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山の幸をふんだんに使った料理は、どれも珍しく美味しかった。
村人が造っているという見たこともない地酒も、独特の風味が合って旨い。
村人たちは皆、優しく人懐こい。
その笑顔を見ているうちに、最初は申し訳ないと思っていた僕の引け目も薄らいできた。
雅人さんも宴会する口実が欲しいと言っていたじゃないか。
これはこれで良かったのだ。
今回は、とても楽しい旅になった。
初めに並べられていた料理が減ると、新しい料理が次々と運ばれてくる。
僕は無意識のうちに、台所の前で逢った女性の姿を捜している自分に気づいた。
彼女は見当たらない。
それどころか、ついさっきまでと様子が違う。
僕はその違和感が何か分かった。
いつの間にか、女性たちの人数が少なくなっているのだ。
これはいったい?
「よし」
村長が言った。
「じゃあ、踊りを始めるだて」
村人たちが一斉に拍手する。
僕の席の反対側の襖が、さっと開いた。
紺の作務衣を着た6人の女性たちが現れる。
2列で正座していた。
僕は思わず「あっ」と声を出してしまった。
「どないしましたか?」と雅人さんが心配する。
「い、いえ」
僕は慌てて、ごまかした。
後列の端に、あの美しい女性の姿を見つけて驚いしまったのだ。
「まずは由衣から」
村長がそう言うと、それまでものすごく盛り上がっていた村人たちが、妙な雰囲気になった。
何と言えば良いのか…あからさまではないが「あー」というか「困ったなぁ」というか。
ひどく、ばつの悪そうな感じ。
「高橋さん」
雅人さんが僕に耳打ちした。
「はい?」
「妹の由衣だ。とても人様に見せられるような技量じゃねえけど、人一倍の努力はしてる。身内の頼みで恥ずかしいすが、辛抱して見てやって欲しいだ」
「は…はい…」
僕は頷いた。
雅人さんが話している間も、あの女性から眼は離せなかった。
すると、僕が見ている女性が立ち上がって、宴会場の真ん中へと進み出た。
僕の予想通り、彼女は雅人さんの妹、すなわち村長の娘だったのか。
由衣さん…。
由衣さんが、こちらを見つめ返してくるので、僕は出逢った時のようにドキドキしてきた。
本当に綺麗だ。
それにしても…ちょっと僕を見つめすぎじゃないだろうか?
「村の外の人に踊りを見せるのは初めてだ。かなり緊張してる」
雅人さんが言った。
確かに口を真一文字に結んだ由衣さんの顔色は青白く、表情には強い悲壮感が漂っている。
そ、そんなに、この踊りは重要なものなのだろうか?