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踊り  作者: もんじろう
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9

 翌朝、目覚めると由衣さんの姿は無かった。


 昨夜の僕と由衣さん…。


 まるで夢みたいだ。


 最初のうちは村長たちを気にして恐る恐るだったのに、途中から僕は由衣さんという深淵に飲み込まれ、無我夢中になってしまった。


 全身に彼女の生々しい感触が残っている。


 僕は自分の服を着た。


 荷物はそのままで部屋を出る。


 廊下で雅人さんと出くわした。


「高橋さん、おはよう」


 雅人さんが挨拶する。


 僕を見る眼は温かく優しい。


「おはようございます。あの…由衣さんは?」


 雅人さんが眼を細めた。


「由衣は台所だ」


 僕は雅人さんに会釈して、横を通り過ぎた。


 台所へ向かう。


 雅人さんの手が、僕の腕を掴む。


「高橋さん」


「?」


「昨夜のことは深く考えんで良いだ。由衣も分かってる。あんな踊りでは…お情けでも」


「お情けじゃないっ!!」


 僕は思わず怒鳴っていた。


 雅人さんが口を開けっ放しで驚く。


 自分でも戸惑うほどの怒りが込み上げてきた。


 由衣さんの価値をあんなヘンテコリンな踊りだけで決めつける、この村への激しい(いきどお)りだった。


 彼女は、こんな扱いを受けて良い人じゃない!!


 僕は雅人さんの手を振り払って、台所へ向かった。


 台所では3人の女性が朝ごはんの支度をしていた。


 村長の奥さん、雅人さんのもう1人の妹さん、そして。


「由衣さん!!」


 僕は由衣さんの側に立った。


「高橋さん…」


 由衣さんが眼を逸らして、顔を赤らめる。


 村長の奥さんたちが、何事かと僕を見ている。


 僕は由衣さんの両手を握った。


「由衣さん」


「………」


「僕といっしょに、この村を出ましょう」


「「「え!?」」」


 女性たち3人が、同時に驚く。


 まさか、こんな辺鄙(へんぴ)な村で僕の人生の重大な決断を迫られるなんて思いもしなかった。


 でも。


 僕は覚悟を決めた。


 もう、由衣さんと離れるなんて考えられない。


「僕と結婚してください」


 僕はプロポーズした。




 村を出た僕と由衣さんは本当に結婚した。


 村長と雅人さんも突然の僕の申し出に驚いたが、由衣さんも同意していると分かると、二つ返事で認めてくれた。


「いやー。高橋さんも、とんでもない物好きだて。ほんにありがたいこった。由衣、お前は運が良かったなぁ」


 そう言う村長の瞳は、涙で潤んでいた。


 雅人さんは僕の両手を握って「妹を頼みますだ」と何度も何度も頭を下げた。


 僕と由衣さんの結婚式に出席した、会社の経理部のベテラン女子社員は「わあ! すごく綺麗な花嫁さんじゃない! やったわね!」と驚いた。


 式の後、僕が住んでいた街でマンションを借りて、2人で新生活を始めた。


 結婚3年目に生まれた一人娘の(のぞみ)は今年で5歳だ。











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