第2話 オシャレと嫉妬
出会ってから三ヶ月経ち凛花先輩と一緒にいることが多くなった。先輩のことを信じていなかった僕だけど、明らかに不幸な目に会う回数が少なくなっていた。
先輩といる時なんてむしろ幸せな出来事がたくさん起こった。
「言っていたことって本当だったんですね。」
「……なんのことかしら?」
「あくりょ」
「あー!握力が男と変わらないくらいあるって話ね!」
「……そんな話した記憶ありませんけど、、。」
「迫力のある映画のオススメはどれって言われてもなぁ。」
「いや言ってませんよ!?悪霊ですよ悪霊。」
「なーんだ。勿体ぶることないじゃない。」
「勝手に話を遮ったのは先輩の方でしょう!!」
「ごめんごめん。そんなに怒らないの。」
「僕始めは信じてなくて、、でも先輩といるとあからさまにこれまで過ごしてきた人生と周りが違うんです。」
「え、なに、告白?」
「違いますよ!!先輩にお礼が言いたくて。大学の間だけでも幸せな生活が送れて凄く感謝してます。」
「……。」
「そしてどうしても聞きたいことがありまして、、。」
「質問を許可するわ!」
「時折キャラがブレてません?まあいいですけど。僕に取り憑いてる悪霊ってどんな姿をしてるんですか?」
「あー……。んー……。知らない方がいいと思うなぁ。」
「そんなやばい見た目してるんですか?!」
「だって悪霊だよ……?色んな悪霊見てきたけど君のは珍しいよ。……とても。」
「ますます気になるんですけど。」
「まあ気が向いたら教えてあげるね。」
「……わかりました。」
「私からも一つ聞いてもいいかな?」
「いいですよ。」
「大学だけでいいの?」
「え?どういう意味です?」
「幸せな生活を送れるのが大学の間だけでいいの?って聞いてるのよ。」
「……?」
「鈍いわね、、。卒業してからも幸せな生活送りたくないの?」
「そりゃ送れるなら送りたいですよ!でもあと三年すれば先輩卒業じゃないですか……。」
「そうだけれども。」
「これまでの年数考えたら三年間不幸が訪れにくくなるだけでも僕は嬉しくて嬉しくて。」
あーなるほど。この後輩は幸せなことが無さすぎて、不幸じゃないことが幸せだと思っているのか。
「久志君。」
「は、はい。」
「不幸の反対は?」
「幸福でしょうか。」
「ではその意味を教えて頂戴。」
「不幸ではないこと。的なニュアンスだと思ってます。」
「ブブー。はずれー!」
「えー、、正解は?」
「幸せなこと。」
「別に僕のも間違いでは無いんじゃ……。」
「分かりやすく説明してあげるわ。ここに私と君、二人の人間がいるわね。」
「はい。」
「私は何もしていない時幸せメーターがプラマイゼロなの。」
「幸せメーターってなんですか?」
「そのままの意味よ。どれだけ幸せと感じているか表すメーターを勝手に作ったわ。」
「なるほど。」
「次に久志君の幸せメーターは何もしていない時マイナス50なの。」
「ええ?!僕何かしましたっけ。」
「何もしていないと悪霊が悪さをするからね。可哀想な久志君。」
「で、でも今は先輩がいます!」
「二人揃った時私の幸せメーターはプラス50になるわ。そして久志君はプラマイゼロになるの。」
「僕幸せですよ今!」
「普通の人はそれがプラマイゼロなのよ。感覚がおかしくなっているのよ。」
「な、なるほど。では僕が幸せになるにはどうしたらいいんでしょうか?」
「三年間不幸が訪れない約束された未来と、永遠に不幸が訪れない未来だとどちらの方がいいと思う?」
「それはもちろん永遠の方が……はっ?!」
やっと気づいてくれたかしら。
「大学を破壊すれば永遠に大学生に?!」
「はぁ……。」
どうしてこう残念なのかしら。
「僕間違ってます、、?」
間違いだらけよ。
「そういえばもう一つ聞きたいことがありまして……。」
これだけ勇気出したのに流されちゃった?!
「な、なによ。」
「先輩って彼氏いますか!!」
「、、、は?」
「先輩って彼氏いますか!!」
「い、いません。」
「じゃあ僕と付き合ってください!!」
ええーーー?!?!?!
「あ、その、えっと……。」
「やっぱり嫌ですよね、、。こんな不幸を呼ぶ男なんて。僕のこと好きじゃなくてもいいんです。」
「え、あ、うーん。」
「でも僕、先輩といると楽しくて楽しくて。仮に不幸がまた沢山訪れるようになっても、先輩と一緒なら乗り越えられると思うんです!!」
「そ、そうね。」
「だから僕とお付き合いして頂けませんか!!!!」
「いいわよ。」
「ダメですよね……。」
「いいわよ。」
「無かったことにはできないので、せめてこれからも変わらず部活で接して頂ければと……。」
「い!い!わ!よ!耳大丈夫?」
「……ほぇ?!マジですか?」
「マジよ。本気と書いてあげるわ。」
「やったー!!!先輩が僕の彼女にー!!」
「恥ずかしいから叫ばないでよね!」
なんか思ってたのと違うけどこれはこれでいいのかも。あなたのお陰かもしれないわね悪霊さん。
「……。」
「さてそろそろ帰りましょうか。」
「はい!今日はどっちが不幸なんですか?」
「えーと。今日は近道するとダメみたいね。遠回りして帰りましょう。」
「了解であります!」
「兵隊みたいね……。」
先輩曰く二択の道があると、悪霊は僕の手を引っ張っているらしい。
僕は全く引っ張られている気配を感じないけれど、悪霊が選んだ道へと進んでしまうらしい。
最初の一ヶ月は信用できなくて何度も自分の直感を信じて帰ったっけな。ドブに落ちたり、バナナの皮で転んだり、自転車とぶつかったり、、。
不幸の度合いは様々だった。でも必ず不幸な目にあったことで先輩を信用するようになった。
そして一緒に帰り始めてついに彼女になってくれた。ああなんて幸せなんだろう。
今日も明日も明後日も一ヶ月後も一年後も十年後も彼女と一緒だ。
「……え。……ねえ。……ちょっと!」
「ん、うーん。」
「起こしに来たんだからさっさと起きてよね。」
「もう……朝?」
「昼よ。楽しい夢でも見ていたの?」
「……先輩。おはようございます。」
「はい。こんにちはお寝坊さん。」
「先輩と会った時の夢を見てまして……。先輩ちゃんと僕の彼女ですよね?!」
「当たり前でしょう。三限目から講義受けるんでしょ、早く支度してよね。」
気だるい身体を起こして顔を洗いに行く。先輩にはアパートの合鍵を渡しているが同棲をしている訳ではない。
「あれからもう二年か……。」
そんな独り言を呟きながら寝癖を直して台所へ向かう。
「凛花先輩は目玉焼き固めでしたっけ?」
「ええ。」
大学四年になった先輩は、就職活動の合間にこうしてよくお昼ご飯を食べに来る。僕を起こすのはそのついでらしい。
ふんふん〜〜〜〜♪
「その鼻歌……今流行りの曲?」
「いえ、めっちゃ昔のやつです。」
「通りで聞いた事無いわけね。」
「最近の曲のほうが知らないので……はい。出来ましたよ。」
食パンに目玉焼き、それにレタスとトマトを乗せれば完成だ。
「「頂きます。」」
「……。」
「……。」
「就職活動は順調なんですか?」
「……ええ。久志君もそろそろ考え始めた方がいいわよ。最近はあの子も大人しいんでしょう?」
あの子とは僕に取り憑いている悪霊の呼び名だ。
「そうですね。先輩と一緒に居ない時が多い今でもほとんど不幸は起きてません。顔とかに変化はありますか?」
じーっ。先輩は僕を、いや僕の後ろにいるであろうあの子を見つめている。
「そ、そうね……。いつもより可愛いんじゃないかしら。多分。」
「え、女の子なんですか?!」
「し、知らないわよ!」
先輩は滅多に悪霊のことを話さない。僕に気を使ってくれているんだと思っている。
どんな見た目なんだろう……。先輩の反応からして、、いや考えるのはよそう。
「あ、今日はここへ帰って来てもいいかしら?」
「何かありました?」
「久しぶりに……その……ね?」
「あ……わかりました。」
凛花先輩が泊まりに来るのは久しぶりだな。
「では待ってますね。帰る時連絡ください。」
「わかったわ。じゃあそろそろ面接に行ってくるわね。」
「頑張ってください!」
「そっちも講義サボらないようにね。」
「はい!」
面接が終わったら一旦着替えを取りに行かないと。
いけないいけない、まずは目の前のことに集中しなきゃね。
部屋片付けておかないといけないな。先輩に見られたらまずいものを隠しておかないと、、。
……。スッ。グッ。……。