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RAIN

作者: k.y
掲載日:2018/10/05

これから起こる全てのことを俺のせいにしていいから。今夜だけは一緒にいてくれませんか。

そう呟き、俺は雨の降る道で君を抱きしめた。

その日は仕事を辞めた日でもあった、辞めた理由はよく分からないけど、気づいたら辞めていた。俺の事をクズと呼ぶ人が多いだろう、現に同僚には「あいつ顔がいいからって調子に乗るなよ、クズが」と陰口を言っているのを聞いてしまったこともある、もちろん退社の理由はこれではない。俺は一般的にイケメンと呼ばれる事が多いが、その反面、なんでイケメンなのに。と呼ばれる事もある。人間は相手を顔で判断する、その時にイケメンである事は本当にいい事なんだろうか?確かに恋愛などには困らないかも知れないけど、イケメンなのに仕事が出来ないとか、イケメンなのにスポーツが出来ないなど、なんでもすぐに顔と自分の能力を比べられてしまう。だから俺はイケメンな事がコンプレックスになっていた。

その日の夜は冷たい雨が降っていた、傘を忘れた俺は急いでコンビニで傘を買い、いつもは会社から徒歩2分のとこにあるバス停に並び家まで帰るが、なぜか歩きたい気分だった。革靴の中に雨が入ってきて足が冷え、歩き始めた事に後悔した時にはすでに30分以上経っていた。雨は弱まる事を知らずどんどんと強くなっていく、普段全く歩く事のない道を歩いてみると不思議な発見があった、今にも崩れそうな定食屋、団地の脇にある整備が行き届いてない公園、黒ずんだ電信柱など普段気にもしない事がやけに目に飛び込んできた。雨のせいかな?俺は思うが、すぐに普段歩いていないからだと気づく。家まであと数分のところまで来たがまだ雨は止まず、強風のせいか、すでにビニールの数カ所に穴が開いている。相変わらず靴の中はびしょびしょだが何故か急ぐ気にはなれず、ついには意味もなく立ち止まってしまった。

会社も辞めて、貯金もなく、友と呼べる人もいるのか分からない。もう俺には何があるんだ、いつからこんな事に、なんて事を考えて俺は足を止めたのだと今は思う。

目の前に人影が見えた、こんな雨の中に薄着で傘もさしていない、俺は考える前にその人影に向かって歩き始めていた、「あの、どうしました?」近づいて声をかけてみたが何も言わずに俯いている。「こんな薄着で風邪ひきますよ」俺は余計なお節介だと分かっていながらも声をかけてしまっていた、その人影はとても華奢な女性で腕なんてちょっと捻れば折れてしまうほど細い、なにか複雑な事情があったのだろうけど、俺は部外者だ。そう心の中では思ってもその女性は美しすぎた。何故か俺と同じ悩みを抱えてる気がして、その女性にそっと傘を手渡した。「あの、俺、もう家すぐそばだからこの傘使ってください」彼女は初めてこちらも見て強く握っていた手をゆっくりと広げだ、彼女の薬指には細い腕には全く似合わない大きなダイヤのついたリングをはめていた。「私、雨の日が好きで」彼女が傘を受け取りそう呟いた「何故?」「だって、泣いてても気づかれないでしょ?」よく見れば彼女は泣いている。俺はその言葉がどうしようもなく意味がある気がしたけどもう自分の体を制御できずに、気づくと彼女の事を強く抱きしめていた。

あれからもう彼女にも会っていないし、会おうともしていない。あの雨の降る道で彼女は黙って頷き俺の側にいてくれた。俺も彼女の側にいてあげたかったし、本当に幸せな時間だった。俺はあの日から雨が好きになった。


k.y

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