2章 49話 鍛冶ギルドの悩み1
あの後俺はセルマに手紙を送った。俺がダンジョンマスターであることは隠さないといけないので迂闊に何か言うことはできないが、あたかも酒場辺りで聞いたかのようにエルフの二人を褒める言葉を書いた。
セルマは俺の送った書類を見てどう思っているだろうか、喜んでいるか、それとも他のメンバーは何をやっているのだと怒っているか。
ダンジョンにやってくる冒険者達を見て、倒されたモンスターを再召喚し、また領都で情報を収集し、それを繰り返して2週間ほどが経った。
たった2週間しか経っていないわけだが、冒険者に対する魔術師ギルド員の態度の軟化は概ね成されていた。なぜこんなにも早く態度の軟化がなされたのか、それには理由がある。
1つは、エルフの二人が活躍したことをセルマ自ら彼らを褒め讃えたのだ。エルフの二人はそれに喜び、上手く行ってない他の者はそれを羨ましがった。そして、それなら自分たちもと冒険者に積極的に協力の姿勢をしだしたのだ。
もう1つは、冒険者と魔術師ギルド員達が共にお互い認め合った者が増えるごとに、どんどん仲良くなっていったのだ。
冒険者たちからすれば、魔術師がいれば冒険がうまく進むため願ってもないことであるし、魔術師ぎルルド員からしてみればしっかり協力さえすれば魔石が稼げるのだ。
お互いウィンウィンだったので、上手くいったらしい。
魔石不足を目的に冒険者達に協力する姿勢だった魔術師ギルド員は、今回のことを機に冒険をするために冒険者のパーティに本格的に組みする者まで出てきた。
ダンジョン攻略も進み、経験値ももらってダンジョンマスターのレベルも上がるから、彼らだけではなく俺もウィンウィンだった。
そんな中、納得が行っていないギルドがある。鍛冶ギルドだ。
俺のダンジョンのコボルトエリアに鉱脈がある。だが冒険者たちは魔術師たちとは仲良くなっても、鍛冶ギルドの者たちとは未だに仲良くしようとはしなかった。
その理由が、以前の魔術ギルド員のように高慢な態度でかつ一緒に戦おうとしないからだ。鍛冶ギルド員は自分たちこそ高尚な人種だと信じて冒険者たちを蔑んでいる。特に鍛冶ギルドのドワーフはその傾向が顕著で、戦闘に参加しないだけではなく口うるさい。
冒険者たちが嫌うのも仕方がないと思う。
日に日に悪くなる鍛冶ギルドと冒険者ギルド。俺は鍛冶ギルドも冒険者に協力してくれないものかと、今シスと領都のカフェでお茶をしながら話をしていた。
「鍛冶ギルドですが……良案は思いつかないですね。
セルマ・ノルディーンのように実力で屈させることが
できればいいのですが、鍛冶ギルドを実力で屈服させる
となると鍛冶の実力になってしまいますからね」
なんでもできそうに思えてしまうシスでも流石に鍛冶までは出来ないらしかった。
鍛冶師に鍛冶の実力でケンカを売る方法……高い技術が必要そうな依頼を出す? それとも、この世界にはない未知の技術をプレゼントするか……それが出来たら、間違いなく食いついてくるだろうな。
しかし、ないよなあ。そんな簡単にできたら苦労しない。
シスと二人で考えていても良いアイデアが見つからずに詰まってしまった。ちょうど飲み物もなくなったところなので、追加の注文をする。
周りから見れば、貴族とそのお付のメイドがテーブルで腕を組んで真剣に考え込んでいる、そんな光景だ。そこに、ウェイトレスが飲み物を持ってやってきた。
木でつくられたカップに入れられた飲み物を俺の前に出す。俺は無意識にそれを手でつかんで、飲まずにじっと見ていたところで思いついた。
そうだ、あれがあった。あれなら、この世界の技術を壊すこともないし仮に教えたとしてもそう一気に技術が進むわけじゃない。
「で、何を思いついたんですか?」
澄ました顔で飲み物を飲むシス。
俺の表情が変わったのを見ていたのか、どうやら俺がアイデアをひらめいたのに気づいたらいし。
「色のついた金の技術さ」
ニヤリと笑って伝えた俺に、シスがその手があったと感心していた。
シスは完全なるサポートシステムの時に俺を経由して俺の元いた世界の情報を得ていた。だから俺が言えばわかってしまうのだ。ただ、それでも思い出せないくらい人間らしくなってしまったが。
俺とシスは早速鍛冶ギルドを訪れることにした。当然ながら、正規に訪れても会ってもらえないだろう。
だから、前回同様俺とシスは鍛冶ギルド員……幹部クラスの者に直接声をかけることにした。




