第十九話 騎士への推薦【アルトリオ】
最初に案内された小道具店はツェリの年齢に合った可愛らしいアクセサリーや身の回り品が置かれていた。
でも、ツェリが欲しいのは村の奥様方への手土産になるのでこのお店では合う品を探すのは難しい。
「うーん、悪くはないのですが……村の奥様方へのお土産となると少し安っぽい感じがしてしまいますかね……。でも、この紅いイヤリングは可愛らしいですね」
その紅い宝石のイヤリングは、ツェリの瞳によく似ている綺麗な色で、羽根のかたちをしているのがまたとても可愛らしい。
あまり物欲のないツェリにしては珍しく興味を惹かれているようにも思える。せっかく街に来たのだしプレゼントをしよう。僕が一から選ぶとなるとセンスが合わない物を渡してしまいかねない。その点、このイヤリングなら間違いなく喜んでもらえる。
次の店でツェリが土産物に夢中になっている隙に、先程の店でイヤリングを購入することにした。若者向けのその店にしては、少し高い買い物になってしまったけど、ツェリの喜ぶ顔を思えば安いものだ。
「二人とも、領主様の時間がとれたようだ。今から向かうことになるけどいいかな。話が終わったらまた案内をしましょう」
そんなことを考えていたら、ヒューゴさんが合流しており、領主様と話をする時間になったようだ。
「はい、それでは参りましょう。お前さま」
プレゼントは話し合いが終わってから渡そう。それにしても、何と言って渡せばいいものだろうか。誕生日でもなければお祝いごとがあるわけでもない。
いや、そうか。ツェリは記憶がないから誕生日をお祝いできないのだったな。それならば、プレゼントを渡した日をツェリの誕生日ということにしてしまえばいいか。
そうすればこのイヤリングも少しは渡しやすくなるかもしれない。
「お前さま、どうかされたのですか?」
「い、いや、なんでもないよ。ツェリこそ領主様と話をするっていうのに緊張とかしないの?」
「そうですね。特に私が何かをしなければならないというわけでもありませんし、サクラステラへ行って顔を見せれば終わりですから」
相変わらず、自分が貴族の令嬢でないことを確信しているかのような態度に少しホッとしている自分がいる。
僕はいつかツェリがいなくなってしまうのではないかと思っている。今は保護してくれた恩を感じて僕の傍にいてくれている。それでも小さな村ではなく、この大きな街を見ることで考え方も変わるのではないだろうか。
美しいツェリなら、大きくて豊かな街の方がいい人を見つけられるかもしれない。ツェリのことを知っている人に会う可能性だってあるのだ。
それにこの旅で何か知っている景色を見れば記憶が戻るきっかけになるかもしれないしね。
「何か考え事でございますか?」
「い、いや、なんでもないよ」
ツェリは相変わらず腕を絡めて頭を擦りつけるようにしながら僕の横を歩く。通りすがりの人がツェリの美しさに見惚れているのがよくわかる。ツェリを見て、その次に僕を見てため息をつくのだ。
何か誤解を招くような気がしなくもないけど、無理に離すのもツェリが寂しがるだけに困ったものだ。
「見えてきました。あちらの建物が領主様の館になります」
オースレーベンの街で一際目立つ大きな建物。これが領主様の館になるらしい。村長の家の何倍だろうか。やはり、貴族様というのは凄いのだなぁ。
「では、こちらの部屋で少しお待ちください」
そうして案内された部屋の広さが僕の家よりも大きいのは何とも言えない。目につく調度品は僕が見てもどれも素晴らしいと思えるものばかりで、ドノバンさんがここにいたらきっとじっとはしてられないだろうなと思ってしまう。
「凄い広さだね……」
「私は広すぎる家は苦手です」
「まあ、確かに掃除とか大変そうだし。あと、ここまで広いと暖をとろうにも部屋が暖まるまで時間が掛かりそうだよね」
そんな僕たちの話を呆れたように聞いていたジュードさんだったけど、扉がノックされるとすぐに姿勢を正して領主様を迎え入れた。
どうやらこの部屋で話し合いとやらをするようだ。入ってきたのはまだ歳の若い青年。僕よりも少しだけ年齢が上だろうか。それぐらいに若い。
「どうもはじめまして。オースレーベンの領主をしているエトワールだ。僕が若くて驚いているって顔だね」
「い、いえ、そんなことは……」
「いや、この若さのせいで君たちにも迷惑を掛けることになってしまった。申し訳ない」
どうやら、隣領との話が拗れた要因の一つにエトワール様の若さ故にサクラステラ側から舐められているのではないかとの話もあるらしい。
昨年、急な病で倒れた父に代わり領主となったそうで、若いながら頑張って仕事にあたっている好青年というイメージだ。いや、僕が好青年とか言っちゃうのはどうかと思うんだけどね。
「そちらの美しいレディがツェリさんで、隣にいるのが騎士に推薦したいと言っていたアルトリオか」
えっ? 騎士……。
「う、うぇっ?」
「黙っていてすまないアルトリオ。君の加護の力は鍛えればもっと高みに昇れる」
「村の大事な狩人だ。村長さんとも話をしなければならないだろうけど、アルトリオさえ良ければ私たちと同じ騎士にならないか?」
思ってもいなかったことに驚いてしまい、言葉がなかなか出てこない。ずっと村で生きていくことしか頭になかったのだから当然だろう。
「ぼ、僕が騎士に……」




