7.金町春
突然の由の提案に私は動揺した。心の片隅では考えていたことだけどいざとなると緊張した。だが、由が仲間なら思いきってやっても良いのでは無いだろうか。好きを好きでありたい。その心は二人で共通だ。童貞がキモいとか、オタクがキモいとかもうそんなこと気にする必要も無くなる。私は頷いた。
「いいよ。もう抜けちゃおうよ。孤独になる訳じゃない。それに、あのグループの中にも私たちと同じように嫌気が刺してた人もいるかもしれない」
そう言うと由は笑った。
「だよね。そうしよう。私はただ本岡くんが好きなだけなんだって。あ、それは明日言わないけどね」
二人で笑いあった。北村くんは否定も肯定もしなかった。
「それにしてもさー、ハルさっきウマぴょい歌ってたけど知ってるの?」
由がそう言うと颯斗くんは「ガチ勢だったよ」という。すると由は「えー、マジか。私もウマ娘はやってるよ。しかしハルがガチ勢なんて、こんな近くにいるのに知らないことばっかだね」と笑う。
「ううん。これから知っていけばいいよ」と返した。
そう、これから知っていけばいい。由のこと、颯斗くんのこと、クラスメイトのこと。
「じゃあね」カフェの前で由と別れる。颯斗くんと二人きりになった。夕方5時。まだ夜までやや時間がある。ふと私は「これからどうしよう」なんて呟いた。
すると颯斗くんは予想外なことを呟いた。
「今日さ、金町さんが僕を襲おうとしたでしょ。そのときに僕、『したいとも思っていないんだけど』って言ったの覚えてる?」
「え、あ、うん。覚えてる……」襲っといて勝手だけどちょっとショックを受けてしまった。
「でもホントはしたくないわけない。好きだって言ってくれる人の裸は、観てみたい」まるで上の空のように言う。私はちょっと可笑しくなった。今までになく、颯斗くんがモジモジと可愛らしい顔をしていたからだろう。私は笑った。
「いいよ。今日さ、両親とも遠出してるから8時までは家に帰ってこないはずだから。一緒に行こうよ」
そう言って私は颯斗くんの腕を握った。私は颯斗くんに本気で好かれたい。
「うん」颯斗くんは少し緊張したように言った。まだ、ただの約束なのにまた股間が盛り上がってきた颯斗くんをみて、やっぱり可愛いなあなんて思った。