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踊り  作者: もんじろう
6/10

6

 次に前列に座る、由衣さんと近い年齢の女性が前に出た。


 由衣さんの踊りで何となく盛り下がっていた村人たちが、あっという間に元気になる。


 再び、女武者の歌を唱いだした。


 女性が拍子を取って、踊り始める。


 由衣さんと全く同じ動き。


 何ひとつ変わらない。


 少なくとも、僕には違いが分からない。


 それなのに村人たちは由衣さんのときと、まるで正反対の熱狂を見せた。


 特に数少ない若い男性たちは顔を上気させ、熱い視線を女性に投げかけている。


 皆の合いの手の気合いも、さっきとまるで違う。


 何なんだ、これは?


 さっぱり意味が分からない。




 その後、残った女性陣の変な踊りを何回も見せられて、ようやく宴会はお開きになった。


 踊り自体の奇妙さには、だんだん慣れてきた。


 程度の差こそあれ、村人たちは由衣さんのときよりも、大いに盛り上がった。


 僕には全ての踊りが同じに見えたので、由衣さんだけ評価が低いのには、腹立ちさえ覚えた。


 村人たちが片付けする中、僕は雅人さんに八畳間の和室へと案内された。


 布団が一組、敷かれている。


「いやー」


 雅人さんが上機嫌で、僕の背中を叩く。


「楽しかった! 大満足だ」


 満面の笑み。


「高橋さんも楽しめた?」


「はい」


 僕は頷いた。


 変な踊りを何度も見せられたのは正直、辟易(へきえき)したけれど、それはそれで貴重な体験だった。


 村の人たちが楽しかったのなら、良しとしよう。


「あと」


 雅人さんが、ふと真顔になった。


「由衣の下手な踊りは、本当に申し訳ない。どうか、この通り」


 雅人さんの頭が下がる。


「いえいえ!」


 僕は慌てた。


 何と言ったって、僕には由衣さんの踊りも、他の女性たちの踊りも違いはなかったのだから。


「由衣さんの踊りも楽しめました!」


 雅人さんが、さっと顔を上げる。


 ものすごく驚いた表情だ。


「高橋さん…」


 雅人さんが微笑む。


「あんな踊りを…兄貴の俺から見ても、ひどいもんなのに…ありがとう。なんて優しい人だ」


 雅人さんは何度も礼を言って、部屋を出ていった。


 僕は布団の横に用意された浴衣に着替えた。


 電気を消して、布団に入る。


 さあ、眠ろう。


 明日には、この村ともお別れだ。




「…橋さん」


 誰かの声がする。


「高橋さん」


 耳元で囁いている。


 僕は眼が覚めた。


 部屋は暗い。


 すぐ側に人の気配がする。


 僕は慌てて上半身を起こした。


 暗闇の中、誰かの手が、そっと僕の腕に触れる。


「雅人の妹の由衣です」


 由衣さん!?


 まだ半分残っていた眠気が、瞬時に吹っ飛ぶ。

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