2章 41話 3つ目の影魔法
ここ二日ほど、サトルは毎日同じ夢を見ていた。
メイドを装った悪魔に毎日魔力を使うことを強制されているのだ。
「サトル様。現実逃避なさっている場合ではありません。
早く特訓の続きをしますよ!
それに、誰が悪魔ですか?」
シスの笑顔が非常に恐ろしかったので、サトルは仕方なく特訓の続きを開始することにした。
特訓としてここ二日ほど行っているのは、新しい影魔法の習得である。
攻撃が主体となるシャドウウィップだけで勝つには難しいため、防御の魔法を覚えようとしているのだ。
「さあ、サトル様。
シャドウウィップではなく、盾で守るイメージで
影魔法を使用してください!」
そう言いながら、第6層魔法のアースパイクを詠唱してくる。
「そんなこと言ったって簡単にできるか!
しかも、即死級の魔法じゃねえか!」
シスの特訓方法は、サトルを追い詰めてサトルが新しい力に目覚めるのを促す(本人には悪気はないつもり)と言う方法であるため、サトルからすれば地獄以外のなんでもない。
「サトル様ならできます!
やる気の問題です!
本気になれるかどうかが大事なんです!」
この人がいなくなると、気温が数度下がる。と言われているほど熱い人のような言い方をシスがする。
しかし、アースパイクをシャドウウィップで防ぐので精一杯なサトルは、その言葉がほとんど耳には入っていなかった。
「さあさあ!
シャドウウィップで防ぐばかりでは、埒があきませんよ!」
シスがさらにアースパイクの数を増やす。
そして、サトルはとうとうアースパイクを1つ打ち漏らしてしまう。
「くっ・・!!」
打ち漏らしたアースパイクはなんとか体をひねってかすり傷で済ませた。
だが、避けることに意識が向いてしまったため、続いて詠唱されているアースパイクを打ち落とすことができなくなってしまった。
4方から迫るアースパイクにとうとうなすすべをなくしてしまったサトルは、強く目を瞑って痛みが来るのを待った。
バキィッ
アースパイクが体に当たる衝撃はあったが、いつまでたっても痛みは来なかった。
「ん・・・?」
ゆっくり目を開けるとサトルの体は黒灰色の鎧に包まれており、アースパイクは全て破壊されていた。
「鎧・・ですか?」
確認のため、シスがアースパイクを更に唱える。
発生したアースパイクは、今度こそ明確に鎧に当たって砕け散るのを確認した。
「やりましたね!サトル様!
新しい魔法です。
影から発生する鎧・・シャドウアーマと言うところでしょうか。
しかも、6層のアースパイクにも負けない強度!
これなら、ほぼどんな魔法がきても平気ですよ。」
シャドウアーマを纏ったまま、サトルは走ったり跳ねたり、激しく体を動かしたりしてみる。
「体にぴったりな割に、動きが阻害されない。
重さもない。
まるで流体を纏っているようだ。」
一通り体を動かし終わり、使い勝手がよいことを確かめると鎧は影に吸い込まれるようにして消えた。
そして、今度は足だけを纏ったり下半身をまとったり、頭だけを残して纏ったりしていた。
「心の中で、解くことを念じればすぐに消えるか。
影と常に繋がっていないとダメみたいだ。
上半身だけ覆うとかはどうやら無理だな。
軽い制約はあるが、これは使い勝手がいいぞ・・」
改めて発現したシャドウアーマにサトルが感動していると、シスが近づいてきた。
「サトル様。これで準備は整いました。
後はこのローブを纏ってセルマを闇討ちするだけです!」
そういうと、いつの間に作ったのか漆黒のローブをサトルにかぶせて来た。
「なんだこれは。
いつの間に作った?!」
「こんなこともあろうかと事前に作っておきました。
サトル様の影魔法は、闇の魔術師とか暗黒の魔術師とか、
そんなイメージを彷彿させますからね。
ぴったりですし、とてもお似合いですよ。」
データでダンジョン内の自分の姿を確認すると、腰の辺りには皮のベルトがしつらえてあったり背中に影を模したマークがついていたりと実に凝っていた。
見終わると、サトルは笑顔でシスに向き直る。
「さて。
ここ二日間、ずっと死ぬ思いをさせてくれたシスには、
是非お礼をしないとな。」
そう言うと、サトルの足元から影が這い上がり鎧を形成する。
「サトル様・・・?
ど・・どうしてシャドウアーマを唱えるのですか?
どうしてシャドウウィップが出現してるのですか・・。」
シスは二日間の地獄の特訓のお礼として、サトルに尻叩きに合うのだった。




