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妹の代わりに女学院へ通う事にした  作者: 双葉
第2章 『秋へのバリエーション』
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第2章2 『偽りと本心』





 まさか担任の先生が神楽かぐらさんになるとは思わなかった、本来の担任はしばらく出張で学院に来れないらしく、代打で神楽さんが入ることになった。と言ってもこれも千桜ちささんが仕込んだようで、初授業の後神楽さんに廊下へ呼び出され説明をしてくれた。


 唯一のサポート役が学年違いでそばにいられない、何かあってからでは問題だ、と神楽さんが千桜さんへ提案したところ、たまたま出張になり空きが出来た所に神楽さんを採用したそうだ。鵜久森うぐもりはうちの雅楽代うたしろと同じで学院長とは古い仲で、話をすればすぐに手配してくれたようだ。


 今現在ボクが男だと知っているのは、事情を知っている学院長と神楽さんに千桜さん。この大きな規模で3人しか知らないとなると、まだまだ苦労する部分も出てくるが、居ないより遥かにマシだし精神的にも安心できる。


 後はボクがしっかりすれば問題無く進むことが出来る、もちろん目標は卒業する事だ。白愛はくあは学院ライフをしっかりと充実させて、友達も作って笑顔に卒業する事を願っているはずなんだ。その夢を叶えるためにも今のボクがちゃんとしないと、その夢は消えてなくなってしまう。



「白愛さん」


「はい、何でしょうか有栖さん」



 と、そんな事を胸に秘めながら次の授業の為に準備をしていたら、隣の席に座る女の子から話しかけられた。彼女の名前は『高峰有栖たかみねありす』さん、眼鏡を掛けていて髪はおさげにしているのがポイント。このクラスの委員長をしていて、成績も一年生の中ではトップクラスで見た目通りの才女。


 いつもテスト前になると引っ張りだこになるんだとか。雪美ゆきみちゃんと仲良しで、2人は良くお昼になると一緒に食堂に行くらしい。



「次は授業じゃなくて講堂に行きますよ」


「あれ、そうなんですか?」


「始業式の代わりに講堂でお祈りをするんです」



 なるほど、だから始業式を最初にやらなかったのか、ちょっと変わった運営方法だなとは思った。ここはカトリック系で毎朝講堂でお祈りをしてから授業が始まる、食事を始める前にもお祈りをするのが当たり前。


 ボクは事前に千桜さんに教わっていたからよかったけど、始業式が講堂でお祈りをするだなんて初めて知ったし、授業が先で始業式が後ってのも初めてだ。



「わかりました、それでは行きましょうか」


「白愛さん! 有栖ちゃん!」


「雪美ちゃん、上着が乱れているよ?」


「あわわ! ありがとう有栖ちゃん」



 2人は本当に仲良しさんなんだな、笑顔の2人を見るとボクもなんだか楽しくなってきた。その後十朱とあけ姉妹も誘い講堂へ移動する、廊下は女の子で溢れていて、独特な香りがまたボクの鼻を突いてくる。


 あぁ、早く慣れないとこの空気に。講堂へ入ると正面に巨大なステンドガラスが一番最初に見える、その中央には聖母マリアの石像がある、ボクらは木製で横に長い椅子に座る。


 神秘的な空間のせいか、騒ぐ生徒はどこにも居ない。こんな体験ができるだなんて白愛に感謝しなきゃいけない、ここに来なければ一生こんな場面を目にすることは出来なかっただろう。全学年の生徒が座ったのを確認する教師、それを終えるとシスターが登壇し手を祈りのポーズに変える。


 それを見た生徒達は真似をするように、祈りの手を作り目を瞑る。ボクもマリア様の石像に向かって、祈りを捧げていく。



(白愛を無事に卒業させてください、白愛を偽りここに居ることを許してください。罰はいくらでも受けます、今だけは願いを叶えさせてください)



 ボクは白愛が居なくなってから神様を恨んでいた、でも今は神様を信じてやり通すしかないんだ。何て都合のいい奴なんだろうって思われてるかも知れない、それでもいいんだ、ボクはボクなりに努力して最初の一歩を踏み出す事が出来たんだから。


 お祈りが終わると学院長が登壇し、シスターは降壇する。学院長の話は長くは無く短めで終わった、後は今後の行事や連絡事項等で講堂での集会は幕を閉じた。


 講堂から教室へ戻る時にボクはあの2人を見つけた、話し掛けるか迷っていたけどそんな場合じゃない、先へ進むためには自分から動かないと。




「あ、朱音あかねお姉さま」


「……貴女でしたか」


「あの、お部屋の件でご迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした」




 ボクは頭を深く下げる、長い髪がだらんと前の方へ流れ落ちる。ボクだとわかった瞬間彼女の瞳はあの時の冷たい感じでは無く、どこか悲しいような瞳をしていた。何かに頼りたいような瞳、ボクはいいと言うまで頭を上げるつもりはなかったが、背後からこちらへ向かって走ってくる足音が聞こえる。


 地面を見ているボクは誰が来たかは知らない、でも朱音さんには見えている。




「頭をお上げなさい」


「……はい」



 ゆっくりと頭を上げて後ろを振り返る、そこに居たのは先に教室へ戻ったと思っていた4人だった。朱音さんはその4人を見たあとボクに視線を合わせる、何かを言いたそうな雰囲気だ。だからボクは何も言わずに待ってみる、水を差したくはない。



「部屋の件に関しては許すつもりはありません」


「エーレナ様……」


「白愛さん、お姉さまに伝えて置いてください」


「何をでしょうか」



 朱音さんは何かを決意した様な表情をしている、まるでこれが最後の抵抗と言わんばかりの表情。きっと何か大きな事をするんだろう、ボクには到底想像ができない大きな事を。


 桜さんは朱音さんが何を口にするのかわかっているんだ、でも止めたりしないのは桜さんは朱音さんが好きだからだろう。だからこそ彼女が何を話しても何をしても、ずっと付いていくと決めているのだろう。



わたくしはエヴァンスシスターをやり直す事を学院側へ要求しましたわ」


「や、やり直すってどういう事なんですか!?」



 十朱姉妹のりょうが驚きのあまり聞き返してしまった、ボクはまだ重要性等を理解していない、そのせいか驚きまではしなかった。ただそれをやり直すって事は、千桜さんが『皆のお姉さま』から降ろされる事になる。




「私は納得していません、千桜さんは皆のお姉さまに向いていませんわ」


「会長はどうして、そこまでしてお姉さまになりたいのですか?」



 涼の姉であるよみは朱音さんに質問をする、しかしそれは朱音さんの表情を曇らせる質問となった。恐らくそこに答えがあるのだろう、ボクは黙って聞いていることにしたが……



「私がふさわしいからです…………ごめんなさい、時間がありませんので失礼するわ」


「朱音お姉さま……」



 あれは本音じゃない、あれは自分を騙している。本音を語る時にあんなに悲しい顔をするはずがない、でも何も知らないボクは彼女を追いかけて止める力なんて持っていない。彼女の事をよく知る人間に直接聞かなきゃ、このままでは朱音お姉さまが辛い状態になる。


 ボクがあの部屋を使う前からこんな状態なのか? そうだとすればやはり千桜さんと何かあるのは間違いない、でなければあそこまで朱音さんが意固地になるわけが無い。まだまだ皆のことを知らないけれど、今から知ればいいんだ。



「ごめんなさい、私少し寄り道をします」


「え? 寄り道って白愛さん!?」



 雪美ちゃんの声に振り向かず走り出すボク、向かう場所は決まっている。千桜さんが正直に話してくれたら、それを朱音さんに伝えなきゃいけない、今のボクに出来ることがあるならなんでもやってやる。




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