2章 45話 続取引?
(恐ろしい強さだと言うことはわかるけど、
なぜメイドがしゃしゃり出て来るのよ・・・。)
セルマは、黒いローブの男・・サトルと名乗った者のお付きのメイドから指を指され、魔術師ギルド員の冒険者へ対する態度の軟化を要求されていた。
戸惑いながらも、メイドの主であるサトルにも同様の意見か確認する。
「貴方も同意見なの?」
「意見の違いはない。」
サトルは腕を組んで座っていて、口調が手紙とは違った。。
そこまで確認した上で、彼らがこの要求を絶対に通すつもりであることをセルマは確信した。
魔術師ギルド員の冒険者への態度が悪いのは、魔術師ギルド員(もちろんセルマも含む)が、一般の人間より優れた力を持っている、優れた人種であるからだと思っていることに関係がある。
剣術等の戦闘技術は練度に左右される傾向にあるため、天性の才能と言ったものがあまり関係ない技術である。
それに対し、魔法は使えるかどうかが才能によって決まってしまう。特に、エルフ,ハイエルフの種族は生まれつき魔法に対する感性が高く、習得の時間に置いて他の人種を超える。
人間の貴族においては固有魔法と言うものありきで上級貴族と言う存在が決まっており、上級貴族の血族から分かれ固有魔法が使えなくなってしまった者たちを貴族として扱うのが王国の風習であるから、どうしても個人の優劣というものがついてしまうのだ。
「くっ・・・。」
セルマはハイエルフと言う人種であることを誇りに持っている。また、魔法の使えない人間に対して優越感を抱いてもいる。それを止めろと言われていることがこの上なく屈辱的であった。魔法を使用できると言うことは絶対的に優れていることなのだ。人間の貴族ではないにしても、優れている者が優れていない者とわざわざ平等に接することなどできないのだ。。
態度を軟化と言うことを他の方法に変更できないかを模索するため、セルマは二人に理由を問うことにした。
「理由を聞いても?」
「魔石の入手が関係している。
魔術師ギルド員が参加した冒険者パーティは、
ことごとく協調が取れていない。
せっかく、魔石の産出量が多いダンジョンが
発見されたと言うのに、魔術師ギルド員のせいで
ダンジョン序盤で引き返すことが多い。」
理由を話す際、サトルは少しだけ苛ついてるように早めの口調だった。
「魔石の入手量が貴方たちに損をもたらして」
「詮索しすぎです。」
最後まで喋る前にメイドからの割り込みと威圧があり、セルマはそこで止めざるを得なかった。
「必要以上の詮索を禁止します。」
「ッ・・・・。」
更に威圧を強くされ、セルマの体が恐怖のために震える。
これほどの目にあったのはセルマは生まれて初めてであり、今後は迂闊な言動を控える必要があると感じていた。
「わかった・・・。
では、態度を軟化と言う内容の詳細について。
冒険者パーティのメンバーと協調が取れて、
なおかつ魔石の入手率が上がれば、態度の
軟化と言う形でなくても構わない?」
「ダメだ。」
今度はサトルが即答した。
「魔石の入手率が上がればいいのではないのかっ?」
シスの威圧もあってか、普段のように熟慮できないセルマが魔石の産出だけに考えを集中させてしまったのは仕方のないことだろう。しかし、浅はかな意見に対して二人が大きくため息をつく。
「そんなこともわからないのか?
今回たまたま魔石と言う形で、パーティ内の協調の
問題が表に出ただけだ。
今後別の形で問題となる可能性がある。」
そう言ってサトルが強くセルマを睨んできた。
質問を繰り返してしまった結果、どんどん立場が悪くなってきているのをセルマは感じた。
「あなたや魔術師ギルド員が魔法を使えない冒険者に対し、
優越感を抱いているのは知っています。
しかし、冒険者パーティにおいて足を引っ張っているのは
魔術師ギルド員なのです。
つまり、今ゲンザイで言えば魔法を使える者のほうが
劣っているのです。その事実を噛みしめてください。」
追い打ちをかけるように、厳しい言葉をシスに掛けられセルマは俯く。
「わかった。
ギルド員に通達するのに、暫く時間がかかる・・。
少し待って欲しいのだが。」
セルマの発言に際し、シスが顎に指を当ててしばし考えていた。
そして、顎に当てていた指を放すと口元を歪ませた。
「では、2日待ちましょう。
それほど気が長い方ではないので。」
「2日?!せめて4・・いや・・わかった。」
ギルド員の態度を確実に変えるためには、お触れを出す必要がある。
お触れを出してから全魔術師ギルド員、せめて領都の魔術師ギルド員全てに通達が行くのには時間がかかる。
しかし、期限を延ばそうとしたところをまたもやシスに止められてしまった。
「では、3日後の夜にまたここに来る。
いい報告を期待している。」
二人ともソファーから腰を上げると、翻るようにしてローブを再度羽織りドアを開けて出ていった。
取引と言う話しながらも、完全に一方的のような状態になってしまい、セルマは途方に暮れるしかなかった。




