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【旧版】マレビト来たりてヘヴィメタる!  作者: 真野魚尾
第7章 再会

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第47話 澪標(3)

 献慈と澪、そしてラリッサと、三角形の位置に席へ着く。


 上品なマホガニー製のトレイを手に円卓のそばに立つのは、垂れ耳で小柄なガルー族のメイドである。


「こちらのティーセットは陶磁器で名高い帝国・ニーダーティース州カンタン産の逸品、使用茶葉は公国産の香り高き灰色印(グレイシール)にございまぁす」


 愛嬌を振りまきながら、メイドは紅茶の注がれたカップを献慈たちの前に置いた。


 なお、実際に茶を注いでいるのは執事のハーディである。


「馨様がお気に入りでいらした香りです。存分にご堪能ください」


「まずはストレートでお召し上がりいただいてぇ、後ほどお菓子をご用意しますのでぇ、ロイヤルミルクティーとご一緒にご賞味くださぁい」


 子犬のようにまとわりついてくるメイドを、


「こんなぁ邪魔じゃけぇ、早よ仕事に戻りんさいよー」


 ラリッサが素っ気なく突き放す。


「はぁい。どんなお客さまなのかぁ、気になって見に来ただけなんでぇ、すぐに戻りまぁす」


(自由だなぁ……放し飼いなのかなぁ!?)


 端から給仕担当ですらなかった犬っ娘メイドを、献慈はツッコミをぐっと堪えながら送り出した。


 それと入れ違いに、彼女の同僚――先ほどの大柄なメイドが入室して来る。


「お菓子をお持ちいたしました」


 熊っ娘メイドが押してきたワゴンには、何やら一口サイズのお菓子がたくさん、複数の皿の上にうず高く盛られている。


「ヒトデまんじゅう、ぶち美味しいけぇね。ようけ食べんさい」


 その場の誰よりも率先して、ラリッサがまんじゅうを振る舞いだした。その名に違わず、五角形のヒトデを模したカステラ生地の焼き菓子である。


「何だろ……どっかで見たような……(修学旅行先とかで)」


「左様でございますか。このヒトデまんじゅうは馨様のアイディアを元に作り上げたお菓子でして、現在はここエイラズーの名産品として好評を博しております」


 ハーディは誇らしげに語った。


(真田さん……何やってんの……?)


「うちのママが会社起こして全国にまで広めたんよ。今ちょうど海外展開(ねろ)うててなー、リュゴーの方まで営業行きよるけぇ、家にはおらんけど」


 ラリッサは自分が社長令嬢であることをサラリと告白した。道理でこの立派なお屋敷の様相である。


「そうですか。てっきり道場のほうが賑わっているものとばかり……」


「道場なー、お兄ぃが会計士じゃけぇ、そっち任せとるんよ。うちはうちで来年、大学卒業したら本格的にパパの跡継ぐつもり。烈士なるん夢じゃったけぇね」


 そう言われて、彼女の中指にも『星辰戒指(リング・オブ・スター)』がさりげなく光っていたことに気づく。


「へぇ……(情報量多い家族だな……)ラリッサさんも烈士だってさ、澪姉」


「そうなんだー……もぐもぐ……だからこんなに美味しいんだねー」


 話を振るも、澪はヒトデまんじゅうをむさぼり食べるのに夢中であった。


(ぜんぜん聞いてない……)


「ほうなんよー。うちのオススメはなー、こっちの新商品でなー……」


「ホントだぁ! お茶とぴったり合う!」


(……って、何か話通じてるし!)


 すっかり意気投合した娘たちは、早くも周囲を置き去りに仲良し空間を展開していた。


(会いに来たの俺なのに……淋しい)


 取り残された献慈は、苦し紛れに執事へ泣きついた。


「ハーディさん、ところで先ほどの件ですが……」


 「先ほどの件」とは、馨より託された業物・澪標の扱いについてだ。澪の手に預けるのはいいとしても、保管用の白鞘のままでは実戦にはそぐわない。


「仰せの件でしたら入山様、このあと安仁(あに)(ぼう)に行かれてはいかがでしょう」


「安仁ノ房? ですか」


「はい。澪標を生み出した刀工・天玲が籍を置く工房でございます。マシャド家も代々懇意にしておりますゆえ、そこで(おお)曽根(そね)様に合わせた(こしら)えを新調されるのがよろしいかと存じます」


 ハーディの提案に献慈はうなずきかけるも、理性が待ったをかける。


(予算どのぐらいなんだろ……)


「はいはーい! うち、工房まで案内しちゃるー!」


 いつの間にか割り込んできたラリッサが、元気に主張する。


「でしたらお嬢様に同行をお任せいたしましょう。それとお見積りですが心配はございません。いずれ譲渡することを想定して予算を確保しておりましたので」


 マシャド家の、はたまたハーディという執事の手際の良さには、献慈も素直に唸らされる。馨との縁を尊重するならば、ここまでの厚意を固辞する理由は見当たらない。


 となれば、残る問題はただ一つだ。


「ときに入山様、エイラズーへのご滞在はいつまでのご予定でいらっしゃいますか?」


 ライナーから譲り受けた旅行券は三泊五日分。素人考えでも、刀の拵えを一から新調するにはあまりに時間不足だ。


 しかしハーディの説明を聞く限りでは、その心配も無用だった。


 安仁ノ房は元々、刀の外装全般を扱う職人集団を母体としている。こと拵えの制作に関しては徹底した効率化がなされており、現在では既製の部品を組み合わせて調整、カスタマイズする方式が採用されている。


 ゆえに数日あれば、実用的にも見栄え的にも充分な代物が完成することだろう。


「予定、一日延ばそっか? 元々『一週間ぐらい』ってみんなにも言ってあるし」


「そうだね。俺は構わないよ」


 ふたりのやり取りを前に、息を荒げる者がいる。


「じゃったら明日、ふたりともうちに付き合うてくれん?」


「何か用事?」


 まんじゅうを口に放り込みながら澪が尋ね返すと、ラリッサは白い歯を見せて答えた。


「遊び行く決まっとるじゃん」

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