第20話 目的/共感
ここでゼクトは『これから』を決めると言い出すけど……
「ここで決めるの?」
「ああ」
「外に出て二人で決めようってことになったはずだけど、ここは外じゃないでしょ?」
ここはまだダンジョンの中。でも、すぐに外に出れるからいいのかな?
「考えてみれば、いきなり外に出ても落ち着いて話し合う場所が近くにないんだよな」
「え? そうなの?」
「ミエダの封印された場所は山の中、その山も人里から離れてるんだ。山の周りも森が広がってるんだ」
山や森の中で落ち着いて話し合うのはちょっと……
「……そうなると、決めてから外に出たほうがいいということね」
「ものすごい真実も知ったしな」
初代魔王様の記録による世界の真実。そして……
※……………………
私達はこの部屋で話し合うことになったんだけど、私は全く案が浮かばない。考えるふりするわけにもいかないが、何年も封印された身としては、今更復讐する気もないし、故郷に帰りたいという願望もない。魔族と人間の争いも無くなったっていうなら、私たち親子の願いも達成されているかもしれない。どうするのか、どうしたいのか、何を目標にするのか、何を目指すのか、全く思い浮かばない。
だけど、ゼクトとどんな関係を築いていくかは決めてある。いずれは彼と……早い未来予想図かしら? ん? 視線がこっちに向いてるような?
「どうしたの? 何か名案は浮かんだ?」
「え!? いや、その……」
あら、何か別のこと考えてたのかな?
「え、えーと、初代魔王のことなんだけどさ。こんな感じのダンジョンがまだあるって言ってただろ」
「ええ。正確にはここを含めて九つあるって」
「それを探してみないか?」
「え? 初代様のダンジョンを?」
「あ、ああ、うん。そうなんだ」
初代様のダンジョン。まだ他にあるってことは、新たな記録や未知の力をもらえる可能性がある。それを探す……か。
「なるほど……。確かに面白そうね。私としては興味深いし」
「だっ、だろ? だから、ひとまず……」
「だけど、どうしてそう思ったの?」
「どうしてって……」
「ダンジョンには危険がたくさんある。その奥には今回みたいな記録か宝物があったりするんだろうけど、わざわざそんな所を目指す理由はあるの?」
「それは……」
ゼクトが言葉に詰まる。私の言うことが正論だからね。私は反対しないけど、私はともかくゼクトを危険な目に遭わせたくはない。だからこそ聞いてみた。すると……
「『目的』が欲しいんだ」
「目的?」
「ああ。かつての俺は親父のような勇者になるっていう夢があったんだけど、今はそんなものを目指す気になれなくてな。つまり……」
「つまり……?」
「今の俺には夢が無い」
「…………」
「……でもな、夢でなくても、何かのために頑張りたいと思ってるんだ」
「っ!」
何かのために頑張りたい。それを聞いた時、私は小さな衝撃を受けた気がした。これはきっと、私がゼクトに共感したのだ。心の底から。
「何かのために頑張る……そのために目的が必要なんだ。まあ、『目的』を得ることが俺の目的ってことさ」
「つまり、その『目的』を得るために初代様のダンジョンを探すってこと?」
「そういうことなんだけど……ミエダの言う通り、わざわざ危険なところに行くこともないかな……。どうせならレベルの高い目的が持てればいいと思ったんだけど……ミエダに何か名案があるなら優先するけど……」
「何で私を優先するの? 名案はないし、賛成だけど」
「えっ、いいのか? ていうか、どうして?」
「どうして?」なんて愚問だわ。
「何年も封印されて心がすり減った私に名案なんて浮かぶはずないじゃない。そもそも、私にだって夢や目的何てないのよ」
「そ、そうか……」
「何より、ゼクトは私の恩人よ。そして、一番大切な人……その人の言うことなら無条件に従うわ」
「…………っ!?」
「もっとも、私も半分魔族の身としては初代魔王様が残した遺産は気になるしね。あれ? 聞いてるの?」
ゼクトの顔が赤くなってる。「大切な人」に反応したのね。ふふふ。
「えっ!? あっ、うんうん、聞いてる聞いてる! 賛成ってことは分かった!」
「それなら、ゼクトの案で決定ね。初代様のダンジョン探し。これで目的ができたわね」
「はは、そうだな。何か悪いな、俺のわがままに付き合わせたみたいで」
「そんなことないわ。私はゼクトについて行くだけなんだもの。それに、まだ決めなくちゃいけないことがあるし」
「決めなくちゃいけないこと?」
『これから』についてはほぼ決まった。後は、一番大事なことを決めなくちゃいけない。
「私達……二人の関係よ」
そう。私たち二人は、どんな関係を持つべきか。