チュートリアル その3
電脳空間を、高速で駆け抜ける新時代のeスポーツ。
eオリンピックの正式種目に複数登録されている人気の競技ブレード。
基本はスケートの様な物を使う競技で、競技事にルールがあるけど、共通点で空中走行が可能と言うのがある。
上下左右、自由自在に、空を駆け抜ける。
ボールの奪い合いや、陣地取り、格闘技まで幅広い競技が行われている。
「スバル選手?」
チュートリアルの参加者は、物凄い有名人だった。
ブレードの、花形競技、スカイブレードの日本代表。ランダムに現れる的を、3人チームで相手を競い合いながら破壊する競技。
彼女は、高速で移動して、刀で的を斬るスタイルの、侍ガールと呼ばれている選手だった。
凛々しい女剣士と言うイメージで、ファンも多い。しかも、彼女はクローズβからの参加者で、ある目的のために、チュートリアルに参加していると言う事だった。
「動画の公開?」
「はい」
彼女の目的は、オープンβから開始する動画配信の作成だった。彼女も、プロだから、色々と活動しないといけないらしい。
「そっちはどうだ?」
「私は、多分大丈夫かな?」
「僕は、確認が必要だな」
スイカと、短く相談する。一応、僕もプロに誘われているので、色々と契約を結んでいる。
「あれ?私の頼みを聞いてくれないの?」
少し、イラついた感じのスバルさん。
「少しまってください。確認しないといけないことがあるので・・・」
そう言いながら、脳内ネットを接続する。これは、脳科学研究所の特殊技術で作られた、連絡手段。
スイカ関係で、色々と問題に巻き込まれたお詫びとして、ツールをもらっている。
「確認?僕たちが?お母さんにでも、聞いているのかな?」
なぜか、笑っているスバルさん。
(条件付でなら、許可する)
こちらの問い合わせの返事は、これだった。条件に関しては、書いていない。
「むぅ・・・」
そして、隣でこっちを睨んでくるスイカ。条件は、あちらに伝えられたようだった。
「もう1人来る。そのこと協力するなら、私は動画に出てもいい」
「それなら、僕も同じ条件で」
「おや?二人は、知り合い、恋人?」
「知り合いだけど、恋人じゃない。昔殺しあった、仲だよ。ゲームの中だけど」
「むぅ・・・。あの時の事は、思い出させないで欲しい。この人は、業悪非道の、大悪人。いじめっこで、じわるで、とにかく、悪い人」
「そこまで、言われることをしたかな?」
「したと思いますよ」
そこに、新しい人物が割り込んでくる。
スイカに良く似た、もう少し幼い感じの人物。
「あれ?ガドリングボーイ?」
その子を見て、スバルさんが驚く。
「その呼び方は、不本意です」
「だって、みんな言っているじゃない。君がいるなら、面白いムービーが出来そう」
今度は嬉しそうなスバルさん。基本的に、この人は僕とスイカを見ていない。ガドリングボーイと呼ばれた子には、多少興味があるみたいだった。
「リング・リングも、参加するのですか?」
「ここでは、ミツワです、お姉ちゃん」
「私は、三姉妹の末っ子でしたには誰もいません」
「むぅ」
「真似しないでください」
ミツワと名乗った少年は、スイカとそっくりだった。若干、ミツワのほうが幼い。
この子は、人権を持った人工知能”j2”と言う名称を持っている。
なぜか、日本語のローマ字読みの頭文字を繋げて”j2”
AIが進化して、色々な分野で活躍しだした現代。ゲームの中で、リアルを追求する動きは当然起きた。
その仲で、登場人物にAIを使用したゲームが登場。リアルに生活するそれらは、受け入れられていった。
その反面、プログラムの塊として、雑に扱う存在がいた。企業や国も、そう言う部分があった。
ゲームの中と言うことで、簡単に殺されるAI。蓄積されたデータが、一度大規模なデータの崩壊を起こした。
その結果、接続中の人間の精神に、大規模な影響が発生。一つの国が、滅ぶと言う結果を招いてしまった。
その事件から、色々と法整備が進み、電脳世界でのAIの立ち位置が安定して言った。
その中で、更に上を目指す人たちが作り上げたのが、J2だった。
電脳空間だけに存在する生命。
法律によって、国民として認定された存在。それがJ2、人権を持った人工知能。
その1人が、このミツワで、この子のモデルがスイカだった。
スイカの父親は、世界的な科学者で、人工知能に関しては、かなりの権威でもある。
スイカ的には、幼い頃自分をかまってくれなかった父親が、この子に付きっ切りだったというので、素直になれない部分があると、イチゴさんから聞かされた事がある。
「えっと、ミツワだっけ?」
「はい」
「何で、ガドリングボーイなの?」
「知らないの、この子クローズベータで有名な子よ」
「そうなの?」
「β中の公式イベント、迫り来る脅威で、一番活躍して特殊武器のガドリングを提供されたのよ。それで、その後防衛線で、鉄壁と呼ばれる活躍をしたのよ」
「・・・」
「鉄壁と呼ばれたいたけど、誰かがガドリングボーイと呼ぶようになって、なぜかそれが定着したのよ」
「ボーイですか?」
スイカは、何か言いたげだった。
「どうして、ガールじゃないんだ?」
多分、同じ事を思っていたのだろう。この子、スイカをモデルにしているから、女の子だったはずだ。鉄壁じゃなく、絶壁でもあるから仕方ないかもしれない。
「お姉ちゃん」
「むぅ、姉じゃないけど、今の貴方には、協力してもいいかも」
なんだか、不穏な空気を二人は抱いています。僕の考えた事がばれたとは思いたくないです。
電脳世界での思考は、データに出来ますが深層心理までは読めないはずです。
「ん?この子、女の子なの?みんなボーイと呼んでいるし、本人も否定していないよね?」
こちらの変化に気づくことなく、スバルさんの話は続く。
「ボーイと言い出したのは、大姉様です。私は逆らえません・・・」
大姉様と言うのは、イチゴさんだろう。あの人のことだから、何か考えがあったのだろう。
「まぁ、私には関係ないことかな?とりあえず、みんなは撮影OKなのね?」
「「「はい」」」
3人の返事が重なる。
スバルさんは、近接攻撃兵。武器は刀。
ミツワは、特殊砲撃兵。武器はガドリング。
スイカは特殊工作兵。武器は無い。
三人とも、サポートメカは支援型です。
僕は射撃攻撃兵で、武器はビームランチャーーがメイン。サポートメカは偵察型。
回収能力が低いけど、今回は大丈夫だと思います。
作戦は、後方でスイカがエネルギーの補給。ミツワがそれを守る。
僕とスバルさんが、遊撃として敵を削る。
そんな流れで行く予定であとは臨機応変その場次第。
「さて、準備はいいかな?」
リーダー的なポジションのスバルさん。作戦はこの人の立案。
「君は、隅っこで私の邪魔にならない様に、敵の数を減らしてくれればいいからね」
しっしと、猫を追い払うようなしぐさで、僕を遠ざけます。
「1人で突っ込んで、やられるような事にならないでくださいね」
「そんな心配無用。怖いなら、震えていなさい」
前方に蟻の大群が出現する。ゲームの中と解っていても、巨大な昆虫の群れと言うのは正直少し気持ち悪い。
「5分間のサバイバルモードです、敵の数は最大で100と言う設定です」
「前からしか、来ないよね?」
「この空間の中が戦場です」
次の瞬間、エリアが形成された。スイカがいるのは、一番端っこだ。やや縦長のエリアが、今回の戦場らしい。
障害物は無く、見通しは、物凄くいい。
「それでは、チーム戦を開始します」
管理AIさんの言葉に続いて、蟻が動き出す。
「むぅ・・・ムラサメ、ちょっといいですか?」
「何だ?」
スイカからの通信。
「条件です、ここで名を上げろです」
「あれより、目立てばいいのか?」
「恐らく・・・」
相手は、国際選手で有名人。その人の配信なら、見る人は多いだろう。
「便乗するのは、好きじゃないんだけどな」
どうせなら、自分の力で成り上がりたい」
「一応、貴方も有名人」
「それで、スイカの影響力のせいだからね、僕の実力じゃない」
歌って踊れるスイカさんを、電脳戦国大乱で討ち取った。その方法が、色々酷いと話題になった。
この子、意外としたたかで普通に戦っても勝てなかったので、こっちも色々と工夫をしたのです。
この出来事は、出来れば封印します。
「あの人の条件なら、どっちにしてもやるしかない」
戦闘が始まり、スバルさんは1人的の中に飛び込んでいく。
その度胸は、色々と凄いと思う。
「では、こちらも始めましょう」
最初は、景気良く、最大火力で始めよう。
バスターランチャーをセットします。偵察機と情報をリンクして敵の一番集まっている場所を狙います。
「これ使うと、エネルギー半分になるから、補給の準備をお願いします」
今回は、味方なので、スイカにお願いします。この子、色々と素直なので、助かります。
「ちょっと、邪魔だな・・・」
敵の位置を確認すると、相手をスバルさんに向かって集まっている。この位置だと、彼女を巻き込む。
「少し様子を見るか・・・」
彼女を動きを見て、行動を把握する。
その間に、ミツワがこちらに向かってきた敵を粉々に粉砕した。
「大体解ったかな」
状況を確認して、僕も動き出す。
ブレイドを使い、高速で移動して、最適な場所を探し出す。
「ここだっ!」
そして、勢射。バスターランチャーの一撃は、大量の蟻を巻き込む。
「ちょっと、私を殺す気なの!!」
スバルさんが、大声で文句を言っている。
それは不本意だ。僕が巻き込むと思っていたのだろうか?
「あれだけ、離れていたのに、苦情ですか?」
相手のクレームに、僕は怒る。
「!!」
ただ、それを聞いた人たちは、驚いた。
配信を見ていた人達の心は、その時一つになった。
だって、通り過ぎた光は、彼女のすぐ側を通過したから。
あらすじを、少し変えてみました。