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僕と由衣さん…由衣の仲は最初の頃の激しく熱い関係から、ゆっくり穏やかなものへと変化してきている。
それは世の中の夫婦のほとんどが、そうなのだと思う。
ただの恋愛関係だけではない同志のような感情。
僕はそれに満足していた。
美しい妻と、かわいい娘。
最高だ。
ある休日、妻は近所のママ友さんたちに誘われて、女子会に出かけた。
その間、僕と希はお留守番というわけだ。
希が次々に持ってくるオモチャや、いろんな遊びに付き合っていると、突然「パパ、見て」と私の腕を引っ張った。
顔を向けると、希が激しく動きだす。
あれ?
この動き…どこかで見た覚えが…。
思い出した!!
「鬼哭き村」の踊りだ!!
ど、どうして、希が!?
僕は希の両手を掴んだ。
「希」
「えー?」
希が踊りを邪魔されて、不機嫌そうに答える。
「その踊り、どこで見た?」
希は最近よくする、かわいさを意識した小首を傾げる仕草をした。
そして笑顔を浮かべる。
「ママが踊ってたんだよー」
「ママが!?」
何故だ…何故、由衣が今さら、あの踊りを?
僕が混乱していると、希が再び口を開いた。
「上手に踊るとパパがママを好きになるの」
僕はハッとした。
確かに最近、由衣とはあまりコミュニケーションを取れてない。
仕事の忙しさと疲れを理由に、夜の方もご無沙汰ではあった。
それで寂しい思いをさせてしまったのか。
自分の女性としての魅力を疑いだして、あの踊りを思い出した?
もう一度、出逢った頃に戻れるように?
あんな踊りは何の効力もない。
でも、それにすがってしまう程、不安だったのか?
僕は由衣が、いじらしく思えた。
僕の胸に由衣への愛情が満ちて、熱くなった。
「パパ?」
黙っている僕を希が呼んだ。
僕は希を抱きしめた。
「パパ、ママ好き?」
希が訊いた。
「ああ、大好きだよ」
僕は笑って答えた。
希もその答えに満足げだ。
夕方、由衣が帰ってきた。
希と2人で出迎える。
「ごめんなさい。ちょっと話が盛り上がって遅くなっちゃった。すぐにご飯の用意するわね」
そう言った由衣を僕は抱きしめた。
由衣の顔が真っ赤になる。
「え!? 急に何!?」
僕は由衣にキスした。
「何よー!?アハハ、口紅!」
由衣が僕の唇を指して笑う。
とても楽しそうだ。
こんなものじゃ済まないぞ。
今夜は全力で君を愛する。
少なくとも、あの変な踊りを練習しなくなるぐらいにはね。
「パパ、希もー!!」
希が怒る。
僕は希を抱き上げて頬にキスした。
「希、パパはママのものよ!!」
由衣が僕に抱きつく。
「えー」
希が困り顔になる。
その顔を見て、僕と由衣は大笑いした。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
ホントに大感謝ですm(__)m




