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【勇者】の息子は、【勇者】を探す  作者: ひまひまひまーる
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プロローグ



 その男の人生は、一言で言うと【憐れ】であった。


 男は【勇者】だ。


 皆からは称賛される程の【勇者】であり、この世で一人しか居ない大英雄である。もし、この世に新しい神話が何なのかと問われればこの【勇者】の伝説と偉業の数々。


 しかし、【勇者】本人としては【呪い】だ。


 【勇者】としての役目は、余りにも濃く過ぎた。


 それ故に、日々彼の精神は磨り減るばかり。


 【勇者】とは、【万能なる者】。


 他者の力を必要とせず、ただ一人だけで人類の敵を悉く討ち取った。中には公表していないだけで、見逃した敵もいたのだ。


 【勇者】は愛される存在だ。


 同時に【勇者】は忌み嫌われる存在でもある。


 【勇者】である彼には、幼馴染みがいた。義妹がいた。共に剣を交え、背を許せる騎士がいた。常に慕ってくれた王女がいた。姉のような親愛を抱いた魔法使いがいた。


 行く行くは、その誰かと夫婦となる未来はあったかもしれない。いや、その五人と結ばれいた方が可能性があっただろう。


 ―――――――いや、そんな事はあり得ない。


 何故なら(・・・・)彼は(・・)勇者(・・)なのだ(・・・)


 よくある政治的な話だ。


 彼女ら五人は、【勇者】と結ばれることは無かった。


 そして、【勇者】は追放される様に辺境の地へ追いやられてしまったのだ。


 しかし、それは仕方がない話だ。


 【勇者】は、人を超越した存在。人ならざる存在だ。そんな強大な力を有するが故に、人々から恐れられた。


 王も貴族達も、【勇者】には感謝しているのだ。それも心から――――――――だが、そんな力を持つ存在が同じ人の国にいる事を恐れてしまう。その恐怖は、人から人へ感染していき、彼女達の親族までにも及んでいった。


 娘を想うが故、だったのだろう。


 彼女達の親族は、【勇者】との恋を断ち切る様に仕向け、合作した。それは親の自分勝手ではあるものの、確かにそこに愛はあったのかもしれない。


 幼馴染みの彼女の親は農民だ。そして義妹の親、つまり【勇者】の義両親も同じで彼等は国の一部貴族の上層部から、農民から【勇者】の子を産ますのは面白く無かったのか、結ばれぬ様に脅迫したのだ。農民の彼等は、それに従う他ない。


 騎士の両親は、彼女を愛していたのだろう。【勇者】の妻となれば危険な目に合う可能性が高いと強引に婚約者と結ばせた。


 王女に関しては王妃が【勇者】との婚姻を許していたが、他国の妨害により【勇者】の不祥事を捏造させて【勇者】の信頼を失墜された為にそれが成し遂げられることは無かった。


 魔法使いも同様、唯でさえ大魔法使いと称される王国最強の魔法使いと【勇者】が結ばれる事をよく思わない敵国からの介入。そして彼女の妹達が危険に晒されると察した為、自ら身を引いたのだ。


 国の、大陸の大英雄である【勇者】は己の立場を理解しつつ大人しく辺境の地へ追放された。そして、彼は己が【勇者】であることを呪ったのだ。


 【勇者】などに、ならなければよかったと。


 しかし、追放された【勇者】を野放しにする国と他国ではない。【勇者】を兵器として利用しようと考えた国の上層部と他国は【勇者】を引き込む、それを阻止する動きがあった。


 己が戦いの火種だと理解した【勇者】は辺境の地から更に最果ての森へ身を隠す事になる。その最果ての森は名前は無く、ただ人が立ち寄らぬ深い森だ。そこで【勇者】は身を隠して生活することにある。


 ある時、村から無実の罪で追放されたエルフが【勇者】と出会った。二人共、似た者同士で運命を感じたのか互いに惹かれ合う。そして二人の間に子供が産まれたのだ。


 しかし、出産の際に伴侶のエルフは力尽きこの世を去った。


 【勇者】は悲しんだ。そして更に己が【勇者】である事を呪った。


 老いることも、死ぬ事も出来ない彼にとって最悪な呪い。彼は死を望んでいた。だが、【勇者】であるが故に自死すら出来ない。


 だが、唯一【勇者】を捨てる事が出来る事を知っていた。


 簡単だ。


 誰かに、この呪いを(・・・・・)押し付ければいい(・・・・・・・・)。しかし、誰でもいい訳ではないのだ。


 力と器。


 それが極めて高い者にしか譲渡することが出来ない。かつて、彼はこの【勇者(呪い)】を他者へ押し付けようとしたのだが誰もその資格を有していなかった。



 だが、その力と器を有するかもしれない存在が一人――――――己の腕の中にいる。



 彼女が遺した忘れ形見。そして親として最低な事を考えているのは分かっていた。だが、彼はこの【勇者(呪縛)】から解放されたかったのだ。そして、妻の元へ――――――。


 彼は息子に、次期【勇者】として鍛えに鍛え上げた。


 父親と息子ではない。


 師と弟子として。


 子はすくすくと育ち、己が【勇者】になると理解していた。何も【勇者】になることに疑問も抱かず、強くなっていく。


 子は妻に似て、美しく綺麗になっていた。目は妻と同じ金眼、髪色は父と同じ黒。更には左腕に黒い紋様が刻まれていた。入墨ではなく、痣のようなもの。明らかに【勇者】の息子だと判断できるものだ。


 そして12歳の誕生日を迎えた際、息子は【勇者】という力を引き継げる力と器を有していた。今では父である【勇者】が本気を出しても着いてこれる程の体力、忍耐力を有している。


 【勇者】は思う。


 恐らく、息子は己よりもポテンシャルが高いと瞬時に理解した。


 そして、【勇者】である彼は決意した。


 この【勇者(呪い)】を―――――――。

 

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