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踊り  作者: もんじろう
3/10

3

 僕は「何か手伝います」と雅人さんに申し入れた。


「そんなことさせたら、俺が親父に()やされる。もうすぐ夕方だで、皆が集まってくるから、それまでゆっくりしてて。お願いしますだ」


 雅人さんに頭を下げられ、僕はその言葉に頷くしかなかった。


 大広間の隣の部屋で休もうと思った僕が台所の前を通ると、中から出てきた1人の女性とぶつかりそうになった。


「すみません」と言った僕は相手の顔を見て、息を飲んだ。


 まるで、時間が止まったように思えた。


 身長175㎝の僕より少し背が低い彼女の顔が。


 あまりにも綺麗だったからだ。


 服装こそ地味な白シャツとグレーのスカートだったけれど、その顔は。


 何度も言うが、本当に美しかった。


 女優よりはモデル顔か。


 ぱっちりとしたアーモンド型の瞳が、僕の眼と合う。


 彼女の長い上まつ毛が少し震えるのが分かった。


 20代前半だろうか?


 ということは、雅人さんの2人の妹のどちらかか?


 彼女は視線を落として、右横で束ねた長髪を両手で触った。


 きめ細かい白く透き通った肌が、みるみるうちに赤く染まる。


「す、すみません」


 彼女が小さな声で言った。


 思いの外、低い声で、それが…不謹慎だが、とても艶っぽく感じた。


 思ってもいなかった状況に僕は混乱し、あたふたとなった。


 優しく善意に(あふ)れた村長の娘さん、しかも年若い女性に、いきなりこんな生々しい気持ちを抱くなんて、とんでもない馬鹿としか言い様がない。


 僕の顔が熱くなった。


 しどろもどろの言葉を発しつつ、その場を離れる。


 隣の部屋で畳に腰を下ろしてからも、僕の心臓はドキドキと激しく高鳴り続けた。


 落ち着け。


 落ち着くんだ。


 今夜、この宴会が終われば、僕は明朝にはこの村を出発して、都会の日常に戻る。


 そう、ここに居るのは、あとほんの1日、いや、それより短い時間なのだ。


 絶対に、ややこしいトラブルを起こしてはいけない。


 彼女のことは置いておこう。


 考えるな、考えるな。


 ところが、そう思えば思うほど、さっき間近で見た彼女の美しい姿が思い出されて、全身にうっすらと汗さえかいてしまう始末だった。


(ああ…まったく何だっていうんだ!)


 僕は自分に腹が立ってきた。


 思春期の学生じゃあるまいし!


 興奮が収まらないうちに、宴会の準備が整ったと雅人さんが報せに来た。


 僕は宴会場の上座のど真ん中に(いざな)われた。


 右隣に村長、左隣は雅人さんが座る。


 僕の予想通り、大広間には30人ほどの村人が集まっていた。


 7割が高齢者。


 皆の前にあるお膳には、たくさんの料理が並べられている。


「さあ」


 村長が口を開いた。


「お客さんをもてなすだて」


 こうして、僕のための宴会が始まった。

 






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