その刃が彼を斬り裂いた
SANチェックいるやつ
刃が彼を貫いた。
不幸にもその刃は鋭かった。
否、否、半端な切れ味は彼を苦しめるばかりだ。
何もわからないほどに鋭いのは幸運なことだろう。
緩く婉曲したますぐの刃が、刈り取った。
果実のようにぽとりと落ちて、赤くしたたり落ちる雫が辺りに広がる。
努力は人を裏切る。
彼の冒険は此処で終わってしまった。
責めることなかれ。
それは罪ではない。
二歩三歩と歩んで、倒れこむ。
草葉が紅く、薫る。
鉄味が広がる。
えぐみに吐き気がする。
魂は刃に宿っていた。
無数の刃のそれぞれに魂が宿っていた。
並んだ刃は無数の魂だ。
目的のために振るわれ穢れ折れ捨てられる魂だ。
その刃で他の魂を斬り裂け。
繚乱の彩り、光輝の苦を捉え、魂の砕け散るまでその刃をふるえ。
報いはない。
報われることはない。
刃に罪はない。
刃をふるう手に罪がある。
誉れも誹りも贖いさえもその手に課せられる報い。
では彼は、刃に倒れたのでしょうか。
いいえ、彼は民衆の毒に斃れたのです。
彼は愛されていました。
これからも愛されていくでしょう。
その刃を掲げたのは誰か。
民衆の知る由もない誰かです。
彼は誰から逃げているのか。
恐ろしくも魯鈍な岐路のゴードン。
くまんばちが駆けてきた。
その先は崖だ。
落ちたら粉々になってしまう。
とっくの昔に承知のことではないのですか。
それは勘違いだ。
神は何も見ていないし何も許しはしない。
嗚呼、救われない魂よ、地獄の底へ沈みたまえ。
赤い紅い朱い地獄の底へ。
天国から入電です。
面会希望者がそこへ向かいます。
傍迷惑な!
罪は人だけのものだ。
人ではない僕らには関係がないよ。
それは君の罪だ、他の誰にも償えないし、償わせてはいけない。
穢れた罰よ!
お前の求めた償いは、私欲で地に堕ちた。
救われぬ魂が積み重なり、夥しい嘆きが川になる。
笑っているんだな、全て忘れてしまったばっかりに。
忘却は一つの癒しであり救いだ。
なんて罪深い話。
あなたはご自分のなさったことをわかっていないのね。
ノイズが酷くて聞こえない。
どうやらここまでだ。
次こそは間違えずにそこに辿り着いてくれ。
血を流し、血を流し、血にまみれ、血に染まった道は滑りやすい。
足を取られて倒れれば血にまみれるのはお前だ。
今度は刃が折れた。
突き立てられた刃は中ほどで折れ、砕け、握った手を傷つけた。
嘘が刃を鈍らせたのだ。
血を流す心臓は知っている。
では刃を重ねよう。
それでもぽきんと折れるだけだよ。
お前は私が何の為に刃を研いだのか知らないのだ。
研ぎ磨り減った刃は折れやすい。
体内に刃が残っているんだ。
それが彼を苦しめている。
彼が苦しむのも当然だ。
酷い傷口になっている。
汚いから痕になるだろう。
誘われたってついていきはしないよ。
危ないことはわかっていたはずだろう。
それでも彼は、己は大丈夫だと思っていたのです。
知らなかったんでしょう、その傲慢の償い方なんて。
償うべき罪があるなんて、思わなかった。
いいえ、誰しも罪を背負っているのです。
教科書にも載っています。
きっと彼は字が読めなかったんだ。
可哀想なアナスタシア。
凍えているのに気づけないのね。
この光は温かいよ。
まああなた、燃えているわ。
恐ろしいことに、誰にも止められないのです。
星の導きですから。
私の知っている常識なら彼は助からないはずだった。
何故今彼が生きているのかわからないのです。
みんな迷っているの。
迷子の羊だからね。
羊飼いは何処へ行ったの?
羊飼いはあの青い星になって燃えているのよ。
磔になった上で燃やされるなんて可哀想。
いいえ、羊飼いは二度と凍えないですむんです。
あの星は凍ってしまったよ。
凍えているから、青く光っているんだ。
いいえ、私たちから凍えて見えても、あの星は盛んに燃えているのです。
私たちの目に見える星は燃えている星とその明かりに照らされている星だけなのですから。
星は人を導くのでしょう?
いいえ、人が星に導かれるのです。
君は確かにあの星を見ていた。
星は生きているのかい。
ええ、きっと!
星を鍛えて作られた剣があるのです。
堕ちてきた星が、剣になった。
この刃は星の導き。
この輝きの指し示す方向へ、進軍せよ。
正義は我らにあり、怨敵はこの先にあり!
さあその刃で彼を貫け。
長くなりましたがこれでお別れです。
さようなら。