2章 30話 探索
アルファベット冒険者のダンジョン探索回です。
ヨーゼフ達は見つけた穴に近づいていった。近づいて行くと穴は平地の割れ目であることがわかった。更にその割れ目に向かって坂道が続いており、その奥は暗さで先が見えなかった。
「これ、進むしかないよね・・。」
ヘルミが誰に向かって言うともなく言葉を発した。
ヨーゼフ達が受けた冒険者ギルドからの依頼は、もしダンジョン、もしくはそれに類するものを見つけた際はダンジョンに進行し、ダンジョンの情報を持ち帰ること。と言う条件が付いている。
このまま帰ってしまうこともできるが、それでは依頼は未達成になってしまう。
「行くしかないさ。
危険と決まったわけじゃない。まずは様子見だ。」
ヨーゼフの雰囲気が変わる。彼は普段は緊張をほぐすために軽く振舞っているが、こと大事な場面に直面してからは打って変わったように真面目な性格になるのだ。
右手の杖を掲げてライトの魔法を唱えると、光の玉が出現し割れ目の穴に向かっていった。光の玉は陽の当らないところまで進むと止まった。
覗き込むようにして光に照らされた部分を見ると、人が5人は並んで移動できるような広さだった。ここら一体の平地は土の地面であったのにも関わらず、壁は岩でできておりここだけ周りと地層が異なるようになっていて怪しい雰囲気が醸し出していた。
「行くよ。」
カタリナが腰に差していた短剣とショートソードを抜いて先に進む。そこにイーロ、ヘルミ、ヨーゼフの順に続く。
パーティが光の玉が浮いている場所までたどり着くと、ヨーゼフが光の玉を操って更に先に進ませた。
洞穴の中は緩やかな坂道になっており大分先まで伸びている。カタリナは罠がないか確認しながら慎重に歩いていく。しばらくして、坂がなくなり道が平坦になった。そして、前を進んでいる光の玉に照らされて、部屋があるのがわかった。
「部屋があるわ。モンスターがいるかもしれない。
みんな、警戒を一段階上げて。」
カタリナの声で各々が方法で警戒の方法を変える。イーロは今まで剣を持たずに構えるだけだったのを止め、すぐ抜けるように片手を剣の柄に当てた。ヘルミは小さめのメイスを両手に持った。ヨーゼフだけはすでにライトの魔法を唱えるために杖を手に持っていたが、敵を見つけたときのために詠唱の呪文をすでに頭の中に構築している。
部屋に向かって少しずつ近づく。ヨーゼフが先に光の玉を部屋の中に進ませ、部屋の中にモンスターがいないか見えるようにする。
一番先頭にいるカタリナが、見える部分を確認するが何者の姿も未だ確認できない。
また、光の玉が部屋に入ったにも関わらず何も起きないため、その部屋にはモンスターがいないのではないかと言うことも考えられた。
カタリナは推測を当てにはせず、そのままの警戒で部屋の中に進んで行った。
進むに連れて視界が広くなり、徐々に部屋の中が見てとれるようになる。部屋はかなり広く、街のちょっとした広場ほどもあった。
「ヨーゼフ、ライトを動かして。
部屋全体を見たい。」
カタリナに言われてヨーゼフが部屋全体が見えるようにライトを動かした。
部屋の中をしっかり確認することができたが、この部屋には奥に続く通路しかなかった。
「どうやらこの部屋には罠も何もないわ。
モンスターもいない。」
その言葉を受けて、パーティメンバーが一旦一息つく。
彼らは中級冒険者の下位の存在だが、中級冒険者ともなれば息の抜き方等を心得ている。常に緊張して疲労を貯め続けるようなことはしない。
「もう少し休んだら次の部屋に行くぞ。
報告する時間も必要だ。」
1分ほどの時間を空けてから通路に向かった。それぞれ体を軽く動かす等して筋肉を慣らしていた。
そして通路に向けて移動を開始する。
先ほどと同じ並びで通路に向けて進んでいく。ライトの明かりは先に通路に向けて進んでいるが、その先にまだ何もいないことがもう確認できていた。
そのままパーティは通路に入る。
「待って、音がする。」
カタリナが小さくイーロに声をかける。イーロがそれを受けて左手で待ての合図をヘルミに送る。それでヘルミも気づいてくれた。
「ヨーゼフ、ライトをもっと前に進ませて。」
ヨーゼフが杖を掲げてライトを進ませると、通路の終わりがあるのがわかった。その先に部屋がある。
そして、光の玉が部屋に入った瞬間、部屋の中にいた何者かを照らした。
「ゴブリンよ!」
光の玉が何者かを照らしたと言うことは相手に気付かれたと言うことだ。
先頭にいたカタリナがゴブリンを発見し、皆に伝えるため叫ぶ。
カタリナの斥候の役目が終わったため、メンバーの順番が入れ替わる。
イーロが小走りに先頭に進み、次にヨーゼフ、カタリナ、最後にヘルミとなった。
ゴブリンは通路に駆け込んできて、こちらの姿を目にすると口を開けて尖った牙を見せつけてくる。
イーロがそれを見て走りながらバスタードソードを背中から抜きながらゴブリンに縦に叩き込む。放った一撃にゴブリンは両手で頭をガードするが、バスタードソードはゴブリンの両腕ごと頭を叩き潰した。頭を潰されたゴブリンはそのまま倒れ込み、動かなくなる。
そしてすぐにゴブリンの体が消え、カランッと言う音と共に小さい石が落ちた。
それを見てヨーゼフが近くに走りよる。
「ゴブリンが魔石を落すだと!」
ヨーゼフはゴブリンから発生した石を見ながら叫ぶ。その声を聴いて全員が驚きを隠せないでいた。
「ゴブリン程度の下級モンスターがなんで・・・。」
ゴブリン程度のモンスターを倒しても魔石は落ちない。これは冒険者や冒険者ギルドの中での当たり前とされている話なのだ。
全員が驚いて次の行動に遅れているところを見計らったかのように2匹目のゴブリンが通路から顔を出す。どうやら部屋にはまだゴブリンがいるらしい。
イーロは先ほどのゴブリンを倒す時に剣を振るったままになっていて、構え直しをしようとしていた。
「ウィンドカッター!」
ヨーゼフが杖を横に薙ぎ払うように動かして呪文を唱えると、動かした杖の軌跡が薄く緑色に染まりゴブリンに向かう。
ゴブリンはそれに反応できず、ウィンドカッターの魔法をそのまま体に受けると当たった部分が鋭利な刃物で斬られたかのように割れ、血が噴き出す。
ゴブリンは慌てて傷をふさぐかのように両手で押さえつけていると、イーロを壁にして見えないように走り込んでいたカタリナがゴブリンの首に向けて右手のショートソードを突き込んだ。
首を貫かれたゴブリンは右手左手を胸や首に動かした後に痙攣して動かなくなる。そして、ゴブリンが消えると同時にまたもや現れた石が地面に落ちた。
「また・・・。」
ヘルミ呟く。
皆の目が二個目の魔石に集中する。
「シャアアアアアアアアアアア!!」
その時さらに3匹目のゴブリンが現れた。
部屋の中まで進んだ光の玉に照らされて、さらにもう1匹のゴブリンの姿まで見えた。
「撤退するぞ!魔石を拾って走れ!」
ヨーゼフがメンバーに指示を出した。
相手がいくら弱いゴブリンだとしても数多くいればいつかはこちらが疲労して負けてしまう。そしてこの洞穴はダンジョンである可能性が高い。そうヨーゼフは認識した。よってこれ以上の探索は危険との隣りあわせになるため、撤退の指示を出したのだ。
指示を聞いて焦ったようにカタリナとイーロが魔石を拾い、通路を元来た方に向かって駆けだした。
全員わき目も振らず逃げる。一人カタリナだけが後ろをたまにチラと眺めて追いかけてこないかを確認していた。
全員が無事洞穴の外に出た時には外はすでに太陽が沈み暗くなっていた。そしてゴブリンは追いかけては来なかった。
「なるほど・・。」
報告書を読み終えたギルドマスターは報告書を机の上においた。
そして報告書と一緒に提出された魔石を手に持って眺める。
「これがゴブリンから落ちたと言う魔石か。
最下級の物だな。」
手で魔石を動かしながらいろいろな角度で見てみる。
通常もっとレベルの高いモンスターから落ちる魔石と同じものだ。
魔石をテーブルの上に戻し、ふうとため息をつくとギルドマスターは立ち上がった。
「ダンジョン捜査のパーティを結成する。
今から魔術ギルドと鍛冶ギルドに連絡を取れ。
それぞれのギルドマスターに協力を要請しろ。」
「はいっ。」
ギルドマスターの指示を受けたギルド員は身を翻すと、更に別のギルドメンバーに指示を伝えるため1Fに向かっていった。
「このダンジョンの発見は吉と出るか凶と出るか・・・。」
誰もいなくなった部屋でギルドマスターは一人呟いた。




