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第十二話 ヒュージワイルドボア【アルトリオ】

 そうして、繰り返すように次の場所へ行っては罠を解除し、僕たちは最後の罠の場所までやってきた。


 そこでは、あきらかに怪我をした魔物の気配、プギープギーと叫ぶ大きな叫び声が聞こえてくる。


「まさか、またワイルドボアが掛ったのか!」


「そのようでございますね。でも、お前さま。少しだけ私に時間をくださいまし。私がいいと言うまでは先ほどと同じように後ろを向いて目を瞑っていてくださいまし」


「ここでもか。ワイルドボアが掛っているのだぞ」


「はい、どうかお願いします」


「危険なことは無いのだろうな」


「ええ、ありませんとも」


「わかった。何かあったらすぐに呼ぶんだぞ」


「かしこまりました」


 ツェリはプギープギーと叫ぶワイルドボアを恐れずに近づいていく。僕も約束を守るように後ろ向いて、目を瞑る。何でこんな約束を守っているのかは自分でもよくわからないのだけど、ツェリから何かお願いをされるというのが極端に少ないからなのだろう。


 ツェリからお願いされたことと言えば、最初に僕の家に泊めてくれと言われた時と、夜は怖いからと一緒の布団で寝て欲しいと言われたことぐらいか。


 最初は怖い夢でも見てしまったのだろうと、一緒に寝ることを許してしまったのだけど、最近では普通に最初から横にもぐり込んでくる。少女とはいえツェリは美少女であり、寝る時は薄着になるのだから僕も変に緊張してしまう。


 近くに感じるあたたかい肌とツェリのいい匂いで頭がおかしくなってしまいそうになるけど、どうやら慣れというものがあるようで、僕もいつの間にかその匂いやあたたかさがなければ寝れなくなってしまったらしい。


 最近はぐっすりと眠れているようで、体の疲れもすっかりとれている。寒くなってくると、腰や膝など古傷が痛んでくるのだけど、そういったこともない。やはり、栄養のあるバランスの取れた食事とゆっくりと体を休められる質の高い睡眠は健康にもいいのかもしれない。


「お前さま、お前さま。もう大丈夫でございます。あの大きなワイルドボアをどのようにして運びましょうか?」


 考え事をしていたら、いつの間にやらツェリがワイルドボアを仕留めて戻ってきたようだ。


「な、なんだ、このワイルドボアは……。これはヒュージワイルドボアじゃないか」


 普段狩っているワイルドボアの倍の大きさはある巨体。心臓を一突きで仕留めているのはそれは見事な腕前で、ツェリにはやはり狩人としての深い知識があるのだろうと感心してしまう。


 念のためにワイルドボアを乗せる板を持ってきてはいるのだけど、この大きさではツェリと二人でも難しい。一旦、村まで戻って手伝ってもらうしかないだろう。


「ツェリ、一度村まで戻ろう。さすがにこの大きさとなっては二人ではどうしようもない」


「そうですね。では応援を呼びに戻りましょうか。これだけの大物でございます。冬に狩れない分のお金を稼げそうで安心いたしました」


 二人して村を離れるので、その間はお金を稼ぐことは出来ない。冬を前にして少しでも貯えが増えることはとてもありがたいことだ。


「ツェリのおかげだよ。村からしたら僕たちがいないと魔物の量が減ってしまって困るのだろうけど、村長も奥様もあっさりと同行を許してくれたものだよね」


「それは、私の根回し……いえ、この秋の十分な捕獲量から大丈夫と判断されたのでしょう。それに、私たちが居ない間も狩りが上手くいくようにお願いをしておいたので大丈夫でございます」


 何にお願いをしたのかわからないけど、ツェリなりに神様に願掛けのようなことをしたのだろう。他の狩人たちが無事に魔物の肉をとれるようにと。本当にツェリは優しい子だ。



それから僕たちは村へと戻り、力自慢の村人たちに声をかけ協力して大きなワイルドボアを運んできた。


「これはまた大きなワイルドボアね」

「このサイズはヒュージワイルドボアって言うらしいわよ」

「ツェリちゃんは有望な旦那を見つけたわね」

「本当にうらやましいわ。うちの旦那も、もう少し稼ぎがいいとねぇ」


すっかり旦那扱いされてしまっているが、ツェリは僕には勿体ないぐらいの少女なので、こういった噂話が広まるのはあまりよくない。


しかしながら、僕が訂正しようとするとツェリに止められ、何とか奥様方に話をしても「はい、はい。わかってますとも」とかにやにやしながら言われる始末。


「冬を前にして素晴しい猟の成果だな。アルトリオ、このヒュージワイルドボアは金貨三枚で買い取ろう」


「き、金貨三枚も」


「街へ行くのだ。必要になるものも出てくるであろう。少し色をつけておいたでな」


「村長、ありがとうございます」


すると、鍛治の師匠であるドノバンさんが防具をもって僕のところにやって来た。


「アルトリオ、わしからも餞別じゃ。これはお前さんが火入れをした片手用のシールドじゃよ。旅は何があるかわからん、持っておけ」


「いいのですか?」


「元々お前さんに渡すつもりで作ったものじゃからな。ちょうど良かったわい。その代わりと言ってはなんじゃが、街で度数の高い酒でもあったら買ってきてくれんか」


「なるほど、そういうことでしたらおまかせ下さい」


この村でもお酒はあるけど、ドノバンさんが好むような強烈なお酒はないのだという。いつもお世話になっているドノバンさんには最高のお酒を買ってこよう。

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よろしくお願いします。

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