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「大丈夫ですよ、由衣さん」
「え?」
彼女は心底、不思議そうだった。
「でも今、踊りは下手だって…」
「言ってませんよ! 分からない、評価できないって言ったんです!」
「それは私に魅力が無いってことですよね?」
「違いますよ! 由衣さんは魅力的です! というか、魅力の塊みたいな人です! ものすごく素敵ですよ!」
しばしの沈黙。
「嘘」
由衣さんの声に若干の怒りが混じった。
「高橋さんも私に…そんな気持ちにはならないでしょう?」
「な、なりますよ! もうめちゃくちゃなってますよ! ものすごいですよ!」
ああ。
僕は何を言っているのだろうか?
自分が、とてつもなく馬鹿に思えてきた。
「嘘」
「嘘じゃないです」
「じゃあ…その…」
由衣さんが口ごもった。
「?」
「高橋さん、私と…その…出来ますか?」
な…何なんだ、これは!?
突如、猛烈な怒りが湧いてきた。
そりゃあ、由衣さんにこんなお誘いを受けるのは嬉しい。
ものすごく嬉しいけれど…。
何だ、この変なシチュエーションは!?
何故、こんな形で決断を迫られるのか!?
しかも、この部屋で始めるとなると、村長さんたちに気づかれる可能性もある。
今日、来たばかりの男に娘を…ダメだ、これは無茶苦茶に怒られるに違いない。
「い、家の方々に…」
「家族はもう、知っていると思います。皆、私を応援してくれてるから」
「ええ!?」
し、知っている!?
由衣さんと僕が…その…してもいいってこと!?
「もちろん、私は自分の踊りを見た高橋さんが、そんな気持ちになるなんて思えなかったけど…万にひとつ…もしかしたらって…準備はしてきました。お願いします、私、このままだと誰にも愛されない」
そんなことないよ!
変な踊りで君の価値は決まったりしない!
そう言ってあげたかったけど、すごく興奮してしまって、喉まで出かかった言葉が詰まる。
暗闇の中、由衣さんが着物を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてきた。
ふわっと甘い匂いが漂って、僕の鼻腔をくすぐった。
ああ。
ダメだ。
とても大事な…よく考えないといけないのに…脳みそが全然、働かない。
頭が痺れてきた。
由衣さんの手が僕の浴衣の帯を解いた。
も、もうダメだ!!
僕は陥落した。