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【旧版】マレビト来たりてヘヴィメタる!  作者: 真野魚尾
第5章 しるし

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第37話 予行演習(2)

 そうして一同が宿の方へ引き返して来た矢先だった。


「はぁ~……ホント食えないオッサンだよ」


 開口一番、悪態をつくカミーユを、例によってライナーがたしなめる。


「カミーユ、娘さんの前でそれはいかがなものかと」


「いいのいいの」と、澪。「実際、私たちを出し抜こうとしたのにはムカッときたし」


「でも最後にミオ姉が一本取ってくれたから、おあいこだよね?」


「その前に献慈が男を見せてくれたから、私たちの勝ちだもん」


 澪は献慈の手を取り、したり顔でカミーユにアピールする。


 すかさず返ってくる、苦い顔。


「まったく……このバカップルは……」


「えっ、それって俺も含まれんの?」


「ちょっと献慈! 私だけおバカ扱いしないでくれる?」


「ハハ……これはますます仲が深まったみたいですね」


 和やかに沸く四人を、輪の外から静観していたシグヴァルドが暇を告げる。


「さぁて……そいじゃ新人のおふたりは先輩方にお任せして、オレぁ仕事に戻るとするかな」


「シグヴァルドさん、今回もいろいろとお世話になりました」


 献慈はその背中へ礼を述べた。


「なぁに、これも仕事のうちだってよ」


「……貴方は、本当にただのアルバイトなんですか?」


「ただのバイトじゃあないぜ?」


「……! それじゃ、やっぱり……」


「組合の受付業務をよく任されるバイトさ」


 そう言い残し、シグヴァルドは颯爽と店の奥へ消えて行った。


(……そのまんまじゃん……)


「献慈って、あの人とずいぶん仲いいんだねー」


 澪らしからぬ冷やかしが献慈を狼狽えさせる。


「えっ? べ、べつに、普通だと思うけどなー」


「……なぁんてね。仕方ないよねー。献慈、可愛いもん」


(それって喜んでいいのか……?)


 複雑な心中で立ち尽していると、横からカミーユまでが茶々を入れてくる。


「モテ期到来だねぇ、ケンジ。嫉妬には気をつけなよ?」


「カミーユまでやめてくれ……。というか、言いそびれてたんだけど」


「何? 改まって」


「今さらだけど、ありがとう、カミーユ。今回の討伐騒ぎに、俺や澪姉を巻き込まないように気を遣ってくれてさ」


「だからそ、それは……言ったでしょ? 戦力的に不安があったからだって……それに、結果的には無駄になっちゃったわけだし……」


 たちまちカミーユは歯切れが悪くなる。


 そんな彼女を上手に言いくるめるライナーの手腕は堂に入っている。


「僕が言えた立場ではありませんが……カミーユ、烈士の先輩として、ここは素直に受け取っておきましょう?」


「なるほどな……わかった。後輩たちを危険から守るのも、先輩としての努めだからな。今後はちゃんと気合い入れて臨むんだぞ? いいなっ?」


「ハイッ、カミーユ先輩」澪は小気味よく応じつつ、「それと、ライナー先輩」もう一人へも迫る。


「どうしました? ミオさん」


「私、あなたたちを利用するつもりとか、ないから」


「…………」


「期待もしてない。でも――信頼はしてる」


「……そうですか」


「なのでっ」澪の手が献慈の袖を掴み、ぐっと引き寄せる。「献慈ともども、よろしくお願いします!」


 照れくさく苦笑いする献慈をよそに、澪とカミーユは屈託なく笑みを交わし合う。そんな二人を、どこか憂愁を帯びた笑顔でライナーが見守っている。


 緊張感など、どこ吹く風といった風情だ。それは、自分たちがこの先向かおうとする苦難を思えば、決して似つかわしいものではなかったかもしれない。


 だがそれでも献慈は、今だけは、この光景を噛み締めていたいと、強く願うのだった。


 左手中指に宿した、決意の証を見つめながら。

お読みいただきありがとうございます。

次章は新たな旅立ち、新たな土地、新たな出会い。

よろしければ引き続きお付き合いください。

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