〜しかも妻と娘と猫はチート持ちだってさ〜
「これは…どういう事…だ?」
なんとも言えない表情で凍りついた娘の横で、
俺はようやく声を絞り出した。
今日は妻の誕生日で、娘と手作りでケーキを作っていた…作っていたんだよ?だってほら、俺も娘もエプロンしてるし、なんなら娘は今のいままで飾り用の苺を切っていたから包丁も持ったままですよ。
それが…なぜ、二人してこんな鬱蒼とした森の中にいるんだ?
頭がグルグルと今の状況を必死で整理しようとしてる。
もう一度言うが(誰にだ)今日は妻の誕生日で、10歳の娘が手作りでケーキを作りたいと言うから自分のお店で作っていたんだ。そしたら突然目の前が真っ白になり、まばたきするとそこはもう自分の見慣れた店ではなく
まるでものがたりのなかのまじょでもすんでいそうなもりのなかにいたんだ
突如、固まっていた娘の左手が俺の右手を掴んだ
「パパ…よくわからないけど、なんかいるよ。」
「お?え?あ、おう。森の中だからな、そりゃあなんかいるさ」
必死で冷静を装うが、それは娘の一言で一気に焦りに変わる。
「パパよりおっきいよ」
娘の方を向き、顔を合わせる。
娘も限界みたいな顔してる。
よし、逃げよう。
娘の手を掴み、振り向いて走り出す。
お店にいたので二人とも厨房靴を履いていた。
とてもラッキーだった。
「あ、そっちは!」
「え?」
走り出して10歩くらいでソレに出会ってしまった。
だって、普通向いてる方から来ると思うじゃんさ。
だから反対方向へ逃げようと思ったんだ。
うん、娘よ。次からは「後ろから大きいのが来るよ。」と教えておくれ。
そして、出会ったソレは青白い毛を纏い、狼の顔をした大柄な2足歩行生物だった。
「hsきゃーーーーーーーーーー!」
娘の悲鳴が響き渡る。
そりゃあもう大音量で
すごいなそんな声出せたんだな!
狼さんもたまらず耳を塞いでるよ。
パパも吹っ飛ばされそうだよ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
まだ続くの?!
と思った瞬間、身体が浮いて凄い勢いで娘から離れそうになる。が、娘と手を繋いでいたおかげでなんとか吹き飛ばされずに済んだ。
「ーーーーっ?!パパっ?!」
ようやく叫びが止まった。
「っぐっ!」
その場に落ちた俺は腹部を強打し悶絶
狼さんは…
あぁ…あんなところにうずくまって…
大体20mは飛んだのではないだろうか
周りの木も娘を避けるように斜めになってしまっている。
「…こんな才能があったんだね…」
周りを見渡しながらポツリとこぼすと
「いや、ありえないでしょ。夢でしょ。」
「そうか、その発想はなかった。ちょっとパパの事殴ってみてくれる?」
「分かった。任せて」
『オイ!マテ!ヤメロ!死ヌゾ!!』
娘が大きく振りかぶった時、間一髪 いやそりゃもう間一髪のところで遠くから叫び声がした。
さっきの狼さんだ!喋れたんですね!
いや、生きてたんですね!
良かった!良かった?
え、それよりどういうこと?!
親子で色んな感情を込めた視線を送る。
『ソノ娘!身体強化持チダ!殴ラレタラ弾ケルゾ!!』
全身を激しく打ちつけたのであろう険しい表情のまま、必死で叫ぶ狼さん。
「「弾ける?」」
ちょっと理解が出来なかった。弾けるってどう言う事?
『…トニカク、今シヨウトシタコトハヤメテオケ、ワタシハ主人ノ命デアナタタチ5人ヲムカエニキタノダ。』
こうして異世界に来たうちの家族の冒険ってやつが始まった。始まってしまったので、ある。