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【旧版】マレビト来たりてヘヴィメタる!  作者: 真野魚尾
第3章 三者三様

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第19話前編 流星群の幻惑(1)

 流星錘が左右から、風を切って飛来する。


 それらを時には避け、時には刀の鍔で弾いてやり過ごす。


 反撃の太刀筋が、吹けよ風、呼べよ嵐と唸りを上げる。


 精妙な足運びが白刃を擦り抜け、逆襲の円弧を描く。




 視界の隅では、女傑たちの飽くことなき応酬が繰り広げられている。


(あの流星錘の動き……よく見ると――おっと)


「よそ見しとる暇ぁないで!」


 正面に意識を戻せば、しなやかな剣先が今にも(けん)()を刺し貫こうとしていた。


 (モン)(ヨン)(ティン)――この少年道士が献慈の今戦うべき相手だ。


(迷いのない剣筋……位置取りの確かさ……この相手は――)


 異能の眼――〈トリックアイ〉のおかげで攻撃は見えている。


 そして同時に()えてもいた。付け入る隙の無さまでもが、皮肉にも。


(――〝本物〟だ)


 右手に軟剣、左手は剣訣(けんけつ)――人差し指と中指を伸ばし剣の形とした構え――を結び、足運びも常に有利な間合いを維持している。永定の動きは、正式に武術を学んだ者のそれであった。


「逃げてェ! ばっかしやァ! 勝たれへんぞッ!」


 今はまだ無傷、されどそれとて時間の問題だ。


「ク……ッ、うぁ……ッ、ぶな……っ」


 後退に次ぐ後退。体力が尽きるのが先か、丘の崖っぷちに達するのが先か。


(逃げるなら――とことんだ!)


 突き出された敵の剣身を、杖の金属部分で弾き返す、(かしわ)()直伝の〈(ははき)()〉の型だ。


「おぉ……っ!?」


 体勢を崩す永定に、献慈は大きく回り込みをかける。目指す先は崖の反対側、逆に相手をどん詰まりへと追い込む――はずだった。


「ハイ、ドォ――ン!!」


 踏み下ろされた永定の震脚が、大地に波紋を起こしたかのような錯覚に陥る。


 事実、走り出した献慈の足首は砂に呑まれ、今にもバランスを崩そうとしていた。


(砂……だって――?)


 すんでのところで杖を立て、ぐるりと向き直る。献慈の視界を迎えたのは、一面に広がる砂地であった。


 その中心に立っていたのは、ほかでもない。


「逃がすも逃さへんもボクの〈土遁〉次第や――憶えとけッ!」


 永定は剣先で砂をすくい上げ、こちらへ向けて弾き飛ばした。撓る剣身は強靭なバネと化し、侮れぬ威力をもって砂塵の刃を射出する。


「(これは躱せ――)う……っ!!」


 献慈の肩口を鋭い痛みが襲う。切り裂かれた服に血が滲んだ。


「〈沙英剣〉ッ!」


 間を置かず永定の攻撃が襲い来る。今度は膝だ。


「づぅ……っ!」


 見えているのに躱せない。踏み出そうにも沈み込む砂に足を取られ、思うように動けないのだ。


 逆に相手は軽功――内功の応用技術である――を用いた身軽さで、足場の悪さを物ともしていない。


 立て続けに第三波、第四波。皮膚が裂ける痛みに、献慈は身をすくませる。


「クッ……〈ペインキル〉!」


 治りの早さからして見た目ほどの殺傷力はないようだ。


 だからといって、このまま持久戦を挑むのは悪手だ。弾丸は敵の足元に無尽蔵に積まれているのだから。


「どうしたァ! 逃げると立ち止まるしか能がないんか、ワレェ!」


(今……今、決断しないと――)


 吹き荒ぶ砂の嵐が幾度も心を挫こうとする。


 だが献慈にはわかっていた。退くと進む、まだ選択の生きている今こそが、立ち向かう時なのだと。


(――前に進まなきゃならないんだ!)


「……ぬぉっ!?」


 防御をかなぐり捨て、杖を頼りにおぼつかぬ砂の上を最短距離で突き進む。向かい来る砂刃は何度も手足を掠めたがお構いなしだ。


 なぜならば、


(……やっぱりそうだ。一度も胴体を狙って来ない。こいつには俺を殺す気なんて端からないんだ)


 相手は自分を弱腰と侮っている。その甘さに、付け込ませてもらう。


「何やねんワレェええぇ!! ちっとは怖がるとかしろやァああぁ!!」


「うぅるせぇええ――――ッ!!」


 出会い頭の小手打ちで剣を叩き落とす。


「いだっ!」


「あ、ごめ……じゃなくて、今は我慢しろコラァ――ッ!!」


 未熟者は未熟者らしく、泥臭く勝ちにいく。


 得物をかなぐり捨て、懐へ飛び込む。がっぷり四つ。崖を背にした相手は土俵際。あとはこのまま押し切るだけだ。


「ぐがが……ッ、わ、ワレェ、正気か……!?」


 実のところ献慈は知っていた。崖の下は先ほど澪と通って来た道だ。見上げた高さも大したことはなく、落下しても軽傷で済むはずだ。


 腰を落とし、力の限り、押して、押して、押しまくる。


「いぃ寄り切りィいい、ぅおぉいちばぁああァ――――ん!!」


「ほげぇえええェ――――ッッ!!」


 ついには断崖を踏み越え、永定もろとも滑り落ちる。


 その狙い自体は、確かに達成はできた。


(やった…………あれ? 思ったより…………めっちゃ高くね……!?)


 落「下」枝に帰らず。上から見下ろす崖下は、想定よりも遠く――。

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