六話 勇者の帰還
——————ダンジョン20階層まで上がってきていた。ここまで来れば余裕だ。
今は、気分が非常にいい。喰われたときは、生きることを諦めていた。
本来なら、胃の中で生きていられる筈がないのに、どういうわけか死ななかったし
邪竜の肉を喰ったおかげで、かなりの力を得ることができた。
リンは、B級冒険者に上りつめたものの
自身の力に停滞を感じていた。
ポジティブに捉えると
死ぬ羽目になったものの
そのおかげで、さらなる力を手に入れることができたので
案外悪くはなかったのではないかと思う。
また、上機嫌なのは、それだけが理由ではない。
なにせ先ほど、邪竜の剥ぎ取りで
レアドロップアイテム『|邪竜の剣《アヌビス》』をGETしたからだ。
柄部分は、蛇が巻き付いているでデザインになっており、刀身は、艶のある黒。
どちらかといえば魔剣なのだが聖剣とは
また違った良さがあるため案外気に入っている。
この武器はレア度SS(伝説級)——この上にさらにレア度SSS(神話級)があるが
そう簡単には手に入らない——むしろ存在するのかさえ疑問だ。
歴史書に載ってはいるが、実際お目にかかれる機会なんて早々ない。
リンは、幽霊然り見ないと信じられないタイプなのである。
さきほどの闘いで、武器も全てダメになった。
まぁ、もともと上等のモノでもなかったから別に今更気にしないが・・・・
倒した後の処理についてなのだが
——邪竜がデカすぎすぎため、途中で剥ぎ取りを断念し
『空間収納』で中にいれることにした
——こんなの見せたらギルマス(ギルドマスター)
驚くだろうな・・・
「それにしても、モンスターが少ないなぁ
魔素が薄いせいか・・・・?」
普通なら、倒したモンスターは半日あれば復活する。そして、ダンジョン内に漂う魔素が
濃ければ濃いほどより強い魔物を生み出す構造になっている。
しかし、無尽蔵に生み出せるわけではなく、ダンジョンコアがその中核を担っているから
こういった事が可能となっている。
そのダンジョンの心臓ともいえる核を破壊してしまうと
ダンジョンはその力を失い、崩壊をはじめ完全になくなってしまう。
そこから、新しいダンジョンができるまで10年ほどかかってしまうのだ。
そうなると、冒険者にとっても大きな損失になるので
誰も壊そうとしない。
——あのあと、リンは、ダンジョンコアの所有権を獲得した。
これで、自分好みのダンジョンに変える事ができる。
さらに、いつでも最下層に転移することが可能となった。
時間があるときに、また、この場所に赴いてカスタマイズするつもりで
ゆくゆくは、ここを最難関ダンジョンにしたいと思っている。
そんなこんなで——ここまで、スムーズにあがってこれた。
途中、うっかり罠にひっかかり毒矢が飛んできたが、もはやこの程度避けるまでもない。
今の俺に刃が通るはずもなく、当たった瞬間弾けてしまった。
「今なら魔界でも充分に通用しそうだ・・・・が、さすがに魔王クラスは無謀だと言わざるを得ないな」
そもそも、人界にあそこまで強力なドラゴンが存在していたのがオカシイ。
今回は、運よく勝てたが、再度やったら今の俺でも正直勝てるか微妙だ・・・・
誰かが意図的にあのモンスターを連れてきた?なんのために?
そもそも邪竜が生息しているのは、魔界の最奥だぞ・・・・それも、なんでダンジョンに?
転送魔法陣を踏んであそこにとばされてきた可能性も考えられるが・・まぁ、いいか
俺が、ギルドに報告すれば調査が行われる——そうすれば、王国最強の魔法部隊も、動くはずだ。
会ったことはないが、王国最強の魔法部隊『魔帝師団』は
どいつもこいつも化け物じみてるって話だ・・・・
「ダンジョンコアのことは、黙っといた方が良さそうだな」
リンは、一呼吸すると上層を目指し再びを歩を進めた。
——————ソフィア視点
なんとか王都まで戻ってくることができた。
なにもかもリンのおかげだ・・・・
「会いたいよ、リン・・・・」
最期に見せた笑顔が頭から離れない——きっと、私たちと一緒で怖かったはずなのに・・
そう思うと涙がこみあげてくる——それをなんとか堪えると
「リンはきっと生きて帰ってくる。だから今は泣いてはいけない。
私にできること・・・・・・・・」
しばらく、ギルドに顔を出すのはやめた方がいいわね。
きっと、あの二人が報告しているに違いない。
——鉢合わせになったら、十中八九狙われるだろう。
私たちが使っていたところとは、別の
宿にこもって今後のことを考えなきゃ。
——————ゾフィとラム視点
ソフィアが王都に到着する数時間前
ゾフィとラムは、ギルドで先ほど会った事を報告していた。
「そ、そんな・・じゃあ、リンさんとソフィアさんは・・・」
受付嬢のヴィヴィは
瞼に涙を滲ませてうつむいていた。
「残念だが、ダメだろうな。俺らも、悲しいよ——あいつはオレらのために・・・・
っくそなんでこんなことに!!」
椅子を蹴り上げ怒りをぶつける。もちろん演技だ・・・・
彼にとって、今日は最高の日だった。
ックククク・・・・みたかオレ様のこの演技・・・・あんな奴の死なんざどうでもいいんだ
——あーあ、はやくSEXしてェーな、股間がうずいて仕方ねぇ。
「では、ダンジョン最下層に邪竜がいて——お二人を逃がすために犠牲になられたわけですね?」
「あぁ、そうだ。なぁ?ラム」
「そうよ。本当死ぬかと思ったんだから——リンさんは勇敢だったわ」
「では、早急にギルドマスターの報告してきます」
全ての報告を聞き終えると
足早に奥の方へ消えていった。
邪竜ってウソだろ・・・伝説級の竜だぞ?
あんなところに?
おれは、もういかねーぜ!恐ろしすぎる。
ほんとか?うそくせーな。
周りにいたギルド冒険者が騒ぎ始める。
報告を終え、ギルドをでた二人は、いつもパーティで通っていた
『極楽の間』に宿泊することにした。
別に、王からもらった屋敷でも良かったのだが
ここからだと宿の方が近いのでそこに泊まることにした。
「うまくいったわね!これで、邪魔者はいない。」
「あぁ、そうだな!今日はたっぷり可愛がってやるからよ」
ゾフィは、ラムのお尻をギュッと握る。
「あっん、もう——宿着くまで待っててばぁ~」
この二人は、まだ知らなかった。
後日、死んだはずの男が戻ってくることを・・・・・・・