第15話 狂戦士/怪人
「バトルファイヤー!」
「ハンドファイヤー!」
ジュウウウウウウウウウウ!!
休憩を終えた私達は、中に入るために凍らせた門の氷を溶かして開けるようにした。
「俺が開いてみるよ」
「ええ」
ガチャッ ギイイィッ
警戒しながらゼクトが扉を開く。その中は驚くほど、丁寧でしっかりした造りになっていた。……不思議な気分だわ。何故か、私が暮らしていた魔王城を思い出してしまう。というよりも、何か似ている気がしてならない。だからこそ、嫌な予感がする。
「……このまま進もう。嫌な予感がするから気を付けようぜ」
「そうね。こういう場所って、ダンジョンのボスが出そうな雰囲気があるもんね」
「やっぱりミエダも分かるか?」
「本の知識だけどね……」
本当は本の知識だけじゃない。魔王城はダンジョンを参考に作られたと父から聞いたことがあるのよね。何でも、ダンジョン内の建築物は頑丈に造られているからだそうだけど、本当みたいね。
中をまっすぐ進むと、もう見たくもなかったものを見てしまった。こんなものがここにあるなんて……!
「本当に嫌なものがあったわね……!」
「ミエダ、どうした?」
「この扉、私が封印された部屋の扉にそっくりなのよ! 形も大きさもね……!」
「え!? あっ! そういえば!」
あの扉はしっかり覚えてる。覚えてしまってる。ゼクトが光をもたらして初めてしっかり見たけど、嫌でも覚えている! 私にとっての負の思い出の一つを! 不吉の象徴を!
「こんな扉がここにあるってことは……!」
「この先にあるのは、ヤバいもんがあるってことか!」
私は落ち着きが無くなってきてしまった。だけど、当然よ。こんなものを見てしまったんだから。だけど、これほどの扉があるということは、この先にあるのは私と同じかそれ以上に重要な何かがあることを意味する。多分それは……。
「ついに最後の試練にぶつかったわけか。思ったより早かったな」
「そうでもないわ。ここで10階層目なんだもの。結構、長かったわよ? 戦闘は少なかったけど、このダンジョンがもう少し新しかったら、もっと大変だったでしょうね」
「そういやそうか。ここまで下に行って初めて戦闘をしたんだよな」
魔物が現れはじめたのはこの10階層目。罠も機能していなかった。「老朽化と生態系の変化」によって、ダンジョンの内部が変化したと思うけど、もしも「それ」が無かったら、私達はもっと長くダンジョンに囚われていたでしょうね。
「本当の戦いがこの先にあるってことか。緊張してきやがったぜ、はは……」
「本当ね。私も緊張してきちゃった……」
「だけど、ここを攻略できれば……」
「そう。この先の魔物を倒せば……」
「「外に出られる!」」
ゼクトと声が重なった。この先にいる魔物を倒してダンジョンを攻略すれば、外に出られる。そして、『これから』も決められる。だけど、私は心の中で不安に感じてもいる。この先にいる魔物を本当に倒すことができるのか、初心者の私達が……?
私とゼクトは、覚悟を決めて扉を開いた。扉を開いた先にあったのは、闘技場のような部屋だった。それも、奴隷同士を戦わせて楽しむための闘技場に近い。私は好ましい印象が無かったので良く知らないけど、それもダンジョンから参考にしてたのね。あれ? 部屋の中央に彫像があるけど、魔族の者かしら? 鎧を着こんでるけど? ん? あの先にも扉があるわね。この部屋は最後の部屋ではない?
「な、何だここは? 神殿みたいな所だったのに、今度はどっかの闘技場みたいになったな」
「闘技場かどうか分からないけど、向こうにも扉があるわ」
「何だ。まだ、扉があんのかよ」
「とりあえず、あの扉の先に行ってみましょう。この部屋も気になるけどね」
「気になるといえば、あの像か?」
「そうね。見たこともない鎧を着てるしね」
彫像をもう一度見てみると、見たことない鎧を着てるだけでなく、顔が虫の魔物のようになっていた。2本の金色の角が生えているようにも見えたけど、虫の顎を眉毛のあたりから付けた感じだ。どうやら、これは『怪人』の像みたい。怪人とは、人型の種族が何らかの理由で怪物のように変異したものだ。私は実際に見たことは無いけど、恐ろしい怪物になるそうだ。私は彫像から離れて奥の部屋に向かう。すると……。
ゴットン!!
「な、何だ!?」
「あ、あれは!」
突然、大きな音がしたけど、振り返ってみたら大変! 入ってきた扉が壁で封鎖されてしまった。これで戻れなくなってしまったわ。 あれ? 彫像が!!
「何でこのタイミングで引き返せなくするんだよ!? このダンジョン本当に……」
「ゼクト!! その彫像から離れなさい!!」
「えっ!? 何を、って何い!?」
……パキパキパキ
変化があったのは扉だけじゃなかった。彫像が動き出し始めた! しかも、ゼクトに触れようとするなんて! 幸い、ゼクトは私の指示に従ってすぐ離れた。良かった~。だが、安心するのはまだ早い。動き出す彫像の表面が崩れて、中からとんでもないものが出てきてしまった。
「ウウウ~! ゼバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
現れたのは怪人だ。いや、現れたんじゃなくて、私達に反応して石になっていた怪人が目覚めたんだ。真っ白な体表に武装した格好をした強そうな怪人だ。つまり、こいつがダンジョンの上級の魔物の役割をしてるってわけね。
「……やっぱり、ここにいたってことか。最強の魔物がよ!」
「あいつで間違いないでしょうね!そうと決まれば!」
「ああ! ぶっ倒すだけだ!! いくぞ!!」
「ええ!!」
「ダグゥ~! ゼバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
このダンジョン内における最後の戦いが始まった。