をなんとか冷静に保とうとした。


 「と、取り敢えず気を取り直してゲームでもしよっか」金町さんはワイヤレスコントローラーを一つ渡してきた。テレビにはゲーム機が繋がれていた。


 「そうだね。学生らしくね」


 「学生らしくってなんだか知らないけど」と言って笑った。


 結局僕らはゲームで遊んだ。それだけだった。それだけだったけれど、僕は女子の部屋で二人っきりになってしまったのだ。これは正直この後の人生の自信になる。もう、彼女を愛するしかない。そんな義務感さえ感じた。


 「あ、あと一時間ぐらいで親が帰ってくる」ゲームに熱中していると金町さんはふと言った。


 「あ、そうか。それじゃ今日はこれで失礼しようかな」


 僕は持ってきた少ない荷物を纏める。そして立ち上がると金町さんが玄関まで送ってくれた。


 「じゃあね、金町さん」


 すると彼女は「ねえ」と言った。


 「な、なに?」


 「ハルって呼んでよ。颯斗」


 そう言ってモジモジとし始めた。そうだ。僕はずっと彼女を名字で呼んできた。照れ隠しに。でももうその必要はないんだ。


 「うん。じゃあね、ハル」僕は微笑んだ。



 道はもうだいぶ暗くなっていた。僕は少し歩を早めつつハルの家から遠ざかっていく。7時を回っても帰らないなんてしばらくぶりだった。急ぎながらハルの家の角を曲がると、ドンとなにかにぶつかった。それは男だった。


 「ご、ごめんなさい」反射的に返事をする。するとそこに立ってる男は「北村、北村、……」と不気味に呟いていた。なんだろうと思ってその男の顔を見た。すると、そいつは高橋だった。


 「な、なんでここに?」僕は急いで立ち上がった。すると高橋はぶら下げているポーチから、ナイフを取り出した。冗談だろうと思ったが高橋の顔は冗談じゃなかった。僕は身構えた。


 しかし、高橋は異常な早さで僕との間合いを取ってきた。そして、躊躇なく、ナイフを僕の胸に突き刺した。焼けるような痛みと、鋭い吐き気がした。まずい。死ぬ。


 だけども、この調子だと、高橋はこのままハルの家にいくかもしれない。きっとコイツはストーカーだ。すでにハルの家を知っている!


 僕は最後の力を振り絞った。まだ足は動く!


 近所の家から、キャーという悲鳴が聞こえてきた。ああ、目撃されたか。明日の報道で僕は有名人だな。そんなことを思いながら、高橋に襲いかかった。


 僕は冷静だった。すでにやや冷静を失っていた高橋から素早くナイフを奪い取る。


 そしてそのナイフを、僕も躊躇なく高橋の胸に刺し返した。


 「一緒に死にましょう?高橋先生」僕は有り余った力を振り絞って、倒れ混んだ高橋の胸を、同じく倒れ混んだまま、何度も何度も刺した。


 そして、僕の記憶はそこでぷっつりと途切れた。

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