第一話 村の狩人【アルトリオ】
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僕はアルトリオといって、この小さな村で狩人をしている。両親はすでに亡くなっており、父親の跡を継いで村の狩人として生計を立てていた。
そんなある日、突然村にとても美しい少女が現れたのです。そして、何故かわからないまま、なし崩し的に一緒に住むようになってしまったのだ。
両親と共に暮らしていた家には僕一人しか住んでいなかったし、きっと寂しさもあったのかもしれない。少し強引な少女に押し切られる形で一泊だけのつもりがずるずるとそのまま同居を許してしまった。
今では、村人全員から嫁認定されてしまっているようで、今さら違うとも言いづらい雰囲気もある。
まあ、僕は狩人としては人並みだし、容姿も至って普通。この見た目麗しい少女が僕なんかの嫁に来てくれるなら、それはそれでありがたいことなのではと思い始めていた。
暮らしは貧乏だけど、少女一人ぐらいであれば贅沢をしなければ何とか養える。
というのも最近、鍛冶の能力を見出されて村の鍛冶師であるドノバンさんのお手伝いをさせてもらえるようになったのだ。
狩りだけの生活ではまだ厳しかったかも知れないけど、今なら贅沢をしなければ十分に暮らしていける。
それに、少女は狩りの才能があるらしく生活が苦しくなると、たまにふらっと山へ行っては大物を仕留めて戻ってくる。
危ないからと、毎回注意をして一人で行かないよう言い聞かせるのだけど、構わずに身軽に山へと入ってしまう。
「お前さま、今日はいつもの山でワイルドボアが掛かっておりました。私一人では持ち帰れないので手伝ってくださいまし」
「ほ、本当か。毎度毎度、ツェリの罠掛けはすごいものだな。ワイルドボアは今年に入ってからもう五頭目じゃないか」
村の狩人だった僕よりも遥かに優秀な成果である。ツェリは罠掛けの天才なのだろう。
「お前さま、早く」
「あ、ああ……」
村人には狩りの成果は全て僕がとってきたということにしている。
ツェリが言うには、身元不明な少女が村で活躍をするのは聞こえが悪い。長年狩人として実績のある僕が肉を提供した方がいいだろうとのこと。
「村長の奥さまから聞いたのですが、最近の猟の実績から階級を上げてようと村長が話をしていたそうでございます」
「そ、そうなのか」
村は階級制で三つのランクに分けられている。もちろん、僕は一番下の下級村人なわけで、狩った魔物の肉や素材はかなり買い叩かれてしまう。
それでも、村の中で家を造り暮らさせてもらっているだけでも感謝している。
村から外に出ると周辺に住めるような場所はなく、この場所自体も山を開拓してつくられた村なので、住む家が無ければ生きることは難しい。村の外は魔物が闊歩するとても危険な場所なのだ。
「ええ、よかったですね、お前さま。これで肉の買取金額も増えて、少しは暮らしも楽になるでしょう」
「そうか……。僕もとうとう普通の村人にしてもらえるんだね。これも全部ツェリのおかげだよ」
「いえいえ、お前さまの今まで積み重ねてきた評価があればこそでしょう」
これより上の階級になると、村の上役である村長や、鍛冶師のドノバンさん、道具屋のスーブリオさんなど一部の人だけしかいない。
村の開拓者や貢献度、実績から上級になれるのだけど、これは余程のことがない限りなることはできない。
上が簡単に変わってしまっては、村としての運営がままならない。善し悪しはあるにしても、そういうものなのだと理解している。
ちなみに、この喋り方の古風な感じの少女がツェリ。ツェリ・クレーンという。どうやら記憶喪失のようで山で迷っているところ、何とかこの村を発見し辿り着いたらしい。
見た目的には十代半ば。美しい金色の髪に紅い綺麗な瞳。肌は透き通るような白さで、まるでおとぎ話に出てくるお姫様のようだ。
ツェリの話し方も、どこか雅な貴族様の気配を感じさせる。
本当の貴族のご令嬢だったら大変なことなので、この村から一番近い街の領主様に行方不明の貴族のご令嬢様がいないかを確認をしてもらっているほどだ。
しかしながら、周辺にそのような事件は起こっておらず、盗賊に襲われ逃げのびた商人の娘なのであろうという判断に至っている。
さて、罠の場所まで辿り着くとそこには僕の倍以上の大きさのワイルドボアが倒れていた。このサイズの魔物が何でこんな小さな罠に掛かっているのか理解に苦しむ。
「ツェリ、狩りをしてくれるのはとても助かるのだけど、山はとても危険なんだ。罠を掛ける時や確認するときは僕も連れていってもらえないかな?」
「お前さまは近頃、鍛冶も始めて忙しくなりました。私も狩りに行くのは十日に一度程度ですし、村からそう離れた場所ではございません。どうぞお気になさらずに」
村からたいして離れていない場所の狩りで、大型のワイルドボアが何頭も掛かっているという方が問題がある。
こんなことは、僕が狩りをしていた時に一度もなかった。それとも僕が気づかなかっただけで、本当は大型のワイルドボアが闊歩する危ない場所だったのだろうか……。
「そうは言うがな。このサイズのワイルドボアとツェリが山で出くわしてしまったらと思うと、とても怖くてな。頼むから村の外へ行く時は僕と一緒に出てくれないか」
「お前さまはお優しいのですね。しかしながら、何度も申しておる通り、ツェリの狩りは秘密でございます。決して誰にも覗かれるわけにはまいりませぬ。それは、たとえお前さまであってもです」
何故か、ツェリは罠掛けの仕方を誰にも教えようとしない。これだけの実績があるのなら、村で共有した方がより多くの魔物を狩れるのだと説明をしているのだけど。
まあ、狩人というのは自分の罠や仕掛けを秘匿する傾向にある。ツェリにも何か言いたくないことがあるのだろう。