第四話 思い出話【ツェリ】
これは私がアルトリオと出会った時の話でございます。
少し思い出しながら話すので、どこか記憶違いのところもあるかもしれませんが、そこはお許しください。
何しろ、あれから十年もの歳月が過ぎているのです。とはいっても、不死鳥にとっての十年というのは、そこまで大きな時間ではないのですけどね。
これは十年前、生まれたばかりの私のお話です。
私の名前はツェリ・クレーン。不死鳥です。
実は今とても困っています。あたたかい火山の巣穴から転がり落ちてしまい。そのまま運悪く川に落ち流されてしまったようなのです。
そこは冷たい水の中。生まれたばかりの小さな体に、この冷たさはとてもじゃないけど乗り越えるのは厳しい。
しかもどうやら、川に仕掛けられていた魚用の罠にまで引っかかってしまった模様。
いくら不死鳥といえど、このまま動けずに冷たい水の中では死んでしまいます。あー、またやり直さなければならないのでしょうか。
私は不死鳥なので、親はいません。輪廻転生の理を曲げて、その魂が朽ちた時に不死鳥の如く再び甦るのです。
そんな不死鳥にとって、幼生体の時は一番死にやすい時期といえるでしょう。
あたたかい火の中にいれば、ゆっくりと体も成長し羽を伸ばし、直に飛びまわることも出来るようになります。
しかしながら、目が覚めた時には冷たい水の中。一体何が起きたのか理解することもできません。
まあ、いい。もう一度死にますか。そんなことを考えた時でした。
私がアルトリオに出会ったのは。
「だ、だいじょうぶ?」
小さな手で私を救い出してくれたのは麓の村に住んでいると思われる人間の男の子。
どうやら、罠に掛かった魚を引き上げようとしたところ、中から想定外の不死鳥が出てきたことで驚かせてしまったようです。
それにしてもこの男の子、とても優しい声で、すごく心が落ち着きます。体力がないのもあってうっかり眠ってしまいそうです。というか、いつの間にか寝ていました。
パチパチパチッ
焚き火でもしているのでしょうか。木が燃えている音が聞こえてきます。
気がつくと、濡れた羽も乾いていて、身体もあたたかさを少しだけ取り戻していました。
どうやら男の子が、私を温めてくれたようです。声だけでなく心も優しい。
「ぴぃひゃあー、ぴぃひゃあー」
「ああ、元気になったんだね。ダメだよお腹空いたからって罠に掛かったお魚を食べちゃ。僕も裕福ではないからあまりわけてあげられないんだ」
いえ、そんなつもりは毛頭なくて、気がついたらそこで死にそうになっていたといいますか。
いや、罠に掛からなければ私は間違いなく死んでいたのでしょう。
「ぴぃひゃあー、ぴぃひゃあー」
「ん、お腹空いたの? しょうがないなぁ。少しだけだけど焼いた魚の身を食べさせてあげるね」
やはり、幼生体では言葉も通じないようです。お腹が空いているのは間違いないのですが、欲しいのは魚の身ではなく目の前の焚き火にゆらめく炎なのです。
「ぴぃひゃあー、ぴぃひゃあー」
「なっ? 美味しいだろ。この辺りは水が綺麗だから魚も美味しいんだ。ここは村の人にも内緒にしてる秘密の場所なんだ」
なるほど、魚の身というのも悪くないのですね。炎で焼いているからでしょうか。体にほんのりと力が湧いてきます。
それにしても、貧しい身なりの少年。普通に考えるなら、魚よりも鳥肉を欲する年頃ではないでしょうか。少年からは私を食べようとする感じがまったくありません。
「ぴぃひゃ?」
「おかわりはもうないからね。元気になったのならお母さんのいる場所まで飛んでいきな」
不死鳥に親や子といった関係は存在しません。自らが親であり、子でもあります。
それにしてもこの男の子は、私が小さい子供だから助けてくれたのでしょうか。
何か恩返しをしたいのですが、残念ながら言葉も通じません。少し大きくなってからまたご挨拶することにしましょう。
いや、それでもお礼として私の加護を付与しておきましょうか。こうすればきっと目印にもなります。
「ぴぃひゃあー」
「うん、元気でね」
そうして十年もの歳月が経ち、ようやく人の姿に変身出来るようになった私は、あの時加護を与えた少年へ恩返しをするために人里に降りてきたのです。
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