1章 6話 ビギナー(冒険者見習い)
今回の話で冒険者が登場します。
区切りが悪くてすいません。今回は長いです。
また、今回の話は見習い冒険者達がメインとなるため三人称視点に変更してます。
ダンジョンから100メートルほど離れた場所に人口1000人ほどの村があり、その村にアーロンと言う少年がいる。今年14歳。冒険者に憧れ、冒険者見習いとしてもう半年程訓練を重ねている。アーロンは村のとある家に向かって走っていた。耳が隠れるくらいまで伸びた濃い茶色の髪が走った時の振動で揺れている。
家の前まで来るとアーロンは家に向かって叫んだ。
「ケイト! 聞いてくれ!
すごいものを見つけた!」
興奮しているアーロンの声に気付いて、栗毛色の髪の少女が家から出てきた。
まだ幼さの残る顔から少女もアーロンと同じくらいの年であることがわかる。
「どうしたの?
今日は森へ薬草の採集に出かけていたんじゃないの?」
家の掃除の最中だっただろう。肩までの長さの髪を後ろで縛り、布の端切れを手にアーロンに応えていた。
「その薬草の採集中にすごいものを見つけたんだって!」
村には出口が2ヵ所あり、片方の入口は他の村や町に繋がる街道に出る。
もう片方の入口は近くに存在する森に向いている。アーロンはそちらの入口から出て、朝早くから森で薬草の採集をしていた。
「それですごいことってなんなのよ。
また……いやらしい木を見つけたなんて
言わないでしょうね!」
以前にすごいものを発見したと森へ連れて行かれて、女体に似たいやらしい木を見させられたことのあるケイトは、顔を赤くしてアーロンに怒り気味で尋ねた。
「あの時は悪かったって。
何度も謝ってるだろ?今回はそんなんじゃないよ」
「じゃあ何よ。もったいぶらずに早く言いなさいよ」
アーロンは呼吸を落ちつけて言った。
「驚くなよ。森に接してる山に……洞穴を見つけたんだ」
それを聞いたケイトは驚いて目を見開く。
この村は作られてから100年経つと言われている。100年も経っているため村の周りの地図は完全に出来上がっている。森に接した山に洞穴があるなんてことは地図にも載っていないし、そんな洞穴が発見されたなどと言う話は一度も聞いたことがないのだ。
「このバカ!
なんですぐに冒険者ギルドに連絡しないのよ!」
この世界では冒険者ギルドが各町,各村に存在しており、地図の作成,販売も請け負っている。各村,各街の冒険者ギルドは互いに頻繁に情報交換をしているため、村や街を繋ぐ街道の情報や、新しく見つけた洞穴についても情報はほぼ完璧であると言えた。また、2週,月に一度、依頼を出して周りのマップの更新をしている。
今回アーロンが見つけたと言う洞穴を冒険者ギルドが認識していないと言うのであれば、それは冒険者ギルドが責任もってその危険度を判断し、地図に載せる対応をしなければならないのだ。
ケイトはアーロンに近寄ると耳を掴み、無理やり冒険者ギルドに引っ張って行こうとした。
「けっ……ケイト、待って。聞いてくれ。
俺たちは冒険者見習いとしてもう半年経ったんだ。
俺は毎日剣の訓練をしているし、ケイトは
村長様から魔法の教えを受けているだろ?
無属性魔法のヴォルトも行使できる。
バードマンだってレンジャーとして罠を
発見できるようになったってこの間言って
いたじゃないか。
痛い、痛いって!」
ケイトが耳から手を離して、話を聞く態度をするとアーロンは話をつづけた。
「俺はその洞穴に行ってみたいんだ!
俺が森で依頼をこなすようになってから、
今まで一度だって魔物が出たことはない。
そんな森に仮に洞穴が新しくできたからと
言っても、絶対に安全だって!」
「そんなこと言って、もし強いモンスターが
出てきたらどうするのよ?
ゴブリン程度の低級モンスターならいいけど、
何が出てくるかなんて……」
「じゃあこう言うことならどうだ。
その洞穴の調査をしにいこう。
俺はまだその洞穴をしっかり見たわけじゃない。
もしその洞穴がすごい浅かったら、
モンスターもいないだろうし、地図に載せる必要もない。
冒険者ギルドに連絡しても向こうからしたら
ただの迷惑だろ?もしかしたら冒険者ギルドも
浅い洞穴だって知ってたから地図に乗せていなかった
だけかもしれないぜ?」
アーロンの言い分にも一理あった。冒険者ギルドへの連絡をしても少し深いだけの窪みだったりしたら連絡したこちらが恥ずかしい。
それでもケイトは完全には納得がいかず、少し考えてからアーロンに告げた。
「わかったわ。じゃあまずは調査しましょ。
危険なモンスターがいたらすぐに村に逃げ帰るよ。
約束して。それと、バードマンにも声をかけて?
私たちは3人でパーティなんだから」
ケイトの割と肯定的な意見にアーロンは喜んだ。
「もちろんだよケイト!
じゃあすぐバードマンを呼んでくる。
準備して待っててくれ!」
アーロンは言うが早いか、バードマンの家に向かって駆け出してしまった。
「もうアーロンってば!
ま、いっか。私も全く興味がないわけじゃないしね。
たまにはほんのちょっとの冒険くらいしてみたいもの」
仕方ないなあと言う風にケイトは言うが、実はケイトも冒険に憧れていたのだ。
ケイト達のパーティはまだ冒険者見習いのため、モンスターとは戦わせてもらっていない。
猪等の害獣の対応、不足気味になっている薬草の採集、村内の警備の手伝いや柵等の補修、道具の配達みたいな簡単な依頼しか受けさせてもらっていなかった。ケイトはアーロンの抑え役に回っていたものの、洞穴に行ってみたいと言う好奇心を抑えきれていなかった。
ケイトは準備のために家に戻ると、麻のワンピースの上に村長からヴォルトの習得祝いでもらったローブを羽織って準備するのだった。
バードマンの家の近くまできたアーロンは、畑仕事をしているバードマンに声をかけた。
「バードマン、今からケイトと三人で出かけようぜ!」
バードマンは声をかけてきたアーロンを見つけると、しゃがんでいた姿勢から立ち上がった。
「そんなに急いでどうしたんだ。
今日は一人で薬草採集の予定だったろう?」
畑の雑草を抜いていたのだろう。バードマンの左手は土で汚れていて、右手は根元から抜かれた草をいくつか持っている。
アーロンはそんなバードマンに近寄り、肩に手をかけた。
「実は薬草採集してる時に洞穴を見つけたんだ。
このことはもうケイトに話してあって、
調査しに行く約束も取り付けてある。
行こうぜ!」
洞穴と言う言葉にバードマンは顔をひそめた。森に洞穴があるなんて言う話は聞いたことがない。
レンジャーである彼はこの付近のことを覚えるためによく地図を見ていた。ケイトと同様、冒険者ギルドへ連絡をしなければと真っ先に考えた。
しかし、アーロンはケイトに話してあると言った。ケイトはアーロンほど短絡的ではないから、ケイトを納得させた話し合いがあったのかもしれない。
「本当にケイトも行くって言ったんだな?」
「本当さ!なんならケイトに聞いてみたらいいよ。
今頃準備も終えて家の前で待ってるよ。」
そこまで言われてバードマンは、とりあえずついていくことにした。
ケイトに話を聞き、納得がいかなければ家に戻ればいい。それに何より、三人はパーティなのだ。ここで断って二人で洞穴に向かわせるわけにはいかない。
「わかったよ。じゃあ準備するから待っていてくれ。
けどケイトに会ったら念の為確認するからな?」
もう一度アーロンに確認をとったバードマンに対し、怪訝そうな顔で愚痴った。
「ケイトの言うことだけじゃなくて俺の言うことも
もうちょっと信用してもいいんじゃないか?
ドラゴンの巣に行こうって言ってるわけじゃないんだぜ」
「アーロンには前科があるからね。
ケイトが良いと言ったならいいけど、
またあんなふざけた木を見るために
付き合わされるのはごめんだね」
どうやらバードマンもケイトと一緒にいやらしい木を見させられたらしい。
アーロンに対し何を言ってるんだかと言うジェスチャーをし、準備のため家に入っていった。
準備を終えて集まった三人は洞穴の前に向かった。
バードマンは三人が集まるとすぐにケイトに確認し、十分に用心して進むことを三人で合意してからのことであった。
三人は木製のタグを紐で首から下げている。これは冒険者ギルドから付与された見習いの証だ。
一年間の冒険者見習いを達成すると晴れて見習いを卒業して冒険者ギルドから鉄のタグを付与されるのである。
「これがアーロンの言ってた洞穴ね。
見た感じ、奥は深そうね……」
三人は洞穴の入口から奥を見つめる。洞穴の壁にはヒカリゴケが生えているため少しは照らされているが、最奥まで見えるほどではない。
「でも、奥があるにしては中からモンスターが
出てくる気配もないんだ。今日は朝にこの洞穴を
見つけて、採集の合間に何度か様子を見ていたんだよ。
けど、何も出てこなかったんだ。
けっしてモンスターの巣と言うわけではないと思う」
アーロンは決して頭が悪いわけではない。パーティのリーダーをしているだけあって、中に入らなければ危険がなさそうだと言うことを確認してから二人を誘ったのだ。
「わかった。けど調査は慎重にやろう。
ケイト、ヒカリゴケでは明かりが足りない。
明かりをお願い」
バードマンに言われるとケイトは木製の杖を掲げてライトの魔法を唱えた。
魔法を唱える際の媒体として村長にもらったものだ。魔法を媒体なしで唱えることは高難易度となるため、一般的な魔法使いは杖を持つ。媒体の最たるものとして杖が挙げられる。他にも指輪や魔導書もあるが、杖の形から離れるだけでとても高価なり、手に入れることなどできない。
ケイトが唱えたライトは、魔法のランク的には10級にあたる。これは魔法界で設定されているランクの最下級である。10級は生活魔法とも言われていて、無属性のヴォルトを抜かすと殺傷効果がない。薪に火をつけるクリエイトファイア等の四元素魔法は村人でも使える者がいるくらいである。
ヴォルトだけは明確に殺傷能力があるため、ヴォルトを使えてようやく見習い魔術師として世間に認識される。最近ヴォルトを覚えたケイトは正に見習い魔術師であった。
「よし、じゃあ行こう。
いつもの通り俺が前衛をするから二人は後衛をお願い」
アーロンがそう言って腰からショートソードを抜き、ウッドシールドを構えながら洞穴に入っていく。二人はアーロンに続いて警戒しながら洞穴に入っていった。
三人が奥に進んでいくと、通路の奥が広くなっているのがわかった。どうやら部屋になっているらしい。そこにはモンスターがいる可能性がある。
更に進むと、部屋に何かが蠢いているのがわかった。それを感じてかアーロンは少し力んで剣を握っていた。
ケイトがライトの魔法を蠢いている何かに向けると、青色の物体が照らされた。
「スライムだ!ここは洞穴じゃない。
ダンジョンだ!」
目の前に見えたスライムは全部で3匹いた。三人から5メートル程の距離に2匹。その少し後ろもう1匹だ。
この世界のスライムは自然発生しない。魔素があるところからしか発生しないことが冒険者ギルドによって証明されている。
この洞穴内にスライムがいるということはここは魔素を含んだダンジョンであると言うことなのだ。
ともあれ、部屋にいたのがスライムだけであればそれほど危険ではない。スライムは素早い動きができない。離れていれば襲われることはない。
ケイトがライトを更に周りに向け、三人は部屋を隅まで見渡した。この部屋にはスライムの他に動いているものが見えるが、ラットであった。
そこまで確認を終えた後でアーロンから攻撃の指示が出る。
「スライムを倒すぞ!俺は左のやつを倒す。
二人は右のやつをやってくれ。
後ろのやつは離れてるからその後だ!」
アーロンの指示に二人はわかったと返事をし、ケイトはヴォルトを唱えるべく杖を掲げる。
バードマンは構えていた弓を収めて、短剣に持ち替えてスライムに向かって駆け出した。
アーロンがスライムに向かってショートソードを振るう。単に縦に剣を振るっただけだが、知性の低いモンスター相手には単純な攻撃こそが最も効果的であることを学んでいた。
振るったショートソードの先がスライムの中に埋もれて行くと、核に当たった。核は崩れ、スライムはただの水になったようにバシャッと飛散して消えた。
「ヴォルト!」
離れたところにいるケイトがもう一匹のスライムに向かってヴォルトを放つ。
ヴォルトはスライムに向かって真っすぐ進み、スライムの表面に当たった。
スライムの当たった部分はえぐれたが核を壊すには至らなかった。
そこにバードマンが駆け込んでくる。バードマンは核に向けて短剣を突き刺した。
核を突き刺されたスライムは、アーロンが倒したスライムと同じように水となって飛散した。その後にアーロンが最後の一匹に駆けてスライムの核に向かって斬りこみ、難なく倒した。
「やったな……もうスライムはいないみたいだぞ」
アーロンが最後の一匹を倒したのを見てとったバードマンは息を吐いて改めて周りを見渡す。先ほども確認したが改めて他に敵がいないのを確認した。
彼らのような見習いは警戒しすぎるに越したことはないのを他のレンジャーから耳が痛くなるほど教わっていた。
ケイトがライトをもう一度周りに向けて、三人は周りを見渡す。
先ほどは動く生物に絞って見ていたため、部屋の地形にまで目を向ける余裕がなかった。
部屋には水辺がある。三人が水辺に向かうと青紫色のゴブリンズマッシュが生えているのを見つけた。さらに周辺にはゴブリンズマッシュを食い散らかしたものが散らばっていた。
「……ゴブリンがいるぞ。
二人とも、気を抜くなよ」
ゴブリンがゴブリンズマッシュを好んで食べることをバードマンは知っている。
ゴブリンズマッシュが生えていただけならともかく、食べ散らかした跡まであった。
それがゴブリンがいることが証明していた。
アーロンは奥を睨みつけるように見ていた。視線の先に奥へ続く通路があった。
三人は警戒を保ったまま、アーロンを先頭に通路に向かった。
通路を進んでいくと、また通路の奥が広くなっているのがわかる。
通路を半分くらいまで進むと、奥からしたしたと歩く音が聞こえてきた。
「(来たぞ、ゴブリンだ。俺がまず最初に当たる。
ケイトはいつでもヴォルトを撃てるように
備えていてくれ。
バードマンは奥の部屋に他に敵がいないか
確認してくれ)」
アーロンは小声でそう指示し、奥に向かって音をたてないように小走りに駆け出した。
通路の終わりに近づくと、部屋には錆びたナイフとガーダーを構えたゴブリンが見えた。アーロンは左手のシールドを肩の前に構えてゴブリンに向かってチャージする。
アーロンのチャージを避けきれなかったゴブリンはそのまま地面に転がった。
ゴブリンは100cmほどしかない。アーロンは若いと言っても170センチを超えて大人の仲間入りをしており、まだ成長の兆しもある。つまり、人間の大人と子供ほど差があるのだ。
よってチャージはとても効果的だった。
バードマンはアーロンを追って部屋に入り見渡す。
部屋は薄暗いため完全に見えたわけではないが、他にモンスターは見当たらない。
ヒカリゴケの明かりでしか見えない状態では確実とは言い切れない。よってアーロンに助太刀せずに警戒を続ける。
遅れてケイトがやってきてライトを周りに向ける。
ライトを向けた先には、何かの木のようなものが見える。更に周りにライトを向けると反対側に色づいた箱のようなものが見えた。
「見た感じ、敵は他にはいないみたいよ。
まだ安心はできないけど」
ケイトがそうアーロンに告げると、アーロンは転がったゴブリンに駆け出して言った。
「ならゴブリンは俺一人で平気さっ。
二人はそのまま警戒していてくれ!」
倒れたゴブリンに向かってアーロンが剣を振るう。態勢を直すのが間に合わなかったゴブリンはやむを得ず左手を前に出した。アーロンの振るった剣はゴブリンのガーダーに守られていない手首の部分を骨の半ばまで切り裂いた。
ゴブリンは手首を切り裂かれた痛さに、ナイフを落して左手を押さえてしまった。
「ゲアァァァァ!!」
首に隙ができたゴブリンに対しアーロンが剣を横に振りぬく。
骨に阻まれ首が飛んだわけではないが、途中まで切れて首が一瞬浮く。
斬られたゴブリンはそのまま後ろに倒れ体を痙攣させていた。右手はもう左手を押さえていられず、五体を仰向けに投げ出して動き出す気配はない。
アーロンはそれを見てゴブリンの心臓に向けて剣を差し込んだ。一瞬ビクンとゴブリンの体が大きく跳ねるが、その後痙攣していた体も止まって動かなくなった。
「敵はもういない。警戒を解いていいよ」
ゴブリンを横目に見ながら、周りを警戒していたバードマンがそう告げる。
アーロンがゴブリンを倒す間に、周りに敵がいないことを確認していた。
「倒しちゃった……。
訓練通りできた……」
冒険者の先輩に教わった戦い方でゴブリンを1対1で倒したアーロンは満足感を得ていた。自分より小さい敵にはシールドでチャージし、態勢を崩したところを攻める戦い方をアーロンは教わっていた。
まだ見習いであるが、立派にモンスターを倒せたのだ。
「お疲れ様。指示も的確だったし、やるときはやるね」
「いつもこれくらいしっかりしてくれたらいいのにな」
「ゴブリン倒した余韻を感じていたのに、
なんだよそれー」
喜んでいた気分を二人に落とされ、ケイトに向けてアーロンは文句を言った。
三人でゴブリン1匹を倒しただけとは言え、最高の成果だったのだ。
少しくらいは慢心してもいいというものではないかとアーロンは思う。
「あなた、訓練でのミスが結構あったでしょ?
それなのに、今までで一番良い出来を本番で出したんだから、
そう思うものよ」
実はアーロンは訓練ではよく小さいミスをしていた。一回ならそんなに問題にはならないが、積み重なるとパーティの危機になる。
それをよく指摘されていたのを知っているケイトがそう言うのも仕方ないのだ。
「そんなことより二人とも、見なよ。
宝箱があるよ」
言い合う二人に向けてバードマンが告げる。
バードマンの視線の先には、汚れた宝箱が置かれていた。
「本当か?何が入ってるんだろう!」
アーロンが興奮して宝箱に近づこうとすると、バードマンがアーロンを静止して前に出た。
「待って。罠がないか確認するから。
それに期待しているみたいだけど、ゴブリンしか
いないダンジョンでいいものなんて出ないよ。
ポーションが入っていたら御の字かな」
宝箱を調べながら伝えると、アーロンは大きくため息をついた。
「なんだ、少し期待しちゃったよ」
バードマンは宝箱を暫く調べると、宝箱から手を離した。
「よし。宝箱も含めて罠はないみたい。
開けても大丈夫だよ」
宝箱の前に並び、三人で宝箱を開けると中には半透明の液体が入った袋と、銅貨5枚が見えた。バードマンがそれらを手に取る。
「銅貨5枚だね。一人2枚にも満たないけど、
今日の三人の夕飯って所かな?
こっちは……ポーションだね。
最下級だけど、劣化してるわけじゃないし
品質はいいみたい」
バードマンがそう言うと、横でケイトがやったねと喜んでいる。
最下級とは言えポーションは価値がある。銅貨20枚くらいはするのだ。
「ポーション売れば一人銅貨8枚くらい?
これで三日四日は外で飯が食える!」
村では宿屋兼食事処で夕食が銅貨2枚。内容はパンが半分に野菜と肉の切れ端が入ったスープ。そしてミニサラダといったものである。
銅貨1枚にすると、パンが更に半分になり、スープが塩っけのない屑野菜のスープになってしまう。
それでも普段食べている食事より豪華なものが食べられると喜ぶアーロンにケイトが伝える。
「ポーションはパーティの備品としてとっておこうよ。
うちのパーティには癒し手がいないから、
何かあったら治す方法がないもの」
ケイトに言われ、アーロンとバードマンは賛成する。癒し手は冒険者の中でとても需要があり、どこのパーティにも引っ張りだこであった。
見習いのパーティに参加してくれる癒し手なんてまず存在しない。
「この間パーティ結成して半年過ぎたばかりだから、
今日はお祝いしましょ」
三人はダンジョンの出口に向かって歩いていった。
その後ろ姿を見続けているものがいたことを三人は知らない。
冒険者は見習いにしました。ダンジョンマスターも見習いですから、見習いVS見習い。
それくらいがちょうどいいですよね。
名前は、アルファベットのA,B,Cから順にとっています。