第19話 思い出した/忘れてた
初代魔王……様のお話では、この世界の過去には『神』を名乗る者がいた。人間も魔族も、あるゆる種族がその神を崇めていた。だが、その神とやらは恐るべき邪悪だった。後に邪神と言われた。
邪神はどんな種族も弄んだ。人々にあることないことを吹き込み、戦争を起こさせ、不幸をばらまいて笑うという最低最悪のクズだった。
そんな邪神の本性を知り憤った人々が結集し、邪神に滅ぼすために手を組んだ。そんな人々の存在を知った邪神は、己に従う『神軍』を使って、従わない人々を『反逆軍』と呼び潰そうとした。
神軍と反逆軍の争いは九十九年続き、神軍は破れた。その時の反逆軍のリーダーが、初代魔王になるラスタート・ミョアウ様だという。この人は驚くべきことに、私と同じ人間と魔族の間に生まれた。そして、絶大な力を持っていた。
神軍が負けたことを知った邪神は、自分を滅ぼそうとする反逆軍を返り討ちにすべく、自分自身が戦いに出た。邪神は恐るべき力で反乱軍をどんどん数を減らしていった。だが、反乱軍は確実に、邪神を追い詰めていった。追い詰められた邪神は自暴自棄になり、一度、世界を滅ぼしてやり直すのだと言って、最強最悪の魔法を放とうとした。
それを阻止すべく、初代魔王様の率いる反乱軍は多くの犠牲を出しながらも、必死に邪神を滅ぼそうとした。そして遂に、邪神の心臓に刃を刺し、邪神を殺したのだ。
だが、少し遅かった。邪神が滅びても、邪神の魔法は発動してしまい、世界の全てが焼き尽くされてしまった。残りの反乱軍は防御魔法で生き残ったが、彼ら以外の多くの種族が滅んでしまった。
初代魔王様を含む反乱軍は、滅んだ世界を見て嘆き悲しみ絶望した。生きる意味を失い、自ら死のうとも考えるほど追い詰められたが、あるものを見て考え直した。それは、初代魔王様が非常食用に持っていた木の実から出た発芽した『木の芽』だった。それを見た初代魔王様は希望を感じ取り、世界を再生しようと考えた。
そのための第一歩として、新たな人間と魔族を生み出すことにした。そこで、人間と魔族の両方の血を持つ初代魔王様の遺伝子と、邪神の使っていた生命を生み出す神具を利用した。その計画は成功し、新しい人間と魔族の子供を誕生させることができた。反乱軍達は喜び、新たな目標ができた。
反乱軍達は邪神の魔道具を処分した後、地上に暮らす者と魔界に暮らす者に分かれた。地上では人間の世界の復興、魔界では魔族の世界の復興に努めたのだ。魔界のもちろん、初代魔王様が中心になって行われた。
そして、世界は今に至る。
※…………
……………………なんてこと。
この世界にそんな真実があったなんて……。このお方の遺伝子から今の世界の魔族や人間が生まれたなんて……。
『このダンジョンは、世界にまた強大な危機が迫った時のために作ったシェルターであり、私の持っていた『力』を授けるためのものなんだ。他の地にも同じものがあるけど、ここを含めて全部で九つあるんだ。尤も、『力』をどう扱うかは君、もしくは君たち次第だ。だけど、願わくば、その『力』を悪事ではなく正しいことのために使ってほしい。さて、記録はここまでだ。君、もしくは君たちのこれからの未来に希望がありますように』
フッ……
「「………………」」
偉大なる初代魔王ラスタート・ミョアウ。その姿が消えた……。その時、私たちの体に変化が起きた。
「ん? なんだ、魔力が、何か……あれ?」
「魔力量が増加して……いや、それだけじゃ、ない?」
魔力量の増加…………だけじゃない。何か、違和感がある。これは、魔力の他に道の何かが入ってきた……?
「何か、妙な気分だ……ミエダは、何か分かるか?」
「私も、よく分からないけど……未知の力が入ってきたってとこかな。初代魔王様の言ってた『力』がそうなのかも……」
「『力』か」
初代魔王様が与えてくださった力。それが何なのかは分からない。体の中に入ってきたのは分かるけど、今は詳しく知ることができないみたいね。ちょっと落ち着かない気はするけど、それもすぐに慣れそうね。
「……何か分からないもんよりも目に見えて分かるもんが欲しかったな」
「まあ、気持ちは分かるけど、確実に分かる者はあるでしょ。魔力量が上がったのよ」
「それもそうだな。こっちはちょっと上がったぐらいだけどな」
「ふっ、それもそうね」
たとえちょっとでも、魔力量が上がったことも感謝できる。ゼクトはそこらへんは分からないのかな?
「さて、この辺で決めようか。ミエダ」
「ん? 何を?」
「『これから』だよ」
あ、忘れてた。私たちの『これから』がまだ決まってなかった。