第十八話 オースレーベンの街 【ツェリ】
それからアルトリオは毎日稽古をしてもらいながら加護の使い方をかなり学んでおります。
オースレーベンの街へ到着する頃には、騎士様との力の差もかなり縮まってきたように見えます。
やはり、武器にも加護が付与されているのが差を縮めた要因なのでしょう。騎士様方も大変驚かれておりました。
さすがはアルトリオ。そして、私の不死鳥の加護のパワーのおかげですね。アルトリオや騎士様は炎の加護と勘違いしておりますが、これは不死鳥の加護なのです。
毎晩、少しずつアルトリオの体が加護の力に馴染むように調整した甲斐があったというものです。騎士様がいるので少し恥ずかしかったのですが、アルトリオとくっついて寝るのはもう習慣になってしまったので、今さらやめるつもりもありません。
それに、アルトリオが加護の力を扱えるようになることは悪いことではありません。強くなれば生命力も高まりその寿命も延びるでしょう。人間はとても死にやすく、平均寿命は五十年程度と村の奥様方から聞きました。
恩返しする相手にすぐ死なれてしまっては不死鳥としても残念でなりません。せめて、寿命をまっとうするぐらい元気でいてもらいたいと思うのです。
アルトリオには私の恩返しをしっかり堪能してもらいたいのです。
「お前さま、これでようやく馬車の中での寝泊まりも終わりでございますね」
「そうだね。でも、すぐにサクラステラに向かうんじゃないのかな。まずは領主のエトワール様にご挨拶をしないとだけどね」
「そうですね。お土産を買うのは帰りの方がよいのでしょうし、お前さま、せっかくですからどんなお土産があるのか見てみませんか?」
「そ、そうだね……。えーっと」
「アルトリオ、この周辺のバザールであれば問題ないですよ。でも、領主様からお呼びが掛かったらすぐに来ていただきます」
ようやく二人きりでデートが出来ると思ったのにそうもいかないようですね。どうやらジュードさんも少し離れた場所から着いて来るようです。
「むぅ。ヒューゴさんは領主様の所へ行かれたのですね」
私たちだけバザールを楽しむというのは、なんだか申し訳ない気持ちもありますが、それが騎士様のお仕事なのですから気にするだけ無駄というものでございましょう。
私はアルトリオの腕を抱きしめるようにしてくっつきます。
「そんなに人も多くないから、はぐれることもないんじゃないか?」
私が腕を絡ませているのは迷子になるからではございません。ただアルトリオとくっついていたいからなのです。
「むぅー」
「え、えっと、なんだかご機嫌がよくなさそうだね」
「なんでもないのです。それよりも、私は髪止めや櫛を見たいのですが、そういった物はこの辺りにあるのでしょうか」
それとなくジュードさんに聞こえるように話を振ります。
「ツェリ殿、女性向けの小道具屋でしたら、この先にございます。ご案内致しましょう」
「ありがとうございます。お前さま、参りましょう」
「う、うん。ツェリは奥様方へのお土産を探しているんだね」
「ええ、特に村長の奥様には飛び切りの物を用意したいところです」
「そ、そうか。でも、あまり遣い過ぎないようにな」
「大丈夫でございます。私のお小遣いの範囲内でやり繰りいたしますので」
ハネムーン資金という名の寸志を奥様方より頂いているため、実際はそこまで厳しくもありません。
本音を言えば、旅の途中で狩りをしてお金を稼ぎたいとも思っていたのですが……。こればかりは難しそうですね。
先回りしている騎士様方がしっかり仕事をされているようで、村からの道のりでも現れたのは小さな鹿や野うさぎぐらいなものです。
おそらくは、サクラステラに向かう道のりもしっかり狩り尽くされていることでしょう。
「ツェリ殿、こちらの店が若い方にも人気のお店ですよ」
色鮮やかなアクセサリーや化粧道具などが売られているお店のようです。値段も手頃で確かに若い方向けのデザインというかそんなお店です。
「うーん、悪くはないのですが……村の奥様方へのお土産となると少し安っぽい感じがしてしまいますかね……。でも、この紅いイヤリングは可愛らしいです」
帰りの際にまだ残っていたら自分用に買ってもいいかもしれませんね。
「なるほど奥様方向けとなると、もう少し落ち着いた色合いの方がよいですね。それでは次のお店にご案内致しましょう」
次に案内されたお店は、大人の女性をターゲットにした小道具店のようでシックな色合いが多く、奥様方にも似合いそうな物が多くございました。ここなら、お土産を揃えられそうですね。
手鏡や、櫛、髪止めに様々な化粧道具。私が化粧をしないので化粧道具を選ぶのは難しそうですが、髪止めや、櫛なら好きな色や柄も存じているので大丈夫そうです。
「どう? 喜ばれそうな物はありそう」
このお店に来てから、夢中になって品を見ていたので、いつの間にやらアルトリオのそばを離れてしまっておりました。私としたことが、いけませんね。
「はい、お前さま。このお店ならみなさまのお土産が揃えられそうです。帰りにこのお店に寄って頂いても構いませんでしょうか?」
「うん、もちろんだよ。僕もお酒を村長やドノバンさんに買わなきゃならないしね」
「二人とも、領主様の時間がとれたようだ。今から向かうことになるけどいいかな。話が終わったらまた案内をしましょう」
「はい、それでは参りましょう。お前さま」
「うん。というか、領主様の話とか僕は完全にただの付き添いになるんだけどね」
私の保護者という位置付けですから、確かにそうなります。でも、ヒューゴさんはアルトリオを騎士に推薦しようと動いているようなのです。
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