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2章 37話 貴族、従者、宿

一か月ぶりくらいの更新になってしまいました。

夏になってから体調がとても悪く、更新したくてもできない日々が続いてしまいました。

とある理由で、もしかしたら更新が続けられるようになるかもしれません。


だったらいいなあ・・。


シスと共に1-Aに転移しダンジョンを出る。

すでに外は真っ暗であり、明かり1つもない。シスが前に出てライトを唱えたことで、よくやく視界が開けた。

ダンジョンから街までは約1時間程、久しぶりにシスと魔法の談義をしつつ進んだ。

この街に来るまでに訓練は済ませてあるので、後は実際に戦ってみるだけだ。手ごろな盗賊とかがいれば、一番いいのだと思う。

街にもう少しと言うところまで近づくと、門から1つの光が近づいてきた。


「サトル様、こんな夜更けに街にお越しですか・・。」


門で毎回会う青年騎士が松明を持って近づいてきていた。

光に照らされた顔が明らかに呆れている。


「私には何も言うことはできませんが、

 是非ともお気を付けください。」


青年騎士はそう言うと門に向かって歩き出した。

前回も夜遅くに街を出ているせいか、夜の外出を咎めても無駄だと思ってくれたらしい。

彼はサトルやシスの実力を知らない。無力な貴族とその従者程度にしか感じていないのかもしれない。

ただ、純粋にサトルのことを気遣っているのがよくわかるので、少しだけ申し訳ない気持ちにもなる。


「ありがとう。

 だが、案ずることはない。私たちにとって盗賊やモンスターは

 道端の石に変わりない。」


シスが居ればこの世で最強の生物でも襲ってこない限り安全であることは間違いない。

よって、敢えて私『たち』と言うところを強めながら言う。


「わかりました。

 また町から出るときにはお声かけ下さい。」


本当にわかっているかは不明だが、青年騎士は笑顔で開いた門の方へ案内した。




「あの青年騎士の態度はとても素晴らしいものですが、

 相手の強さを感じとると言うことに欠けているようですね。

 とても残念です。」


門まで声が届かないほど離れてからシスが話しかけてくる。


「仕方ないだろう。

 武器も下げていない、剣の覚えもなさそう、そんな貴族と

 か細い腕のメイドの組み合わせが強いと思う者は、

 きっとこの世界にはいないだろうからな。」


「それもそうですね。」


そういったやり取りをしつつ、門から最も近い宿屋の前に着いた。

その宿は以前村で見た高級宿に比べても外観が良いものであった。


「今日はここに泊ま」


「お待ちください。」


宿に泊まるべく入口に向かおうとしたところ、間に割って入られた。


「どうした?」


「この宿はサトル様が泊まるには格が低いかと。

 是非他の宿に。」


ゆっくりと首を振って他の宿を勧めて来る。

シスは真顔だ。


「この宿は外観からはわからない悪さがあるかもしれない。

 しかし、なぜお前がそんなことを知ってる。

 この街にまともに来たことはないだろう。」


サトルに言われ、シスは待ってましたとばかりの顔をしていた。


「サトル様は私の情報収集能力を甘く見ていますね!

 こんなこともあろうかと!最初にこの街に着た時、

 服飾の店ですでに情報を集めていたのですよ!」


フハハハハと高らかに笑って両手を大きく掲げている。

シスが優秀であることはわかるのだが、こういうところがバカらしいと言うか愛らしいと言うか。


「わかったわかった。

 そこまで言うなら、どこか決まった場所があるのだろう?

 どこの宿屋が良いんだ。」


「流石サトル様。

 よくわかっておられますね。

 ご案内致します。」


そう言いシスは歩き始めた。片手でサトルの分の荷物も詰め込んだかなり大柄な鞄を持っている。

しばらくしてシスの足が止まる。そこはそこから大通りを数分歩いたところにある古風な宿屋だった。

かなりの年数が経っていることがわかるのだが、木のささくれた部分等はしっかり補修がされており、近づいて見ないとわからない。また、毎日掃除がされているのだろう。店の前にはゴミの1つさえ落ちてはいなかった。


「ここです。見た目は、最近できた宿に比べれば

 少し見すぼらしく思えてしまうかもしれません。

 しかしこの宿は屋内の調度品がとても素晴らしいのです。

 ボーイやウェイトレスの指導も行き届いており、

 泊ってこそ真価がわかると言うものです。

 宿の外観でこの宿を選ばなかった人はここを知った後で

 ここを選ばなかったことを後悔することになるでしょう。

 それほどの場所なんですよ。」


シスが胸を張って自慢気に語る。実際に行ったわけではないのに。


「お前詳し過ぎだろ。

 その情報は本当に服飾の店で仕入れられる情報なのか?」


「サトル様は世間と言うものに疎いので仕方ないかもしれません。

 高級な服飾の店で貴族に通じる全ての情報が集まるのです。

 良い宿には良い貴族が泊まる。良い服飾の店にも良い貴族が訪れる。

 そうやって、貴族の通じる情報が集まるのです。服飾の店なら、

 店主、店員と貴族との雑談もよくありますからね。

 騙されたと思って、まずは入ってみましょう。」


熱く語るシスはサトルの手をとって扉へ導く。

サトルは呆気にとられながらも連れて行かれるままに従っていた。


シスがドアに手をかけて開けると、鈴の音の音がする。

その音に反応してカウンターにいた者が近づいてきて美しい所作の挨拶をしてきた。


「いらっしゃいませ。」


その所作は村の宿の店主を思い出させた。あの宿も良いところだった。

つまりここは間違いなくいい宿だ。と本能的にわかる。


「2人、1部屋なのですが空いてますでしょうか。

 できれば、少し格の高い部屋を準備してもらいたいのだけど。」


「ございます。

 失礼ですが、お名前を伺いしても?」


「こちらはサトル・サウザンツ様。

 今は旅の途中で領都に訪れました。

 こちらではあまり知られてはいませんが、

 近々誰もが知ることになるお方です。」


「おい、シス。

 ちょっと待」


「サトル様。

 しーっにございます。

 今良いところですので。」


"良いところですので"のよくわからない言葉で片づけられ、サトルはシスを軽蔑の目で見つめる。

主人を変にないがしろにするメイドも普通はいないはずなのだが。


「サトル・サウザンツ様ですね。

 我が宿を訪ねて頂きありがとうございます。

 ご要望の部屋が空いておりますので、

 すぐに案内させます。」


そう言ってカウンター横に置いてあるベルを鳴らす。

ベルの音が鳴って少し経ち、カウンターの奥の部屋のドアを開けてベルボーイが出てきた。


「貴族様、荷物をお持ち致します。」


店主ほどではないが、ベルボーイの立ち姿もしっかりしている。

シスの言っていた指導がしっかりしていると言うのは間違いないと思える。


「構いませんので、そのまま部屋に案内下さい。

 サトル様、私は支払いを先に済ませますので、

 先に部屋でごゆるりと休憩下さい。」


シスは支払いとチェックインのためにカウンターへ向かう。

ところどころふざけたところのあるシスだが、とても優秀である。

チェックインしてる最中にきっと店主に何か質問をされるだろう。そういう時に、とてもいい塩梅の答えを返すに違いない。

サトルはありがたく思い、ベルボーイに続いて部屋に向かった。


途中、通路や階段、そして広間に調度品やテーブル等が見えるのだが、テーブルは年数が経ちいい色合いになったものばかりで、傷などの補修もしっかりされていた。

また、調度品も派手ではないものが選ばれていて、そこにあるのが当然と言うようにその場所に溶け込んでいる。

部屋に向かう途中だけでも、何度もこの宿のすばらしさを味わうことができた。


「ここでございます。」


ベルボーイは部屋に着くとドアを開けサトルを部屋に通し、部屋に入ったサトルに部屋の鍵を渡す。

部屋は3部屋あり、ドアから通じるのがリビングともいうべき寛ぐ部屋、奥に書斎と思わしき部屋、そして寝室があった。書斎と思わしき部屋があると言うことは、他の領から来た貴族が執務に使うこともできるようになっているのだろう。

そういう用事がある格式高い貴族が使う宿だと言うことがわかる。

シスが作ったベルベットの上着を脱ごうとすると、ベルボーイがそれを事前に受け取り、ラックに掛けてくれた。

椅子に座ってゆったりするがベルボーイはいつまで経っても部屋から出て行こうとしない。

笑顔でこちらをじっと見ている。

意味がわからずベルボーイをじっと見ていると、


「部屋への案内、ご苦労様でした。」


カウンターでの支払いを終えたシスが部屋に入ってきて銅貨数枚をベルボーイに手渡した。

ベルボーイはそれを受け取り恭しく頭を下げるとドアを静かに閉じて出て行った。


「ああ、チップが必要だったのか。」


ベルボーイはチップを待っていたのだ。


「そうですよ、サトル様。

 こういった格式高い宿に勤めるベルボーイやウェイトレスは、

 割と少ない給金で働いております。

 チップを受け取ること前提の給金になっておりますので、

 しっかり渡してあげないといけません。

 渡さなくても最低限の仕事をしてくれますが、

 チップもくれない貴族、なんていう噂が広まります。

 また、しっかりチップを渡したボーイやウェイトレスの

 サービスの質が向上します。」


機会があれば手渡すことにしようと思い鞄を見るも、銀貨しか入っていない。

仕方なく銀貨1枚取り出しシスに見せる。


「銀貨はチップにしては額が高いですね。

 チップは銅貨で問題ありませんので、少し多めに

 銅貨を持ち歩くと良いと思います。」


先ほど支払いのついでに銀貨を崩してきたのか、多くの銅貨を持っていた。

2・30枚の銅貨をサトルに渡してくる。

銅貨を受け取りそのまま鞄にしまう。後何回かチップを渡す必要があるためとてもありがたい。


「貴族とは面倒なものだな・・・。」


「本来は従者ではなく貴族本人がやるのがいいのです。

 全て従者にやらせてしまっては、お高く留まった

 イメージがついてしまいます。」


そう言われて、これからも貴族を続けなければならないことに、ため息をつくのだった。


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