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2章 21話 ヴァレー家の商人


「食事は自分たちで出すので、テーブルにご一緒しても

 よろしいでしょうか。」


マティアスと名乗った商人は笑顔のままそう言う。最初に会ったときから常に笑顔なので、この顔がこの商人が地の顔なのかもしれない。

サトルはマティアスを見定めるように、軽く全身を見る。


「ああ、構わない。」


サトルに了承をもらったマティアスは、御者に「おい。」と声をかける。

御者は馬車の中に入り、籠を持って馬車から出て来た。そのままマティアスに籠を受け渡すと再度馬車に戻って行く。

サトル達の御者はサトルが許可したのを見て既に食事作りを再開している。


マティアスは籠からポットを取り出して、そこに別の容器から取り出した葉っぱを入れて水差しに見える別のポットから液体を入れる。液体は湯気が上がっているので注いでいるのはお湯なのかもしれない。

しかし馬車の中で事前にお湯を沸かしていたとは考えられない。このお湯はどういうことなのか、そう思っていると。


「魔道具です、サトル様。

 とても高価なので、一部の貴族や商人しか持っていません。」


後ろにいたシスサトルに近づき、耳元に顔を近づけ小声で教えてくれた。

魔道具。初めて聞く名前だった。名前から想像するに、魔力をエネルギーとして使う電気製品みたいなものだろう。


マティアスは木製のカップを2つ取り出し、ポットから液体を注ぐ。


「どうぞ。こんな旅の最中でのものなので

 大したものではありませんが。」


液体を入れたカップと、包み紙に入った茶菓子を一緒に差し出される。

サトルがカップに口をつけて一口飲むと、苦みが口の中に広がる。苦みは一瞬で消えて口の中には清涼感だけが残る。

こちらの世界で飲んだお茶で初めての感覚だった。新感覚に驚いたことが顔に表れていたのか、それを見たマティアスが得意げな顔をしていた。


「貴族様はレイアムまで行かれるのですか?」


「ああ、所用があってな。」


「もしかしてレイアムへは初めて?」


「そうだ。よくわかったな。」


「勘でございます。

 私はレイアムをよく存じ上げていますので、

 良ければレイアムのことについて

 教えて差し上げましょうか。」


マティアスが気取ったりすることもなく言うので行為に甘えることにする。「頼む。」と伝えると、「では。」と語り始めた。


レイアムは国民20万人の都市である。

業種の割合は農業5:商業2:工業2:その他1と言った割合のようだ。

その他には、冒険者や教会等、1万人に満たない業種が含まれている。

レイアムの特色は、街の一画を占めるでかい鍛冶場だそうだ。近年、大きな鉱山が見つかったことでレイアムの鍛冶のおける供給が爆発的に増加。王都にも供給しているほどらしい。

結果、鍛冶場が足りなくなり鍛冶場の地域を拡大。それが特色となっているらしい。


商業としてはそれほど目立つものはないようだが、ノースランドの特色である青系の染料が集まりやすい傾向があることも教えてくれた。


領都は正門から入るとまず大通りに差し掛かる。

大通りはまっすぐ行くと領城にたどり着く。軍事的な意味合いより、利便さを追求した街並みと言うことだろうか。

大通りは馬車4台ほどが横に並んでも余裕があるほどの広さで、この大通りに面している店は大商人の保有している店らしく、品質もとてもいいらしい。商人の店はこの大通りにあるらしく、名前をグラン・ヴァレーと言うこと、自身で言うのもなんだが領都一の品ぞろえの自負があることも伝えられ、良ければ一度立ち寄りください。と言われた。


大通りからさらに馬車2台程が通れる道が広がっている。大通りから遠ざかるほどに治安は悪くなっていくようで、

門と領城から最も離れた城壁付近の2区画が、貧民街と歓楽街になっているらしい。

話の際に、あまりその辺りには近づかれませんように。と念を押される。


レイアムの話が終わると、次は商人の今までしてきた旅の話になった。

商人は鉱山が発見されるまで、他領でも商売をしていたこともあったらしく、エルフやドワーフとの商品の取引の経験もあるようだった。

エルフやドワーフの話にサトルが興味を示したからか、そこからはエルフやドワーフに関係する話になった。

取引した商品は、エルフとは美しい装飾品の陶器や人間には考え付かないデザインの服。ドワーフとはやはり武具の話だった。

彼らは他の土地の物資が欲しいだけで自分たちが作った物で儲けようとする気はないらしく、純粋に取引だけをしてくれたマティアスとだけ取引をしてくれたらしい。

手に入れた商品は、ちゃんと価値の見合った値段で売りに出したらしい。そこは流石商人と言うべきか。


途中、食事が出来たとのことで御者から食事を出された。

メニューは前回とさほど変わらず、パンとスープだ。一応具が少し変わっている程度の違いはあった。

商人の方も御者から食事を受け取り、しばし食事のため話は中断する。


食事が終わると、更に話は旅の話に変わった。

レイアムと鉱山の間は治安がとてもいい。鉱石の産出が続く限り、冒険者や治安維持のための兵士や騎士が行き来しているからだ。

しかし他の道はこうはいかず、盗賊やモンスターが出るらしい。

その際は当然護衛を雇うことになり、結果輸送料が上がってしまうためとても苦労したと言うことだった。

護衛の冒険者は上級になればなるほど高いらしいが、上級者になるほど色んな場所に移動することが多いらしく、移動を兼ねる場合は少し安い値段で雇うこともできるらしい。

そういう上級冒険者には顔を売って知り合いになったりするらしい。

ただ、上級冒険者と言えども世のギフト持ちには敵わないと教えてもらったことがあるそうだ。

ギフトと言うのは、魔法とは異なった特殊な能力のことであり、有名なのは王国の聖騎士団長が大体受け継ぐ騎士の能力、王国で若くして司祭に上り詰めた司祭の持つ治癒の能力、魔術師ギルドの長が持つ賢者の能力、ドワーフ帝国の現皇帝の支配の能力、獣人の国で戦士をまとめる最強の戦士長が持つ勇気の能力、エルフの国の王子が持つ厳格の能力を教えてくれた。

その他にもいるのだろうが、人によっては能力が他人に知られることをよしとしない者は隠しているとのことだった。そのようなギフト持ちと知り合いになれたら、有意義なんでしょうね。とマティアスは言う。

ヒルダのことがすぐに浮かんだ。彼女は確か誰にも話したことがない。と言っていた。つまり、彼女もギフト持ちと言うことになるだろう。


そこからは商人がワインを出してきて、更に饒舌になったマティアスの語りが続いた。

語りに一旦区切りがつき、解散となるまでは2時間がかかった。

話は有意義だったが、最後の最後にはろれつが回らないマティアスの相手をして疲れたサトルは、馬車に戻るとすぐに寝入ってしまった。


グラン(偉大なる)ヴァレー(ヴァレー家)って名前つけるくらい大商人!

って思ってくれたらいいなあと思います。

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