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最高にリラックスした状況で、雅人さんとお互いのことを話した。
雅人さんは同じ村に住む女性と5年前に結婚、お子さんが2人居る。
そして妹さんが2人。
どちらも成人済み。
村長と奥さんも加えた全員が、大きな木造の家に住んでいるのだ。
いわゆる大家族。
都会育ちで一人っ子の僕からすると、何だか羨ましい。
そういう、自分が今まで味わえなかった、賑やかな雰囲気を僕は求めているのかもしれない。
「今夜は高橋さんのために」
高橋は僕の名前だ。
「村総出で盛大な宴会を開きますから」
「いえいえ、そんな」
僕は恐縮した。
瞳をキラキラと輝かせる雅人さんの様子が、とても意気込んで見える。
村人たちに、そこまでの負担をかけるのは気が引けた。
もちろん、村長宅に泊まると決まったところで、僕は宿泊代を払わせて欲しいと申し出た。
でもそれは、村長の大笑いで一蹴されてしまった。
「こんな辺鄙な場所へ来てくれた久しぶりのお客様だて。そういうことは、なーんも心配せんとゆっくりしてくれたらええんじゃ」
白髪混じりの頭を揺らして村長は、僕の肩を叩いた。
で、実質、無償でもてなされる立場になってしまった僕は、出来るなら、そんな大げさな歓迎は遠慮したかった。
申し訳なさすぎる。
「いやいや」
雅人さんが笑った。
その顔は大笑いした村長に、よく似ている。
「俺たちも宴会する口実が出来て、喜んでるんだ。ほら、ここはおっそろしく田舎だから。何にも娯楽ってものがねえ。高橋さんに感謝してるぐらいだ」
「はあ…」
僕は頷くしかなかった。
「女子衆も高橋さんに踊りを披露できるって大喜びさ」
「踊り?」
「そうそう」
雅人さんは、いっそう顔を崩して笑った。
心底、楽しそうだ。
雅人さんによると、大昔の鬼を泣かせた女武者が得意だったとされる踊りを村の女性たちが、代々、継承しているのだそうだ。
普段は村の行事でしか舞われないものを今夜は僕のための宴会で披露してくれるらしい。
心配していた熱烈な歓待ぶりに、何とも面映ゆい思いがした。
もっと、こじんまりで良いのに。
ただ、その踊りがどんなものかは、とても興味があった。
鬼を泣かせた伝説の女武者の踊り。
楽しみだ。
僕と雅人さんは、しばらくゆっくりしてから温泉を出て、身体を拭き、服を着た。
そして、村長の家へと帰る。
村長宅は今夜の宴会の準備で、蜂の巣を叩いたような大騒ぎになっていた。
40畳はある大部屋に、いくつものお膳が並べられている。
村長宅の女性陣が、料理の支度に大奮闘していた。
この雰囲気からすると、おそらく30人規模の宴会になるのじゃないだろうか?




