表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹の代わりに女学院へ通う事にした  作者: 双葉
第2章 『秋へのバリエーション』
12/16

第2章3 『託される想い』





 淑女なら到底許されない廊下ダッシュを、初日から披露してしまうボク。すれ違う度に女の子達から大量の視線を貰ってしまう、恐らく顔を覚えられただろう。二年生しか居ない廊下を、一年生が走り抜けたんだから当たり前だ。


 ボクが目指していたのは千桜ちささんの教室、扉の前まで来ると一度深呼吸をする。周りはヒソヒソと何か話しているけれど、今はそんな場合じゃない。扉をゆっくりと開けてから中に入り、




「一年の雅楽代白愛うたしろはくあです。こちらに鵜久森うぐもり千桜お姉さまはいらっしゃいますか?」



 生徒は必ず別教室に入る時は名乗りをしないといけない、そして用事のある人の名前も告げないといけないようだ。淑女の嗜みらしいがそれすら煩わしい、でもそれをしないと色々とお小言を頂戴してしまう。


 ボクの訪問にクラスの方々は、千桜さんを探すようにキョロキョロと視線を動かす。するとボクに向かって歩いてくる二年生のお姉さまが話しかけてきた、優しい笑顔でボクに近づくと、額に溢れていた汗をハンカチで優しく拭ってくれる。



「そんなに慌ててどうかしたのかしら、後廊下は走ってはいけないわよ?」


「あ、はい。申し訳ございません」


「いいのよ、千桜さんなら今職員室で先生の手伝いをしているから、しばらくは戻らないわ」



 ボクの汗を吹き終わると優しく返事をしてくれる、例え知らない一年生でもここまで慈愛に満ちた行動ができるだなんて、正直びっくりしてしまった。ボクは『わかりました、ありがとうございます』と告げてその場を後にしようとしたが、




「お待ちなさい」


「え、はい。何か?」



 呼び止められてしまう、ボクは振り返り彼女の目を見る。何だろう、すごく透き通った瞳をしている。青いサファイアの様な綺麗な瞳をしていて、思わず吸い込まれそうになる。ボクは少し見とれてしまった、そんな事を彼女に知られてしまったら変に思われるかも知れない。


 勝手に色々と思考を巡らせていると、彼女はまた優しい笑顔で話し出す。



「千桜さんに放課後テラスへ行くように伝えておきますわ、それでよろしいかしら?」


「は、はい。ありがとうございます」


「えぇ。もうお行きなさい」



 ボクは会釈をしてから廊下を歩いてクラスへ戻る。名前を聞きそびれてしまったが、あんなに綺麗な瞳を持った子はそうそういないだろう。また縁があれば会うこともある、ボクにはまだまだ知らないお姉さま達が居ることを理解した。


 きっと朱音あかねさんもあんな風に優しい人だと思う、あそこまで亡くなったお姉さまをずっと好きで居るのだから。


 教室に着くと雪美ゆきみちゃん達に心配をされてしまった、先生と言うか神楽かぐらさんも『大丈夫ですか?』と体調が悪いのでは無いかと、心配を掛けてしまった。また機会を作ってお礼をしようと、ボクは考えながら午後の授業に集中する。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 初授業も夕方には終わりを迎えた、下校していく生徒や部活動へ向かう生徒で昇降口は人で溢れていた。ボクは寮には帰らず、学院の裏にあるテラスへ向かう。雪美ちゃん達は『私も付き添いますよ?』と言ってくれたが、ボクはやんわり断った。


 ボクが勝手にやり始めた事に、彼女達を巻き込むのも何かおかしいと思ったからだ。最初は渋られたが最終的には諦めてくれた、本当にまだ知り合ったばかりなのにどこまでも優しい子達で、ボクは感謝の気持ちでいっぱいになっていた。


 夕方のテラスはほとんど人気が無く、鉄製の椅子に座る人物をすぐに千桜さんだとわかった。ゆっくりと近づくと彼女は気配に気が付いたのか、立ち上がってボクを出迎えてくれた。



「申し訳ございません、待たせましたか?」


「いいえ、私も今来たばかりですから。それより座りましょ?」


「はい」


 ボクは千桜さんと対面になるよう座る、眩しい夕日が2人を照りつける。強い光りは身体を優しく温めていく、残暑とは言え暦ではもう秋。夜になれば涼しい風が吹き始め、寝苦しさを無くしてくれる。


 それくらい今は時間の流れが早く感じる。黙ったまま見つめ合うボク達、用事があったのはボクなんだから先に口を開かないといけない。でもどう説明したらいいのか、ちょっと迷ってしまった。何かを察したのか、千桜さんが先に話し掛けてくれた。




「初授業は如何でした?」


「幸い、ボクでも付いていける内容でした」


「それは良かったです、神楽さんも担任になれましたしね?」


「それは本当にびっくりしましたよ」



 誰も居ないことを確認したあと、ボクは作り声をやめて『かおる』として千桜さんと会話を始める。他愛のない会話、と言うより報告の様な話を進めていく。


 でもそれは長く続かない、また静かなテラスへ戻ってしまう。話しやすく場を作ってくれたんだ、ちゃんと話をしよう。ボクは少し間を開けてから、ゆっくりと千桜さんへ朱音さんの事を話し出した。




「千桜お姉さま……千桜さん」


「はい、なんでしょう?」



 真面目な話に女も男も関係ないけど、ちゃんと話すならボク自身の言葉で伝えないといけない。



「朱音さんは、エヴァンスシスターをもう一度やり直す為に、学院側へ書類を提出したみたいなんです」


「…………」


「千桜さんにはふさわしくないと、仰っていました」



 千桜さんは驚いたりせず、ただ目を瞑り優しい表情のままボクの話を聞いている。どうして焦ったりしないのだろう、せっかく皆に選ばれた『お姉さま』なのに、どうして慌てたりしないのだろうか。


 だからボクはあの事について聞くことにした。ずっとずっと気になっていた事だから、これを知らないと先へ進めない気がしたから。




「千桜さんは、どうして朱音さんに根に持たれているんですか? ただお姉さまに選ばれたからじゃないですよね?」


「そうですね、白愛さん……いえ、薫さんになら話してもいいかもしれません」


「何をですか?」



 ずっと瞑っていた目を開ける、千桜さんはボクの返答に少し間を開けてから、昔話を始める。それはまだ一年生だった千桜さんと、二年生だった朱音さんがまだ仲が良かった時のお話。


 当時まだ一年生だった千桜さんは、自ら上級生が嫌がる仕事や奉仕活動を積極的に取り組んでいた。その時千桜さんの世話役として朱音さんが近くに居た、二人は息も合い、学院でも『最高の姉妹』として有名だったそうだ。


 一年生とは言え大人びていた千桜さんは、同級生からお姉さまと呼ばれ慕われていた。朱音さんは生徒会活動もあり、下級生との会話も少なく、二年生で副会長の座に着いた彼女は少し言い方がキツい部分もあり、下級生は近づきにくい存在として避けられたり、怯えられていた。


 当時の会長は亡くなったお姉さまで、何度も朱音さんに注意をしたり、叱ったりしていた。


 その時に朱音さんは会長であるお姉さまを頼りにし始めた、自分が間違えたら指摘をしてくれる、お姉さまが居てくれれば他の子達も付いてくる。そんな風に思いながら、ずっとお姉さまの近くに居るようにしていた。


 しかし、それは真逆の方向へ動き出してしまった。下級生達は『お姉さまを独り占め』していると、反感を買ってしまった。でも朱音さんはじきに収まると思い、次のエヴァンスシスターまで何も変えること無く、副会長を全うした。朱音さんにとってお姉さまは憧れで、『自分もいつかお姉さま見たいになる』と千桜さんにも話していた。


 そして始まるエヴァンスシスター、その寒い冬にお姉さまは目覚めることなく、謎の病魔がこの世から連れ去った。部屋のテーブルには日記と一枚の投票用紙が置かれていて、その投票用紙には『鵜久森千桜』と記入されていた。


 それを見てから朱音さんは千桜さんに対して、強く当たるようになった。




「そうだったんですか……」


「朱音お姉さまは、努力していただけなんです。でも今の私が何を言っても売り言葉に買い言葉、何も良くはならないです」


「そんな……」



 千桜さんの昔話はまだ少し続いた、お姉さまが亡くなる前日に、千桜さんはこのテラスへ来るようにお姉さまから呼び出しがあった。一体何の用事なのか気になった千桜さん、テラスに来てみればどこか寂しい背中を千桜さんに向けていた。そんなお姉さまから出てきた言葉は、





 ―――朱音ちゃんを甘やかし過ぎたみたい




 苦笑いをしながら言った台詞だった、最初は何のことか理解出来なかった千桜さん。でも次に出てきた言葉で理解できた、その言葉を聞いてお姉さまはどれだけ朱音さんを大事にしていたか、心にまで伝わった。



『皆のお姉さまなのに、一人の子に依存しちゃったわ。私はお姉さま失格だと思わない?』


『それは…………』


『お姉さまって言う責任の重みを理解できてなかったの、もしかしたら私が朱音ちゃんに甘えていたのかも』



 本当に大事だから言える、だからこそ弱音を誰にも吐きたくない。特に朱音さんには見せたくなかった、朱音さんはお姉さまの拠り所だった。テキパキとした妹がまさか自分が原因で嫌われてしまう存在になるなんて、思いもしなかったから。



『謝らないとダメよね、私が朱音ちゃんに迷惑をかけちゃったから……』



 テラスに呼ばれるまでの期間、お姉さまは体調不良を訴え、会長を辞任してしまった。その後体調を考慮し奉仕活動へ足を伸ばしていった、病気に掛かっていた事を千桜さんは知っていて、お姉さまの様子を見る為一緒に行動していた所を朱音さんが見てしまい、『千桜さんがお姉さまを奪った』と恨むようになってしまった。



 お姉さまは『朱音さんには病気の事を言わないで』と口止めをされ、ずっとその約束を守ってきた千桜さん。



「どうして朱音さんに話していないんですか」


「朱音お姉さまに話せば、生きる気力が無くなるからです……」


「そんな……」


「今の朱音さんは私から『お姉さま』を取り返すために必死です、なら私は悪役になって……」


「っ!! 何を馬鹿な事を言ってるんだッッ!!」



 ボクは不器用な人達に頭に来た、大きな声を出した瞬間強い風が吹き荒れた。草木が擦れる音を強く奏でる、こんな所で声を上げたら淑女としてどうなんだろう、でも今はそんな事を考えてられない。



「ボクはまだ何もこの学院の事を知りません、でも皆はそんなボクを優しくしてくれています。最初に言っていたじゃないですか、ここは『誠実、慈愛、寛容』のある場所だって」


「…………」


「きっと話せば分かってくれます、朱音さんを信用してあげてください。千桜さん!」



 千桜さんの顔を見ると、ポロポロと涙を流していた。でも悲しい顔はしていない、何かから解き放たれたような笑顔でボクを見ている。もう陽が落ちようとしている、少し吹いている風でテラスの周りにある草が揺れる。



「やはり、薫さんに来ていただいてよかったです。決めました、私」


「千桜さん……」


「私、『お姉さま』を辞任致します。別に嫌になった訳じゃありませんよ? もっと適した人を見つけましたわ」


「え……?」



 その時の千桜さんの強い眼差しは、間違いなくボクに向けられていた。そして、まだボクは気づいていない、不自然にまで聞こえる雑音を。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ