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エピローグ

※ゼクトとミエダが出会う約800年前。

 

 人間の世界のとある山の洞窟の前に武装した集団が緊張した顔でたたずんでいた。その集団は全員が角が生えていたり、巨体だったり、鱗と尻尾が生えていたりしていた。彼らは皆魔族だった。この時代で人間たちと敵対している種族のはずなのだが、こんな場所に来ているのは人間との戦いのためではない。これは魔界で生まれてしまった『魔女』を封印するためだった。


「おお! ガルケイド様だ!」

「ガルケイド様が出てこられたぞ!」

「新たな魔王ガルケイド様だ!」


 やがて、洞窟から5人の男が現れた。その中央にいるのが『ガルケイド』。先代の魔王『ディハルト』に反逆して倒し、将軍から新たな魔王になった男だ。周りの者たちは側近の部下たちだ。彼らは洞窟の中で魔女に最後の封印を施していた。それが出てきたということは……


「皆の者、よく聞け!」


「「「「「っ!」」」」」


「先ほど洞窟の奥で行っていた魔女の封印は成功した! 最終段階まで無事に封印を施すことができた! これで魔界を揺るがした忌まわしき魔女はもう二度と世に現れることはなくなった!」


「「「「「っ!」」」」」


「私の魔王としての最初の仕事は成功した! 後は人間どもの世界を手に入れるだけだ! 私はここに誓う! 脆弱な人間どもを倒し、地上を制すると! 皆の者、私とともに新たな戦いに行こう!」


「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」


 新たな魔王となったガルケイドは魔族達に高らかに宣言した。




 ガルケイドたちが魔王城に帰る途中で休憩が入った。魔王城から人間の世界に行くまでかなりの距離があったのだ。休憩する場所は既に魔界なので誰もがほっとしていた。ここでガルケイドの側近の一人『ティエント』が質問してきた。


「ガルケイド様、質問よろしいでしょうか?」

「ん? 何だ?」

「何故、ミエダ……魔女を殺さなかったのですか?」

「…………!」

「あの娘の力は強大でしたが、あの時はかなり疲弊していました。あの時戦えば倒せたと思うのですが……」

「…………」


 ティエントの言うことは、ガルケイドにも分かる。この時代の魔族は『血』よりも『力』を優先する傾向がある。己が死んでも力だけは後の世に伝えようとする社会だったのだ。あの時、魔女こと『ミエダ』をその手で殺めれば彼女の力をその身に宿せると誰もが思っているのだ。それを魔王ガルケイドはしなかった。疑問に思って当然だ。


「ディハルト……」

「は?」

「私はこの手で先代の魔王ディハルトを殺した」

「その通りですが……それが何か……?」

「それにもかかわらず、奴の力がこの身に宿ることは無かったのだ」

「な、何ですって!? それはどういう……!?」

「奴は死に際にこう言ったのだ。『俺が死んでも俺の力は世界一愛しい娘に宿るんだ!』とな。おそらく奴は自分が誰に殺されても力が娘に宿るように仕組んでいたのだろう」

「な……! そんなことを!?」


 ティエントは驚いた。先代とはいえ魔王の地位にいる者がこの時代の一般的な社会を無視していたのだ。絶対のルールというわけでわけではなかったが、感情面では誰も許しはしないだろう。このティエントも例外ではない。


「な、何ですかそれは! 魔王の地位にいたくせに娘かわいさに我らの社会を無視するとは!」

「奴は娘のことを溺愛していたからな。娘と魔族の社会を天秤にかけて娘を選んだということだろうな」

「そうだとしたら、なおのこと魔女をその手で打つべきだったではありませんか! 何故、生きて封印するということにしてしまったのです! あれほどの力があれば人間どもなど……」

「……その人間の力をこの身に宿せというのか?」

「え?」

「忘れたか? 聖女『ミヨダ・ボリャ』のことを、あの女の子供でもあるのだぞ。あの危険極まりない女の!」

「そ、それは……」

「魔女を殺し、その力を得るということは、あの女の力も得てしまうことになる! そんなことは汚らわしくて想像もしたくもないのだ! 思えば、あの女のせいでディハルトは変わってしまったのだ!」

「…………」


 ミヨダ・ボリャ。ファンム王国が停戦の条件にディハルトに差し出した美しい聖女で、ディハルトの妻になり、ミエダを産んだ女のことだ。ミヨダはディハルトの妻になることは最初は悲しかったようだが、ディハルトに毎晩弄ばれるうちに精神に異常をきたしたのか、妻になって一か月後から、何故かディハルトを心から愛するようになっていた。その様子を知る魔族達は人間でありながら魔王を愛する彼女のことを気味悪がるようになったが、ディハルトのほうはかえって気にいるようになり、いっそう激しく弄ぶようになった。いつしかディハルトもミヨダを愛するようになってしまった。


 夫婦になって一年後、ミヨダの腹にディハルトの子供が宿り、夫婦そろって大喜びだった。何の相談もなく産むと二人で決めてしまった。魔族の多くはお腹の子供は危険だとして殺すべきだと主張していたが、そのことにディハルトは憤り、しつこく殺すと主張する者たちを殺しつくしてしまった。この頃から、ディハルトの残虐性は増していった。


 そして、ミエダが産まれた。赤子の頃の外見は人間だがその魔力と髪と瞳の色がディハルトと同じものだったため、ディハルトはひどく溺愛した。大きくなるにつれ、ミエダは母親のように美しくなり、他の子どもに負けない強さを身につけたため、ディハルトの親バカは増長していった。


 やがて、ディハルトは人間との共存を考えるようになっていた。多くの魔族はこれには失望するしかなかった。これまで人間と戦争をして国を二つも滅ぼしておいて今更『共存』など、どうしても許せないことだったのだ。


 不審に思ったガルケイドは人間との共存について、ディハルト本人に詳しく問い詰めてみた結果、とんでもない返事が返ってきた。


『魔族と人間が共存する魔界を作ることで、魔族と人間の混血児を増やしていく。そういう子供たちが魔族にも人間にも匹敵する強さを持つことを俺は愛する娘を見て知っている。魔界の戦力が潤うだけじゃない、娘の将来の友達や優秀な部下ができるのだ。娘のためにも魔族と人間が共存する魔界を作らなければならない』


 ディハルトの真意を知ったガルケイドは、すぐに反乱を起こすことを決意した。魔界の血筋と社会と秩序を守るためにもディハルトとその家族を排除しなければならないと。そして、今に至る。







「私の行動は否定できるか?」

「……できません」


 ティエントはガルケイドの言うことも理解できる。後になって、ディハルトの思想はミヨダによって考えられたものだったことが分かったからだ。彼女が何を思って魔族と人間が共存する魔界を作ろうと考えたのかは不明だが、そこに娘のことが絡んでいることはまず間違いないだろう。彼女もまた、娘をひどく愛していたのだから。


「ティエントよ、私はこれを機に魔族の社会をよりよくするために『力』だけを残す考え方を変えてみようかと考えている」

「ええ!? 何故です!?」

「ディハルトもミヨダも歪んでいたが、娘に対する愛情は本物だったと思っている。ミヨダは分からないが、ディハルトは死ぬ間際まで娘に笑顔を絶やさなかった。あの顔を私は忘れられんのだ。あの二人の『愛』が全て間違っているとまでは私は思わない」

「ガルケイド様……」

「あの二人が私に見せた『愛』が娘を生かした。これは一種の強さではないかと思うのだ。だが、魔界の魔族は『愛』というものには無頓着なものが多い。それを改善する意味でも今の社会を少しより良いものにしたいのだ」

「……なるほど、分かりました。では、魔王城に戻ってすぐにでも会議を開きましょう」

「そうだな。我が息子『エルロウド』と遊ぶ時間がまた短くなってしまうがな」

「さようですね」


 ティエントは、「あなたも大概ですよ」と思った。何故、そのことが少しうれしいかは分からないが。

明日(5/30)はホワイトサイドを投稿します!

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