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妹の代わりに女学院へ通う事にした  作者: 双葉
第一章 新たな自分
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第1章5 『前途多難』





 突然開かれた扉、夏も後半とは言え今の食堂は空気が凍り付いた状態になっていた。一気に季節が真冬になったわけじゃないし、時空が歪んで異世界へ寮ごと飛ばされた訳でも無い。


 ボクは寮母さんが食堂に入ってきた者だと思っていた、だがそれを見事に裏切られてしまった、入ってきたのは小柄でショートボブの少女。学院に迷い込んだ? にしては『ただいま』とハッキリ伝えながら現れた、つまりこの子は学院の生徒で寮住まいという事になる。


 千桜ちささんはさっき『明日以降』に皆が戻ってくると言っていた、しかし今この状況はなんでしょう? ボクは固まってしまい、千桜さんは『あらあら』と困り顔をしながらもどこか楽しそうな感じ。




「お姉さま? こちらの方は?」



 意識と思考と身体が機能停止したボクを放置し、彼女は千桜さんに僕の事について質問していた。と言うか今気になるワードを彼女は口にしなかったか? 気のせいだろうか。



「こちらは今日から寮に住む、雅楽代白愛うたしろはくあさんです」


「雅楽代白愛……あ! 私と同じクラスの!」


「……え?」



 何と白愛は彼女と同じクラスだったようだ、本物の白愛ですら入学式以来だろうし、名前も顔も流石に覚えてはいないはず。もしそうなら上手く立ち回れるか? とにかくボクもちゃんと自分を紹介しないと、この先ぼっちで生きていく事になってしまうだろう。


 何回か呼吸をしてから、ボクは彼女に自己紹介をする。



「雅楽代かお……白愛です、よろしくお願いします」


「かお?」


「白愛です、白愛」



 あぶな!!! いきなり凡ミスをするとこだった、いや凡ミスをした時点でボクは人生諸共終了するから凡ミスすら許されない、本当に慎重にことを進めないと自滅しかねないぞ。


 自己紹介をすると彼女も元気に名乗り出てくれた、彼女の名前は『篝雪美かがりゆきみ』で白愛、つまりボクと同じクラスの子だ。ただ苗字を聞いて少しびっくりしたことがある、ただその知ってる奴に当てはまっているのかわからないが、これから仲良くしていくなら質問くらいは許されるかな。



「あ、あの。篝ってもしかして?」


「お! 白愛さんお目が高い!」


「やはり、篝さんはあの会社の」



 ボクの予想は当たったようだ、彼女は『篝重工』のご令嬢だった。篝重工は日本で使われている機械部品や工具といった物を製作している事で有名、去年宇宙開発にも篝の部品が使われた事もあり、今では世界にまで進展しているんだとか。


 日本で最高技術を投入し、それを海外にまで売り出した結果、世界でも通用する最強のネジとして篝重工は無くてはならない会社となっている。コマーシャルでも『かーがりーのねーじでねーじねじ!』と独特なフレーズも耳に残るくらいボクも知っている。


 気がつけば篝さんの会社の事で話し込んでいた、最初こそ『男だってバレないように』意識をしていたが、今は落ち着いて話ができている。それも千桜さんのフォローがあってこそだった、篝さんの事を少しでも知ろうと話すネタを探していたりしたが、千桜さんは詰まり掛けたボクを見る度に『雪美ちゃんは……』と上手く話を繋げてくれていた。


 今更気がついたけど、初対面でいきなりズカズカと相手の敷地内に入り込んで行くのは良くなかったかも。そう思っていたが篝さんは嫌な顔を一つもしないで、1の質問に対して3になる様な形に返してくれていた。彼女は本当にいい子なんだな、ボクももう少しデリカシーってものを持たないといけない。




「それで篝さん―――」


「白愛さん? ここでは苗字じゃなくて雪美でいいですよっ!」


「あ、申し訳ございません!」



 そうだった、学院に居る時は苗字を使わないのがルールだった。これも壁を作らないための政策らしいけど、いきなりは難しいよ……。


 それでも無理矢理慣れないと仕方が無いし、でも篝さん、じゃなくて雪美さんは寛容のある人間だ。こんな事は口にできないけど、見た目は小学生見たいに小さいし、元気いっぱいだし、もっと暴れるのが大好き見たいな性格かと思ったけれど、実際はもっと大人なんだ。



「謝る必要は無いですよ? 私達はクラスメイトですし!」


「あ…………はい!」


「雪美ちゃん? 今日戻られる予定では無かったはずですよね?」



 ボクらの会話に少し間ができたのを確認した後、千桜さんは雪美さんの早い帰宅について質問をする。確かにボクも千桜さんの言っていた明日以降に戻ってくると思っていた、しかし雪美ちゃんは今日寮へ帰ってきた。


 何かあったのか、ただの考え過ぎなのはわかるが予定を早める理由がどうにも気になった。



「それがですねぇ……『今からは大人の時間』とか言われちゃいまして、先に帰ってきた次第でありますお姉様」


「あら、それなら仕方ないですわね」



 ん? 何だろまた何か引っ掛かる。

 雪美さんが発言した中に何か引っ掛かるワードがある、なんだ? ボクが気になるようなこと言ってたかな。今日初めて出会った訳だから雪美さんの事はまだまだ知らない、それなのに気になる事があるのは何でだろう。


 単純に疲れているんだろうか、まぁ今はいいかとりあえずお互いの自己紹介も済ませたし、男だとはバレていないしよかったよかった。


 何でだろう、自分で言ってて悲しくなってきた。女で居る事が当たり前になってき始めたら、多分ボクは完全に自分を見失いそうでちょっと怖い。たまにでいいから男らしい事を隠れてしよう、筋トレとか、語尾に『だぜ!』とか言ってみたりしよう。


 3人で軽いお茶をしながら会話に花を咲かせる、ここに来る前に女性らしさを叩き込まれたボク、紅茶も優雅に頂く。その度に『白愛さん、本当に1年生?』と雪美ちゃんに疑われる、実際の白愛は雪美ちゃんより少しだけ身長があるくらいで、ボクみたいに高身長ではない。


 肉質も女性と違ってやっぱり硬いし、何より歩き方をきをつけないと本当に危ない。その為には実家で過ごした期間は修行修行の日々だった、あれをしなければ多分今頃はバレてるに違いないだろう。


 時間はあっという間に過ぎていき、空が暗くなり始めた頃。もう一組が寮へ帰宅した、その足音は真っ直ぐこの食堂へ向かってくる。さすがにもう驚いたりはしない、ちゃんと冷静に落ち着いていれば大丈夫だ。


 食堂の扉がゆっくりと開かれ、中に入って来るのを確認した後ボクは立ち上がり。




「初めまして、雅楽代白愛です。よろしくお願いします」



 入ってきたのはボクより身長が少し低い2人、目立つ長い金髪と肩ほどある白髪の女の子。白髪の子は白いレースのカチューシャをしている、なんでだろう。とにかく今度は上手く紹介が出来た、自分を褒めてやりたい。そう思っていたんだけど……



杜若朱音かきつばたあかねです」


「朱音様のメイドをしています、雨宮桜あまみやさくらですよろしくお願いします」


「あ、はい。えーと……」


 何だ? この変な感じ。金髪の子が朱音さんで白髪の彼女が桜さんなのはわかった、でも何かあんまり歓迎されてない? ボクは何か話せる事を探すが見つからない、と言うか朱音さんは帰宅してからずっと、ボクの隣にいる人を見つめている。いやそれでは表現が優し過ぎる、もっとこう睨んでいるような、視線で何かを訴えているような。


 鋭い眼光の先に居るのは紛れもない『千桜さん』だった、何だ? 2人に何かあるんだろうか。



「もう何も無いのなら私は部屋へ戻ります」


「も、申し訳ございません」


「謝られる理由なんてあったかしら?」


「い、いえ……」



 さっきまでの楽しい空気から一変、一気に夏から真冬へ変わった。ボクは朱音さんの威圧感に圧倒されつい、何でもないのに謝ってしまった。こんなに重苦しい空気は初めてだ、ボクが如何にぬるま湯で育ったのか分かるくらいに。



「エーレナ様」


「えぇ。ではごきげんよう」



 彼女達はボク達に背を向けて食堂を出ようとする、だが一度立ち止まり横顔だけを見せながら、ある言葉を吐きつけるように口にした。




 ―――お姉さま



 それを言い残した後、食堂から姿を消した2人。

 ボクはようやくさっきから気になっていた正体がわかった、その答えを朱音さんの視線が教えてくれた。


 雪美ちゃんや朱音さんが『お姉さま』と呼んでいたのは、紛うことなき『千桜さん』の事だった。


 そして同時にボクは『お姉さま』と言うワードの意味を思い出す、そう、エヴァンスシスターは上級生下級生限らず選ばれた人間は学生の手本となり、彼女達の、いや、ボク達の『お姉さま』であることを。




 



皆さんここまで読んで頂きありがとうございます。

今回最後らへんに登場した、『杜若朱音』(フルネームは次回から)の名前を考えてくれたのは『えーみる』さんです。


いつも小説を応援してくれている方でして、名前を募集した所えーみるさんが助けてくれました!


ありがとうございます!また次回をお楽しみに!

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