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踊り  作者: もんじろう
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 僕の唯一の趣味は秘湯巡りだ。


 会社で同じ経理部のベテラン女子社員からは「ずいぶん、渋いわね」と笑われる。


「そういう場所って女子との出逢いはあるの?」


 彼女はどうやら、28歳で彼女が居ない僕の心配をしてくれているようだった。


 僕は「あはは」と笑って、その場を誤魔化(ごまか)した。


 もちろん、出逢いなんてない。


 僕が行く秘湯は、だいたい山奥にあって、女子の姿は皆無なのだ。


 住んでいる人たちもお年寄りが多く、たまに若い女性が居ても、すでに結婚している。


 今まで、全く女性と縁が無かったわけじゃない。


 最後に付き合っていた彼女と別れたのは3年前。


 そんなにひどい別れ方ではなかったのに、何故だか僕はそれ以来、恋愛が面倒になってしまった。


 それからはプライベートの時間は、趣味に全て使っている。


 今日も週末の休みを利用して、秘湯へとやって来た。


 地方の山奥にある「鬼哭き村」。


 住む人も少ない、小さな村だ。


 村の名前は、大昔にこの村で悪さをしていた鬼をたまたま通りかかった女武者が散々にやっつけ、泣かせたところからついたらしい。


 こういう伝説を聞けるのも、僕が秘湯巡りが好きなひとつの理由だ。


 泣かされた鬼は反省し、村人たちへの謝罪のために温泉を掘ったという。


 それが「鬼哭き湯」。


 村から少し離れた岩場にある。


 ホテルはおろか、民宿すらない(そりゃあそうだ、誰も訪れないのだから)、この村で純粋な好意で僕を泊めてくれる村長の一人息子、雅人(まさと)さんが僕を「鬼哭き湯」まで案内してくれた。


 雅人さんは僕より3歳下で体格が良く、ワイルドな雰囲気を漂わせる。


「いやいや、それにしても都会からお客さんが来るなんて、本当にビックリだ」と、初めて遭ったときに雅人さんは言った。


 田舎は時に、そこだけの独特なルールを持ち、よそ者をひどく警戒する場合がある。


 今までの秘湯巡りで、実際に何度か冷たい仕打ちを受けたことはあった。


「早く出ていけ」というプレッシャーをひしひしとかけられるのだ。


 でも、今回の雅人さんには、そんな雰囲気は全く無かった。


 優しさと好奇心。


 それ以外は一切、感じない。


 僕と雅人さんは「鬼哭き湯」に、いっしょに入った。


 地元の人も、よく利用するらしい。


 脱衣場はないものの、村人以外は誰が来るわけでもないし、男同士だから、それほど恥ずかしくもない。


 僕が思っていたよりも広々としたお湯の中で、2人でくつろいだ。


 お湯の温度は熱め。


 美しい紅葉に染まる森の木々を眺めつつ、僕はこの秘湯を堪能(たんのう)した。


 これは本当に良い。


 今回は大当たりだ。





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