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次に前列に座る、由衣さんと近い年齢の女性が前に出た。
由衣さんの踊りで何となく盛り下がっていた村人たちが、あっという間に元気になる。
再び、女武者の歌を唱いだした。
女性が拍子を取って、踊り始める。
由衣さんと全く同じ動き。
何ひとつ変わらない。
少なくとも、僕には違いが分からない。
それなのに村人たちは由衣さんのときと、まるで正反対の熱狂を見せた。
特に数少ない若い男性たちは顔を上気させ、熱い視線を女性に投げかけている。
皆の合いの手の気合いも、さっきとまるで違う。
何なんだ、これは?
さっぱり意味が分からない。
その後、残った女性陣の変な踊りを何回も見せられて、ようやく宴会はお開きになった。
踊り自体の奇妙さには、だんだん慣れてきた。
程度の差こそあれ、村人たちは由衣さんのときよりも、大いに盛り上がった。
僕には全ての踊りが同じに見えたので、由衣さんだけ評価が低いのには、腹立ちさえ覚えた。
村人たちが片付けする中、僕は雅人さんに八畳間の和室へと案内された。
布団が一組、敷かれている。
「いやー」
雅人さんが上機嫌で、僕の背中を叩く。
「楽しかった! 大満足だ」
満面の笑み。
「高橋さんも楽しめた?」
「はい」
僕は頷いた。
変な踊りを何度も見せられたのは正直、辟易したけれど、それはそれで貴重な体験だった。
村の人たちが楽しかったのなら、良しとしよう。
「あと」
雅人さんが、ふと真顔になった。
「由衣の下手な踊りは、本当に申し訳ない。どうか、この通り」
雅人さんの頭が下がる。
「いえいえ!」
僕は慌てた。
何と言ったって、僕には由衣さんの踊りも、他の女性たちの踊りも違いはなかったのだから。
「由衣さんの踊りも楽しめました!」
雅人さんが、さっと顔を上げる。
ものすごく驚いた表情だ。
「高橋さん…」
雅人さんが微笑む。
「あんな踊りを…兄貴の俺から見ても、ひどいもんなのに…ありがとう。なんて優しい人だ」
雅人さんは何度も礼を言って、部屋を出ていった。
僕は布団の横に用意された浴衣に着替えた。
電気を消して、布団に入る。
さあ、眠ろう。
明日には、この村ともお別れだ。
「…橋さん」
誰かの声がする。
「高橋さん」
耳元で囁いている。
僕は眼が覚めた。
部屋は暗い。
すぐ側に人の気配がする。
僕は慌てて上半身を起こした。
暗闇の中、誰かの手が、そっと僕の腕に触れる。
「雅人の妹の由衣です」
由衣さん!?
まだ半分残っていた眠気が、瞬時に吹っ飛ぶ。