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踊り  作者: もんじろう
4/10

4

 山の幸をふんだんに使った料理は、どれも珍しく美味しかった。


 村人が造っているという見たこともない地酒も、独特の風味が合って旨い。


 村人たちは皆、優しく人懐(ひとなつ)こい。


 その笑顔を見ているうちに、最初は申し訳ないと思っていた僕の引け目も薄らいできた。


 雅人さんも宴会する口実が欲しいと言っていたじゃないか。


 これはこれで良かったのだ。


 今回は、とても楽しい旅になった。


 初めに並べられていた料理が減ると、新しい料理が次々と運ばれてくる。


 僕は無意識のうちに、台所の前で逢った女性の姿を捜している自分に気づいた。


 彼女は見当たらない。


 それどころか、ついさっきまでと様子が違う。


 僕はその違和感が何か分かった。


 いつの間にか、女性たちの人数が少なくなっているのだ。


 これはいったい?


「よし」


 村長が言った。


「じゃあ、踊りを始めるだて」


 村人たちが一斉に拍手する。


 僕の席の反対側の襖が、さっと開いた。


 紺の作務衣(さむえ)を着た6人の女性たちが現れる。


 2列で正座していた。


 僕は思わず「あっ」と声を出してしまった。


「どないしましたか?」と雅人さんが心配する。


「い、いえ」


 僕は慌てて、ごまかした。


 後列の端に、あの美しい女性の姿を見つけて驚いしまったのだ。


「まずは由衣(ゆい)から」


 村長がそう言うと、それまでものすごく盛り上がっていた村人たちが、妙な雰囲気になった。


 何と言えば良いのか…あからさまではないが「あー」というか「困ったなぁ」というか。


 ひどく、ばつの悪そうな感じ。


「高橋さん」


 雅人さんが僕に耳打ちした。


「はい?」


「妹の由衣だ。とても人様に見せられるような技量じゃねえけど、人一倍の努力はしてる。身内の頼みで恥ずかしいすが、辛抱して見てやって欲しいだ」


「は…はい…」


 僕は頷いた。


 雅人さんが話している間も、あの女性から眼は離せなかった。


 すると、僕が見ている女性が立ち上がって、宴会場の真ん中へと進み出た。


 僕の予想通り、彼女は雅人さんの妹、すなわち村長の娘だったのか。


 由衣さん…。


 由衣さんが、こちらを見つめ返してくるので、僕は出逢った時のようにドキドキしてきた。


 本当に綺麗だ。


 それにしても…ちょっと僕を見つめすぎじゃないだろうか?


「村の外の人に踊りを見せるのは初めてだ。かなり緊張してる」


 雅人さんが言った。


 確かに口を真一文字に結んだ由衣さんの顔色は青白く、表情には強い悲壮感が漂っている。


 そ、そんなに、この踊りは重要なものなのだろうか?












 

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