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妹の代わりに女学院へ通う事にした  作者: 双葉
第2章 『秋へのバリエーション』
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第2章1 『乙女の園』





 長い夏休みが終わりを迎え新学期が始まる今日、暑さもまだ残る中ボク達は寮を出発して、一直線に続く陽芽ノロードを歩いて登校する。他の子達はもう通い慣れた道かもしれないが、ボクは今日が初登校であり初めての授業参加になる。


 陽芽ノロードの脇には大きな池と木々が学院に向かって続いている、春になれば満開の桜を歩きながら堪能できるようで、別名『桜の道』とも呼ばれているそうだ。寮からしばらく歩いていると、登校する生徒数も増えていき気がついたら周りは女の子で溢れていた。


 今すごく緊張している、寮以外の女の子もあちこちに居るわけで、勘のいい女の子が居たら一発でボクを男だと見抜くかも知れない。態度に出ないよう『ボクは女の子』と言い聞かせて歩いてるけど、やっぱり落ち着かないし怖い感情も滲み出てくる。


 ボクの右と左に千桜ちささんと雪美ゆきみさん、少し前方を十朱とあけ姉妹が歩いている。緊張で強ばっているボクは周りを見たり、会話をする余裕が今は無い。皆は朝の挨拶をされたら『ごきげんよう』と返しているが、ボクは上手く声を出せない程に小さくなっている。




白愛はくあさん?」


「…………」


「白愛さん」


「え、あ、はい?」



 あ、ダメだ。ついかおるとして居たせいで白愛と呼ばれても反応できなかった。千桜さんは『大丈夫ですか? 体調が優れないですか?』と心配をしてくれる、情けないけどこればかりは仕方ない。


 この学院は女の子のみで満たされている場所、そこにボクのような不純物が混じっている事を自覚すると、何とも言い難い感情が渦を巻いてしまうのだから。すると背中を軽くポンと叩いてくる千桜さん、それに反応したボクは彼女に視線を向けると小声で、




「大丈夫ですから、背筋を伸ばしましょ? ね?」



 ボクに耳打ちをしたあと彼女はニッコリと微笑む、今ボクにとって一番の女神様がそこに居る。千桜さんはボクを男だと知る唯一の女性、しばらくはお世話になりっぱなしになるはずだ、迷惑だけは掛けないようにしないとダメだ。


 5人で学院を目指して歩いている、ここの制服は2種類あり、ロングスリーブタイプと通常のセーラー服が存在する。ボクは足元などを見られないように一応ロングスリーブを選んだ、冬は黒夏は白と季節に合わせて色が変わる。夏の場合は生地が薄くなり通気性も高く過ごしやすい、冬は生地が厚くなり保温性を高めて身体を冷やさないように出来ている。


 

 セーラー服も夏冬共にカラーリングはロングスリーブと同じで、プリーツワンピースデザインとなっている。上着はボレロを採用していて、動きを妨げない身軽さをアピールしている。ロングスリーブも同じ上着を採用しているが、着用義務は特に無く自由となっている。


 ロングスリーブは少し歩きなれないと裾を踏みそうになる、これで躓くと究極に恥ずかしいことになるだろう。ボクは歩き方にも注意しながら皆に歩幅を合わせて歩く、残念だったのは朱音あかねさんやさくらさんと登校出来なかった事。


 朝の食堂には現れず、気がつけば2人は先に学院へ向かってしまったようだ。今は仕方が無いのかもしれない、またいくらでも仲良くなれるタイミングは来るはずだ、ボクそう思いながら空を見上げる。


 夏休みが終わり9月が始まる、青空には白い雲は一切無く晴れ渡っている。きっと白愛はそこから見てくれている、そう願って今日を今は乗り越えよう。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 千桜さんは学年が一つ上なので途中で別れ、十朱姉妹と雪美さん達と教室を目指す。学院はイギリス作りの建物で、廊下も豪華な仕上がりになっている。如何にお嬢様校であるかを思い知らされる、教室から廊下に話声はそれほど響いて来ないし、話し方も綺麗と言えばいいのかわからないが丁寧な言葉使いだ。




「雪美さん?」


「どうしましたか白愛さん?」


「その、お手洗いはどちらかしら?」



 そう、お手洗いの場所は把握しておかないとヤバい。ただでさえ大きな学院だし、女の子しかいないんだからもしもの為に逃げ場所を確保しないと。それに緊張のあまり尿意の迫りが早いような気がする、淑女なんだし何度も『トイレに行きたい』なんて連呼出来ない。


 淑女…………はぁ、ボクはもうダメかもしれない。自分で淑女なんて言う日が来るだなんて、父様や母様に聞かれたらボクはどうすればいいんだ。




「それでしたらご案内しますっ! あと、『さん』は要りませんよ白愛さん」


「え?」


「何だか白愛さんは『お姉さま』って感じがして、ですから『ちゃん』でお願いします!」


「そう? では雪美ちゃんね?」



 今何て言ったの雪美ちゃん、今確か『お姉さま見たい』だとか言わなかったかな? ボクがお姉さま? ははは! 待ってくれよボクは男だよ? お姉さま見たいな感じって………………うあああああ!!!!


 ボクは男なんだよ女じゃないんだよ、しかも何だよ今の『そう? では雪美ちゃんね』って! あんな歳上ボイス見たいなの初めて出したよ! 手をほほに添えて発言するんだから尚更ダメだろボク! このままでは男としての存在が消滅してしまうじゃないか!




「く、くふう……ううう……」


「って白愛さん!?」


「な、何でもないです……気にしないでください……」



 思わず泣いてしまった、ボクはこの学院でどれだけのものを失うのか。正直考えたくない、もう女装をしている時点で色んなものを失っているし、今更何かを失ってもなんて事は無い…………無いはず。


 その後雪美さん、では無く雪美ちゃんにお手洗いの場所を教えてもらい、鏡を見ながら髪を整えるフリをする。本当は今の自分がどんな奴でどんな顔をしてるのか見に来ただけ、おかげで隅々まで今の顔が見れた。


 そこに写った自分は嘘の塊で出来た顔、どっからどう見ても女の子だった。悲しくなるほどに女の子だった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 初めて教室に入ると、『あんなに綺麗な方、うちのクラスに居たかしら?』とボクの顔を見ながらコソコソと話し出す乙女。ボクは白愛の席を探すがどこかわからない、キョロキョロしていると十朱姉妹の涼さんが近づいてくる。



「もー、白愛さんはここでしょ?」


「あ、あはは。申し訳ございません、ずっと来ていなかったので忘れていましたわ……」


「?」


 いけないいけない、いくら入学式だけと言っても白愛は一度この教室に来ている。その時に席も決められていたようだが、ボクはもちろん知らない。雪美ちゃんは『忘れちゃダメですよー』と苦笑いをしている、危ない危ないヘマをするとこだった。


 とりあえず席に着くと先生が来るのを待つ、教室の窓から眩しい太陽の日差しがボクを照りつける。そうか今日からここで授業を受けるんだ、と呑気に考えているが女の子独特の香りが鼻を通り抜けていく。それだけでクラクラしそうなのに、どこを見ても女の子しかいないとなったら、耐えられる自信があまりない。


 それでもこれに慣れないとこの先は無い、全ては白愛の為なんだからしっかりしないと。しばらくすると教室の扉が開き中に先生が入ってきた、ん? どこかで見たことがある…………髪を縛って居るけれど……。




「皆さんお静かに、今日から担任の先生に代わり私が貴女達を指導する千堂神楽せんどうかぐらです」

 



 千堂神楽…………えええ!?

 教壇に上がったのは紛れも無く、千桜さんのメイドである神楽さんだった。何をしているんだ、この人……。





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