第十四話 オースレーベンへ【ツェリ】
これは普段狩りで使っているアルトリオの武器ですね。荷物を積み込んでいるのを見ていたのですが、この武器には明らかに炎の加護が宿っています。
アルトリオはドノバンさんのところで鍛治の見習いをしています。おそらくですが、この武器はアルトリオが打った物なのでしょう。
ちょっと驚きました。どうやら、私の加護が鍛治にも影響を与えているようでございます。
「何か気になることでもあったのかツェリ?」
「い、いえ、何でもございません。ところでお前さま、オースレーベンまではどのぐらいなのでしょうか?」
ただ、せっかく加護がついた武器なのですが、加護付きの武器のことなど知らないアルトリオは使いこなせていない状況です。
どうにかして、この旅の間に武器の扱いを学んでもらいたいと思います。山はサラマンダーちゃんたちが村を守っているので心配はいりませんが、サクラステラまでの旅の途中で何があるかわかりません。
「さて、どのようにして知ってもらうのがよいのでしょうね」
「何かお悩みですか、ツェリ殿」
おっと、私としたことが言葉が漏れてしまっていましたね。この方は御者をされていたヒューゴさんですね。
「今夜の鍋料理について、どのような味付けにしようかと考えておりました。ヒューゴさんはどのような鍋が好みですか?」
「そうですね。せっかくですから、村でよく食べられている鍋料理を頂きたいですね。昨日頂いたワイルドボアのモツ煮は最高でしたから」
モツ煮が好きということは、煮込んで味が滲みた肉が好みということですかね。
「モツは腐りやすいので持参しておりませんが、ボア肉は少し持ってきております。ヒューゴさんは濃い味がお好きなのですか?」
「そうかもしれませんね。では、ご飯を楽しみにさせてもらいます」
「あの、少しよろしいでしょうか」
「何でしょう?」
「旅の途中で時間がある時で構わないのですが、アルトリオに稽古をつけてもらえないでしょうか」
「アルトリオさんの稽古ですか」
「アルトリオは狩人なので、山で大型の魔物と遭遇したらと思うと心配で心配で……。少しでも身を守るための訓練をしていただけたらありがたいと思ったのです」
「ツェリさんはアルトリオさんのことが大事なのですね」
「はい」
歳若い少女をからかったのかもしれませんが、照れずにすぐに返事をしたことでヒューゴさんを少しだけ驚かせてしまったかもしれません。でも、本当のことなのでよいでしょう。
「それからもう一つ。アルトリオには炎の加護があるかもしれないと鍛冶師のドノバンさんから聞いております。本人はそのことを知らないのですが、もしも訓練の中で加護を引き出せるようなことがありましたらと思いまして……」
「加護持ちの者となればオースレーベンでも冒険者として、いや、騎士として活動できるかもしれませんね。それが本当であるなら、ジュードともよく話をして見極めたいと思います」
「加護持ちの者というのは珍しいのですか?」
「とても珍しいですね。騎士団にも我々二人しかおりませんから」
なるほど、相談した相手が偶然とはいえ加護持ちの騎士様だったのはアルトリオにとって幸いでございました。
私は教えたりするのが苦手ですし、そもそも私が教えようものなら不死鳥であることがバレてしまう恐れもあります。魔物が人の近くにいるのは善しとされません。
「どうしたのですか? ヒューゴ、あまりツェリさんの邪魔をしてはいけませんよ」
遠くからこちらを見ていたジュードさんが私たちの話を気になったようですね。
「邪魔などしてませんよ。ただ、面白い話を聞いたので少しジュードとも相談をしたい」
そう言うと、軽く頭を下げ丁寧な礼をするとヒューゴさんは馬の世話をしているジュードさんのもとへと歩いていきました。
これでよし。旅の途中で加護を引き出してもらえれば、この先に魔物との戦いでも優位に立ち回れるはずです。
アルトリオには怪我をしてもらいたくありません。多少の魔物なら跳ね返せるぐらいに成長してもらいたいのです。そうすれば私も安心して身の回りのお世話が出来るというもの。
しかも、せっかく加護がついた武器を持っているのですから、上手く使えばその力は倍増してくれることになるでしょう。
よく考えてみたら、私も鍛冶をして武器を打ったら加護が付けられのかもしれませんね。不死鳥である私が打った武器であればそれなりのお値打ちものになるのではないでしょうか。
それには、加護を見極められる目を持つ者が必要になりますか。ドワーフで長年鍛冶をしているドノバンさんでさえアルトリオの才能に気づきはしても加護は見えてないのです。
オースレーベンやサクラステラでそのような人と知り合いなれたらよいのですが。
きっと、加護を付与できるアルトリオの武器は飛ぶように売れます。そこに私の打った武器も混ぜ込んで荒稼ぎできるかもしれませんね。
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