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【旧版】マレビト来たりてヘヴィメタる!  作者: 真野魚尾
第7章 再会

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第49話 かわいいよ(2)

 雀荘をあとにするや、(ヨン)(ティン)は大きく伸びをした。


「んあ~……もうそろそろ来とる頃かもしらんな」


 献慈は「そうだね」と、広場の時計を一瞥する。


「待ち合わせ場所、あっちでよかったよね?」


「おぅ。しっかし献坊が麻雀知っとって助かったで。ええ時間潰しなったわ。ルールどこで憶えたん?」


 連れ立って歩く、献慈の歩みが自然と緩みだす。


「(ゲーセンの脱衣麻雀とか、どう説明すれば……)いや、まぁ、いろいろと……」


「何やワレ、まだ緊張しとるんか? たしかに店員のネーチャン、二人とも可愛(かい)らしかったもんなぁ……ふへへ」


 小突かれた勢いで、献慈は近くの露店にうっかり突っ込んでいきそうになる。


「べ、べつにそういうわけじゃ……俺は澪姉ひと筋だし」


「わーとるて、冗談や。何しろ今からカノジョの晴れ姿、お出迎えするんやしな」


 献慈を追って、永定も広場の脇へ寄る。ちょうど、アクセサリーなどを売る露店の真ん前だ。


「付き合いだしてから初めての約束だし、やっぱ守らないと」


「かぁ~っ、お熱いこっちゃで。何やったらワレも対抗してオシャレ決め込んでみるんとかどないや? 例えばこうゆう……おっちゃん、コレいくら?」


 ディスプレイに飾られた適当な伊達眼鏡を、永定は露天商の言い値で購入する。


「羽振りいいなぁ。麻雀勝ち越してたせい?」


「まぁな。アネキさえおらんかったらボクかてそこそこ――お、噂をすればや」


 眼鏡越しに献慈を見返す永定の視線が、不意に横へと逸れた。


 つられて献慈も後ろを振り向く。女子組の到着だ。


「二人とも、お待たせ~」


 先頭を切ってやって来るのは、ラリッサ。その真後ろに身を隠す長身の影を、永和(ヨンホァ)が面倒そうに引っ張り出す。


「ほれ、しゃんとしぃ」




 ――私のお洋服姿、見たかったとか……?




 ――うん。楽しみにしてるよ。




「献慈……私、変じゃない……?」


 さりげなく着けたヘアピンが、普段は前髪に隠れた額をさらけ出させていた。


 袖なしのロングワンピース、花柄を散りばめた寒色系のパステルカラーが涼しげな風合いを演出している。サンダルを履いた足元も、ペディキュアとの色合わせまでが抜かりない。


 澪の新鮮な一面を目の当たりに、献慈は自分の頬が緩むのを抑えられなかった。


「ぜっ、ぜんぜん! すっごく……か、かわいいよ」


「そ、そんなの、初めて言われた……」


 広めの肩幅を気にしてか、身をすぼめる仕草がいじらしい。


 どぎまぎする献慈の背中を、永定がポンポンと叩く。


 コーディネイトに一役買ったラリッサも誇らしげだ。


 そんな中ただ一人、永和だけが不満をにじませている。


「はぁー……無難すぎておもんないわー。やっぱし最初ウチが選んだった服でよかったんちゃう?」


 直ちに食ってかかる、澪。


「あんなお尻丸出しの穿けるわけないじゃない!」


(丸出しいぃィ――ッ!? き、気になる……)


 妄想が爆発寸前の献慈へ、ラリッサから声がかかった。


「献慈くんは何しよったん? ついでに永定くんも」


「ワシゃついでかい! まぁ見てみ。けっこうシャレとるやろ?」


 永定は買ったばかりの伊達眼鏡を掛け、したり顔でポーズを取る。


 その感想は――彼の姉に譲るとしよう。


「自分……ほんまメガネ似合わんよな。知性のカケラも感じひんわ」


「ほっとけや! ちゅうかカケラぐらいあるやろ! いや、カケラって何や! ぎょうさんあるっちゅうねん、知性ェ!」


「(痴性なら……)いや、うん」


 献慈は控えめに反応するも、絡まれるのは避けられない。


「おぅ、何やその目ェ! せやったら献坊、ワレがかけてみぃ」


「ん……メガネとか、久々だなぁ(っても伊達だけど)」


 渡された眼鏡を献慈が何気なく装着するや、


「――はぅわぁああぁ~っ!!」


 冷水でも浴びせかけられたかのような声を上げたのは、澪であった。


「え? えっ? な、何か俺、おかしかった?」


「ち、ちちち、違ぁうのぉ……おかしいとかじゃ、なっ、くて……」


(と言いつつ後ずさりするのはなぜ……?)


 戸惑う献慈を置いて、澪はラリッサに身を寄せると、彼女に何事か耳打ちしている。


「んっ? なになに……献慈くん、普段は可愛いげなけど? メガネ掛けよると? ぶちカッコよう見えるけ、ギャップでときめいて……」


「いちいち復唱しなくていいからぁ!」


 こうして面と向かって容姿を褒められるのは、献慈にとってほぼ初めての経験だ。しかもその相手が澪だというのが、どうにも気恥ずかしく、身の置き所がない。


「あの……永定くん、これ――」


 献慈は眼鏡を返そうとするも、拒まれる。


「ええわソレ、献坊にやるわ……人の目の前でノロケくさりよって。あーアホらし」


「(すねちゃった……)そ、そう……ありがと」


 断るのも余計に面倒な気がして、有り難く受け取ることにした。


 一方、永和は熱狂する澪を不思議そうに見澄ましていた。


「澪ちゃんもこの一月でえらい変わりようやね。初めは献ちゃんこと『弟分』やとかごまかしとったんが嘘みたいやわ」


「あ、あれはその……あの時はまだ、献慈の気持ちとか知らなかったから……」


「ほー。勝ち目ない勝負はせぇへんっちゅうわけや。ほんまコスい女やわぁ」


「あなたに言われたくない! 当てつけのために献慈に、さ……触らせたり(小声)……とかしたくせにぃ!」


 澪は顔を真っ赤に、今にも噛みつかんばかりだ。もはやこの構図も何度目であろうか。


 ここでフォローどころか、さらなる面倒を招くのが永和らしい。


「まーたその話かいな。もしかしてアンタ、ほんまは自分が触りたかったんとちゃうん?」


「え……えぇっ!? な、なな、何でそうなるのォーッ!?」


「何でて……えらいこだわりよるさけ、てっきりウチのカラダ狙とるんかと――」


「ねぇねぇ、二人で何の話しよるん?」


 ラリッサが割って入ったことが、さらなる混乱の引き金となる。


「ちょうどよかったわ。リッサちゃん、この辺に休憩できる場所知らん?」


「きゅ……そ、そこまで本格的なのはっ! 求めっ……」


「う、うち、そーゆー経験とかないし……でも待って。サークルの子話しとったん思い出すけぇ、たしか……」


「リッサも真面目に答えなくていいからぁ!」


 女子三人寄れば大狂乱の渦が巻く。怖気づく献慈の足は自然と後ずさりを始めていた。


「お……女の子は過激な話が好きだよね……」


 だが、同意を求めたはずの男子が、必ずしも味方とは限らないのである。


「何を言うとんねん! ボクらに比べたら大したことないやろ!」


「えっ!?」


「出会うたその日に組んずほぐれつ、挙げ句の果てに自分、プロポーズまでかましよったん忘れたんか?」


「何で張り合おうとしてんの!? ってか、後半は誤解――」


 献慈は永定の暴走を制しようとするも、時すでに遅し。


「献慈……その話、もうちょっと詳しく聞かせてくれないかなぁ……?」


 引きつった微笑を引っ提げ迫り来る澪の影に、単なる嫉妬とは別種の仄暗い情念を感じたのは、はたして献慈の錯覚であろうか。


「ですから、その……誤解……」


 反論の声も虚しくかき消される。


「弟もう一人増えるんかー。兄やんに報告せなあかんなぁ」


「休憩できるとこ、教えちゃったほうがええ?」


 永和とラリッサまでが加わり、退路を断たれた献慈に残された道はただ一つ。


「うん! そうだね! 落ち着けるとこ行って、一度みんなで話し合おっか!」


 やけっぱちである。

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