2章 46話 魔術師ギルドの決断
冒険者ギルドの外では、掲示板の前に冒険者達が集まっていた。
冒険者達は掲示された内容を読み、そして集まった皆で内容をお互いに伝えあっていた。文字が読める者も読めない者も、啓司された内容を完全に同じ意味で理解していた。
しかし、理解してはいるのだが……皆が皆その内容を未だ信じることが出来ず、ざわめきが収まる様子はなかった。
「おい、掲示された内容って本当なのかよ」
「魔術師ギルド員が冒険者パーティに入った場合、
協調性をもって接することを義務付けるって……
本当にそんなことできるのか?」
「魔法を使えない人間を下に見てるあいつらが
できるわけねーよ」
「2つ目なんて、協調を乱した場合罰を与えると
書いてあるぜ。
しかも、魔術師ギルド長のサイン入りの文章だ」
「ってことはあれか?
魔術師ギルドのマスターが、ギルド員の行動を
今後縛るってことか?」
「そう言うことになるよな……。
しかし、なんだって魔術師ギルド長はそんなことを
しようとしてるんだ。
魔術師ギルド長にはメリットがないんじゃないか?」
「もしかして領主様が動いてくれたのかもしれん!
領都で魔石が貴重な産物になるかもしれないしな」
様々な憶測、そして不安、喜びが入り混じっていた。
「セルマ様! 一体どういうつもりですか!
早くあの掲示を撤回してください!」
「そうです! どうして、優れた我々が魔法を使えない者どもと
同等に接しないといけないのですか!」
「セルマ様。どういうお考えであのような掲示を?
もしかしてあの領主に何か言われたのですか?」
セルマの前には魔術師ギルドの幹部が数人、そして直接苦情を入れにきた魔術師ギルド員、更にはセルマと同じノルディーンの森からきたエルフ達が来ていた。
「お前たち、静かにしろ。
セルマ様の言を遮るでない!」
領都の魔術師ギルドの支部長がセルマを尋ねて来た面々を静かにさせるため、低い声色で言い放つ。
「魔石の優先権の入手の失敗に始まり、
冒険に失敗し、研究用の魔石を入手することさえ
できない。
あまつさえ、それを他の冒険者の責とし冒険者ギルドで
騒ぎ立てる。
いいか、お前らのような役立たずを無能と言うんだ!」
セルマは先日サトルやシスから受けたストレスごと、部下にぶつけるつもりで怒りを込めて言葉を発していた。そして、手に持っていた書類をテーブルにたたきつける。
書類は領主のサイン入りのものだった。
「ここの領主からも本日直接苦情がきた。
お前ら、苦情の原因に覚えがあるだろう。
魔術師の資格をはく奪されたいのか!」
セルマの威圧で魔術師の資格の剥奪と言われ、先ほどまで興奮してセルマに詰めようとしていたほぼ全員が震えていた。
「いいか、冒険者に対する態度の軟化は、
お前らの身から出た錆びだ。
今すぐに魔術師資格をはく奪されないだけ
ありがたく思ってもらいたいものだ」
威圧を込めた言葉をそこまでにし、セルマは椅子に座ったまま後ろを向いた。
そして、もう喋ることがないと言うようにそのまま皆の方を振り向かなかった。
話を受け継ぐようにして、支部長が語りだす。
「改めてわしから言おう。
領主殿からも直接苦情がきた。
魔術師ギルド員の冒険者ギルドでの無作法ぶりは
これ以上許すことができんとな。
領都の損失となる行動をこれ以上するようであれば、
領都の魔術師ギルドに対して規制まで考えると言われている」
セルマではなく、支部長に言われたことで先ほどまで黙っていた面々が言い返しにかかった。
「そんなのは、魔法を使えない者どもの戯言です!」
「ギルドでの騒ぎだって、冒険者ギルドのマスターが
大人しく魔石の権利を譲っていればこんなことには!」
どうやら支部長はギルド員の尊敬を集めれるようなタイプではなかったらしい。
「そうか、お前らは無能なだけでなく
言葉さえ理解できない家畜以下だったのか。
お前らより更に優性遺伝を持つ上級貴族の領主殿でさえ、
正しい姿勢で領民に接しているのだ。
それを、領主殿の劣化型でしかないお前らのような者が
騒ぎ立てていいわけがなかろう!」
支部長も我慢できず、声を荒げた。
「もういい、支部長。
この領都、ノースランドの魔術師ギルドでの
冒険者への態度の軟化はすでに決定事項だ。
本日から違反した者への罰則を決行する。
ひどい場合には、魔術師資格を剥奪する。
解散だ。
部屋から出ろ」
支部長に言われ、再度セルマに畳みかけられ、これ以上言い返すことができなくなってしまった面々はセルマの方をチラチラ見ながら部屋を出ていった。
全員が部屋を出るのを確認してから、支部長がセルマに話しかける。
「セルマ様、申し訳ありません。
私がもっとしっかりしていれば、
このようなことには……」
「いや、支部長。
このギルドで貴殿が頑張っていたことは知っている。
何人がこのギルドにいたとして、彼らが態度を変える
ことはなかっただろうよ。
しかし、これで魔術師ギルドの権威も失墜したかもしれんな」
自身がギルドマスターになってから、今まで魔術師ギルドの名声が衰えるようなことは一度としてなかった。しかし今まさに魔術師ギルドが非難の対象となっている。この領都でのことはすぐに王都でも噂になることだろう。未来のことを考えるとセルマは頭が痛くて仕方がないのだ。
「セルマ様、実はですが……。
私は今回のようなことになって良かったと
思っています。
そして、魔術師ギルドはますます繁栄するのでは
ないかとさえ思っているのです」
支部長はセルマとは逆の考えをしていたようで、それをセルマに語った。
今まさに語っている支部長はとてもすがすがしい顔をしていた。
「ほう……自信がありそうだな?
そのように思う理由は?」
問うてきた支部長に向かってセルマが少しだけ悪戯めいた微笑みを浮かべる。
「10日もすればわかることでしょう。
成り行きを見守ってみましょうか」
先ほどまでの表情を崩し、ニンマリと笑顔になって支部長が答える。
「では賭けるとしよう。
貴殿がもし外した場合には、酒でも奢ってもらうとするか」
「ええ、いいでしょう。私の勘は意外と当たるんです」
「言ったな? 訂正は効かんぞ。
支部長の部屋にある、年代物の葡萄酒をもらおう。
以前、1本もらったがあれはとても美味かった」
「なっ……セルマ様、それだけはご勘弁を……」
二人は冗談を言い、少しだけ笑顔になっていた。




