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踊り  作者: もんじろう
8/10

8

「大丈夫ですよ、由衣さん」


「え?」


 彼女は心底、不思議そうだった。


「でも今、踊りは下手だって…」


「言ってませんよ! 分からない、評価できないって言ったんです!」


「それは私に魅力が無いってことですよね?」


「違いますよ! 由衣さんは魅力的です! というか、魅力の塊みたいな人です! ものすごく素敵ですよ!」


 しばしの沈黙。


「嘘」


 由衣さんの声に若干(じゃっかん)の怒りが混じった。


「高橋さんも私に…そんな気持ちにはならないでしょう?」


「な、なりますよ! もうめちゃくちゃなってますよ! ものすごいですよ!」


 ああ。


 僕は何を言っているのだろうか?


 自分が、とてつもなく馬鹿に思えてきた。


「嘘」


「嘘じゃないです」


「じゃあ…その…」


 由衣さんが口ごもった。


「?」


「高橋さん、私と…その…出来ますか?」


 な…何なんだ、これは!?


 突如、猛烈な怒りが湧いてきた。


 そりゃあ、由衣さんにこんなお誘いを受けるのは嬉しい。


 ものすごく嬉しいけれど…。


 何だ、この変なシチュエーションは!?


 何故、こんな形で決断を迫られるのか!?


 しかも、この部屋で始めるとなると、村長さんたちに気づかれる可能性もある。


 今日、来たばかりの男に娘を…ダメだ、これは無茶苦茶に怒られるに違いない。


「い、家の方々に…」


「家族はもう、知っていると思います。皆、私を応援してくれてるから」


「ええ!?」


 し、知っている!?


 由衣さんと僕が…その…してもいいってこと!?


「もちろん、私は自分の踊りを見た高橋さんが、そんな気持ちになるなんて思えなかったけど…万にひとつ…もしかしたらって…準備はしてきました。お願いします、私、このままだと誰にも愛されない」


 そんなことないよ!


 変な踊りで君の価値は決まったりしない!


 そう言ってあげたかったけど、すごく興奮してしまって、喉まで出かかった言葉が詰まる。


 暗闇の中、由衣さんが着物を脱ぐ衣擦(きぬず)れの音が聞こえてきた。


 ふわっと甘い匂いが漂って、僕の鼻腔(びこう)をくすぐった。


 ああ。


 ダメだ。


 とても大事な…よく考えないといけないのに…脳みそが全然、働かない。


 頭が痺れてきた。


 由衣さんの手が僕の浴衣の帯を解いた。


 も、もうダメだ!!


 僕は陥落(かんらく)した。



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