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第二十四話 ルイーゼ・サクラステラ

私の名前はルイーゼ・サクラステラ。サクラステラ伯爵家の三女で、今年で十四歳になります。


そろそろ対外的なお披露目がある頃だと思っていたのですが、父上や母上の様子がおかしいのです。


朝のご挨拶にと父上の書斎へ伺おうとしたところ、どうやら部屋の中で母上と話をしているようです。



「オースレーベンで記憶喪失の少女がいるらしい。歳は十四、五歳の見た目麗しい少女で金髪、珍しい深紅の瞳をしているとのことだ」


「あなた、それはルイーゼと同じ容姿ではないですか。これは利用できるんじゃないかしら」


「ああ、実は私もそう思っていたのだよ。忌々しいオースレーベンにようやく付け入る隙が見つかった。ポイニクス教に幸あらんことを」


「ええ、不死鳥様の教えのままに」


何やらきな臭い話をされています。オースレーベンで記憶喪失の少女がいて、その姿が私と似ている。一体何をどう利用しようというのでしょうか。


昔から両親の愛情というものを感じたことがなかったのですが、それは貴族として生まれたからなのだと思っておりました。


ところが、後継であるリューイお兄様以外の兄弟はみなどこか距離を置かれているように感じます。その中でも、末娘である私は特に嫌われていると言った方が正しいかもしれません。


いや、無関心なのかもしれません。今まで褒められたことも叱られたこともないのですから。



サクラステラにはポイニクス教という宗教が根付いており、不死鳥信仰の盛んな街として有名です。なかでも父上と母上は敬虔なポイニクス教信者で、多額の寄付を教会にされているとの話です。


宗教が嫌いというわけではないのですが、父上や母上のような身分の人がのめり込み過ぎるのは様々な問題が出てしまいます。


予算のかなりを占める教会への寄付。これはまだポイニクス教の総本山として、観光地としての整備が必要であるとのことなので、しょうがないことなのかもしれません。


問題があるとしたら、その寄付金が街や教会の整備にほとんど充てられていないという事実でしょう。父上はそれを知っていながら、寄付金の額を毎年増額しています。


苦しむのはサクラステラで暮らす民です。増税に苦しみ、疲弊し、その苦しみから逃れようとポイニクス教にはまっていきます。


そのような光景を見聞きする度に心が痛み、悲しくなるのです。しかしながら、力のない私に出来ることなど何もありません。



そうして父上と母上のたくらみがわかったのはその日の昼のことでした。


「ルイーゼ、お披露目の前に急きょ身体検査を行うことになった。この後、すぐにやるから部屋で待機しているように」


「は、はい。かしこまりました」


思い返せば、急な身体検査などおかしかったのです。私についている侍従ですら何も聞いていなかったのですから。


部屋で待っていた私は、やってきた騎士の案内に連れられるまま地下にある牢獄に入れられてしまいました。


そもそも身体検査で男性の騎士が案内する時点で気づくべきでした。私も迂闊でしたが、それよりも何より意味がわかりませんでした。なぜ私が地下牢に連れて行かれてるのか……。


「三女とはいえ、伯爵家の人間です。政略結婚でもした方が家の役に立つというもの。これは一体どういうことですか。このことを父上はご存知なのですか?」


馬鹿にしたような笑みを浮かべて騎士は言い放った。


「もちろんご存知ですとも。ここへ連れて行くように命令したのはブラムス様なんだ。ルイーゼ様、残念ながら本日を持って貴女は伯爵家のルイーゼ様ではございません。ですので、政略結婚の駒としての価値も無くなりました」


「どういこと?」


「時期にオースレーベンからやってくる少女の身代わりになって死んでもらうそうです。つまり、貴女の命はその少女がサクラステラにやって来るまでなのですよ」


オースレーベンから来る記憶喪失の少女と私を入れ替える!?


「ルイーゼ様誘拐の罪をオースレーベンに擦り付けるらしいですよ」


「そ、そんなこと」


私がオースレーベンの者に誘拐されたかのように偽り、その責をオースレーベン側に問うということですか。


「ポイニクス教は霊峰を手に入れなければなりません」


「あ、あなたもポイニクス教信者でしたか」


「ポイニクス教の為に命を捧げられるのです。なんと幸せなことでしょう」


父上が喉から手が出るほど欲しい霊峰ポイニクス。娘の誘拐という怒りの矛先を領地編入の交渉材料にするつもりなのですね。


「そこまでして霊峰ポイニクスを……」


「オースレーベンから少女が来るまでは食事ぐらいは用意する。まあ、諦めて不死鳥様にお祈りをするがいい」


お披露目前の私の姿は、そこまで広まっておりません。記憶喪失の少女を言いくるめてしまえば入れ替わることなど簡単でしょう。


その少女だって、貴族の姫として扱われるなら多少疑問に感じたとしても受け入れてしまう可能性があります。


つまり、父上と母上がその少女を言いくるめるなり、交渉が終わった段階で私は用済みとなってしまうのですね……。

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よろしくお願いします。

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