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2章 48話 魔術師ギルド員の葛藤


改めてパーティに参加したエルフの二人にとって、冒険者たちの連携は見ていて鮮やかだった。前回も同じだったはずなのだが、当時はどのような目で見ていたのか全く気づきもしなかった。

同時に3匹のゴブリンが襲ってきても、重装の戦士が1匹を受け止め、軽装の戦士が1匹を足止めし、最後の1匹を魔術師が魔術で動きを止める。

特に魔術師の攻撃は無駄がない。決して強力な魔術は使わず、ヴォルトやファイヤアローのような低層の魔術で敵の弱いところを狙う。

そうしている間に戦士の二人がゴブリンをそれぞれ倒し、最後の1匹も鈍器を持った治療師がにとどめをさす。

魔法陣から新たなゴブリンが復活する前に皆で固まって次の部屋に行く。前回戦ったことまで計算された、素晴らしいパーティプレイだ。


だからこそ、気づけたことがある。

自分たち二人さえいなければ、このパーティは強い敵が出るまでどんどん奥に進むことができる。今自分たちが手を出すと返って迷惑にしかならないだろう。

倒した後も、自分たちの移動が遅ければ、魔法陣から復活したゴブリンに行く手を遮られることになり、彼らに助けてもらわねばならなくなる。

だから自分たちの出番は強い敵が出たとき、もしくは対処できないほど敵の数が多くなった時、そう決めて我慢して後をついて行った。

しかし、


「あんた達ね! さっきから何もせずにずっと!

 一体何のためのパーティなのよ!

 前から何も変わってない」


通路を移動中に軽装の戦士に文句を言われてしまった。

彼女から見て自分たちは以前と何も変わってないように見えるのだ。間違いなく彼女の言う通りだ。

前回同様、自分たちはまだ何もできていない。

自分たちの考えを伝えようと思っても、前回のことがあるから信じてもらえないだろう。口を噤んで言われるがままにしていた。


「待て、カティ。

 それ以上は言うな」


そんな中、魔術師が軽装の戦士の言葉を遮った。

彼は魔術師であるくせに冒険者に肩入れしている……前回はそう思って、特に彼には辛く当たった。

しかし彼はパーティ内で出来ることを模索し、メンバーに指示をしたり手が空いた時には周りの安全を確認したり、常に忙しそうにしている。今ならわかる、とても聡明な冒険者だ。

その聡明な冒険者が、自分たちの今の行動について何も言わずに黙って見過ごしている。もしかすると、自分たちが今のパーティの連携には役に立たないことを理解しているのかもしれない。

彼ならばそれに気づいていてもおかしくない。きっと、そうなんだろう。そう思って、そのまま何も言わないことにした。妹のリネーアも普段から無口であることも手伝って、何もしゃべることはなかった。

女戦士は不服そうだったが、魔術師の者が言うことを無下にはできないのかそれ以上言いたいことを飲み込んでいた。

不思議なものだ、私も彼のようになっていたらもっと効率よく魔石を回収できていたのかもしれない。

彼の動きを見てメンバーに信頼されている証拠を見るたびにそう思うようになってきた。


更に1つの部屋を突破し、二手に分かれた右側の通路を選んでパーティは進んだ。その通路は以前に進んだ通路とは異なる通路だ。

なぜその通路を選んだのか、と思ったが敢えて何も言わずそのまま付き従った。

通路を通り、出た部屋には今までの部屋同様にゴブリンが3匹だけいた。おそらくこの部屋でもゴブリンが常時リポップするだろうことがわかる。しかし、違うこともあった。

この部屋には宝箱がある!

少し汚れた宝箱が1つと、それより装丁の良い宝箱が1ずつ……遠目に見ているが、宝箱のランクが異なるのは間違いないだろう。冒険者たちが喜びの声を上げていた。

しかしここで1つ問題が出る。宝箱の中を回収する役が必要になる。そして、それは未だ役に立ててはいない自分たちではない。宝箱を開けるのは、罠のサーチと解除ができるカタリナと言う軽装の女戦士だ。流石に冒険に疎い自分たちでもそれくらいのことはわかる。

妹のリネーアと顔を合わし、お互いに頷き合うとカタリナの役目だった1匹のゴブリンの足止めをすることにした。

戦士二人がゴブリンに向かおうとする前に、


「待て!」


呼び止めてヴォルトを唱えた。

ヴォルトはなんとかゴブリンの足に当たり、地面に倒すことに成功した。しかし、ゴブリンは倒されただけでまだ生きている。


「カティ、お前は宝箱に迎え。

 手早く回収したら次の部屋だ!」


魔術師は私の意図をすぐに理解してくれた。私もこの魔術師と同じように、ゴブリンの足止めに専念すると言うことを。

できるだけゴブリンをひきつけ、宝箱を回収した後で3匹同時に倒す。これが最善の策だ。

魔術師の言葉に軽装の戦士は頷き、女戦士は宝箱に向かった。重装の戦士はそのまま1匹のゴブリンを盾で受け止めている。

軽装の戦士は宝箱に近寄ると、少しだけ周りを観察したがすぐに宝箱を開けて中身を回収した。あまりの判断の早さに少し驚いた。

罠は設置されていなかったと言うことだ。私には罠の有無はわからないが、実際に罠が発動しなかったのだから間違いない。

このパーティは魔術師だけでなく、この軽装の戦士の技術も高いなと感じた。


「よし、通路に行くぞ!」


女戦士が宝箱を開ける様をどうやって確認していたのかわからないが、魔術師の合図で、皆が一斉にゴブリンを掃討しにかかる。

私もリネーアと共に、ファイアアローとウィンドカッターを唱えて1匹倒した。

魔法陣から復活する前に皆で通路に移動している時、


「やるじゃないか」


魔術師に声を掛けられた。声に出して私たちを評価をしてくれた。

私は素直にありがとうと言うことはできなかったが、鼻を軽く鳴らして笑った。頬が少し緩んだのがわかった。

人に評価してもらうのもいいもんだな、と思えた。気がつけば、魔術師以外のメンバーもすこし笑っていたように思う。




俺はいつものようにウィンドウから冒険者たちを見ていた。

ウィンドウに表示されている冒険者は、戦士2,治療師1,魔術師3と言う後衛寄りのバランスの悪いパーティだ。しかも、見る限り後衛の魔術師2人は今のところ何もしていない。

ダンジョン内にいる他のパーティも見ているが、魔術師がいないパーティか魔術師がいても未だ上手くいっていないパーティばかりで、見るべきところがない。

仕方なく、この後衛寄りのパーティを見る。


「……そのパーティ、見たことありますね。

 以前ダンジョンに来ていたことがあったはずです」


後ろに控えていたシスが唐突にそのようなことを言う。

最近、見る価値のないパーティばかりだったせいで冒険者たちに興味を失っていた。久しぶりに冒険者達のステータスを確認する。


「ああ、このヨーゼフって名前確かに見たことがある。

 確かにこのダンジョンに初めて来たパーティの

 リーダーだったやつだ」


あの時は他にもドワーフが2人いたおかげでパーティとしては今よりバランスが良かったはずだ。

とは言っても、当時も今と同じでエルフの魔術師二人組は何もしていなかった。ドワーフ二人も何もしていなかったから、状況は何も変わっていない。

当時と同じなのであれば最低でもこのパーティは他より見どころがある。なぜなら、コボルト達がいる鉱脈エリアまで当時は行けたのだ。無限沸きの部屋で帰ってしまうことも多いパーティより数倍良い。


パーティは早速2つ目の部屋に向かって行った。出てくるのは先ほどの部屋と同じでゴブリン3体だ。

そう時間をかけずに、3体のゴブリンをうまく同じタイミングで倒して駆け足で次の部屋に進んで行った。

最初に来たときより対処がうまくなっている。

俺が思うに、良いパーティと言うのは得てしてリーダーが優れている。

この世界に来たばかりの頃に出会った冒険者見習いのパーティもそうだ。前衛のあの若い戦士がリーダーで、自身は一番最初の一匹にまず当たって、敵が後衛にいかないようにしていた。

そして、同時に指示を出してうまく敵を倒すように誘導もしていた。

このパーティもそうだ。

前衛二人にゴブリン2匹の足止めをさせ、すぐに復活するのがわかっているから敢えて時間をかけさせる。

そして、後衛二人で残る1匹のゴブリンの相手をし出来るだけ近いタイミングでゴブリンを倒すのだ。

そうすることで魔法陣からの再召喚の間に次の部屋に進む。各部屋で召喚されるゴブリンは別の部屋に行かないようにしているから、その対応方法で間違っていない。

しかし、俺はこのパーティがそうやって部屋をクリアしている事を知ってしまった。


(今度、変えてやろ。どんな顔するかな)


いじわるなことを思いついて、ちょっと楽しみになった。


「ゴブリン3匹では、この者たちには役不足ですね」


シスの言う通りだ。彼らを相手にするには、ゴブリンリーダーへと続く部屋か、もしくはコボルトエリアしかない。

前回はコボルトエリアに向かったが、今回はどちらに進むだろう。

そう思って見ていると、今回はゴブリンリーダーへと続く部屋へ向かって行った。

ゴブリンリーダーへと続く道を選んだ冒険者にはプレゼントキャンペーン。最下級と下級の宝箱が1つずつついています。

くだらないコマーシャルみたいなことを頭の中で思う。

冒険者たちは宝箱2つを見つけた。だが、さっきと同じでゴブリン3匹いる部屋だ。宝箱を開けようとすることで一人の手が埋まってしまう。

つまり、今までと同じようにはいかない。

どうするつもりなのかと思っていると、今まで全く動く気配のなかったエルフの魔術師が魔法を唱えた。と言っても、ヴォルトの魔法だ。決定力に欠ける。

だが、そのヴォルトはリーダーの魔術師と同じようにゴブリンを転ばせていた。


セルマと会って、魔術師ギルドのメンバーは威力重視の魔法を使いたがる傾向があることがわかっていた。模範となるべき当のギルドマスターがそうなのだから、ギルドメンバーがそうであってなんらおかしくないわけだが。

その魔術師ギルドのメンバーが高火力な魔術を使わずにヴォルトを使ったと言うことは……心変わりがあったと言うことだろうか。まだ確実とは言えないがその傾向があるのではないかと俺も思い始めた。

エルフの二人は宝箱を調べる軽装の戦士の代わりに、ゴブリンたちを相手し始めた。なかなかやるものだ。ゴブリンの足だけを執拗に狙い、転ばせる。足に重度の傷を負って動けなくなったゴブリンは一旦放置して次のゴブリンを狙う。こういうやり方であれば、後衛の多いパーティでも上手く回せるだろう。

宝箱の回収を無事に終えた女戦士が戦闘に戻り、ゴブリンを殲滅するとまた次の部屋へ向かって行った。

これなら、もう少しは進めるかな……そう思える実力がありそうに見えた。




「流石にゴブリンロードの部屋までは辿り着けませんでしたね」


ダンジョンから無事に帰還した冒険者たちを尻目に、シスが言った。

あの後、次の部屋でシャーマンによって統率されたゴブリン達をなんとか倒すも、何人かが傷を負ったため安全を期して彼らは戻っていった。

うちのゴブリンたちは補正でもかかっているのか、シャーマンやロードが同じ部屋にいると統率のとれた行動をし始めて途端に強くなる。

この部屋から急にモンスターの数も増えるようにしていたため、今までと同じ方法では立ち向かず苦労していた。だが、初見でシャーマンまできっちり倒すことができたのは素晴らしいと思う。レオンのように、無双できるような強さがあれば別なのだろうけど。


是非、怪我を治してまた来て欲しい。彼らなら、次はゴブリンロードの部屋まで行けるだろう。

仲間に治療師もいるようだったし、下級ポーションも手に入っているから使えばあの程度の傷ならすぐに治るだろうからね。

まだ多くの魔術師ギルドのメンバーは上手く冒険者たちとマッチできていないが、あのエルフの魔術師二人は今後はもっと活躍できるだろうと思った。

後でセルマに二人を褒めておいてとでも伝えようか、俺は満足気にそんなことを思っていた。


この小説を読んで少しでも良いと思って頂けたら、ブクマ,評価,感想,レビューをお願い致します。

また、別に書いている「闇の女神教の立て直し」のほうもよろしくお願いいたします。

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