2章 17話 約束
「そう言えばこの間の話なんだけど。
俺、領都に行くよ」
「え?」
少し会話が止まったからか、先ほどまで話していた内容と脈絡のない話をされてヒルダが驚いた。
「ヒルダに誘われただろ? 領都に来ないかって。
ダンジョンごと領都に移動する」
丁度昨日の同じ時間に言われた、領都への誘いの話だった。
サトルが領都に来てくれたらいいのに、と言う思いだけで伝えたヒルダはそのことに若干興奮してしまう。
「本当に?!
ずっとだよね? 一時的にじゃないよね?」
立ち上がっているわけではないが、身をテーブルに乗り出して聞いている。
「ああ、間違いない。
だから、今後どうするか話をしたいんだ」
サトルにそう言われたヒルダは目を輝かせていた。
そして今後の話し合いになった。
最初に、ヒルダからサトルに必要なことを全て伝えることになった。
ヒルダは聖騎士の任期が後三ヵ月残っている。今回の件の報告と、領主への顔見せのため一度領都には戻ることになるが、レオンやエリスも一緒に移動となるためサトルを連れて行くことはできない。
よって、約三ヵ月の間は申し訳ないがサトルだけで領都で生活して欲しいとのことだった。
これに関しては、ダンジョンを一新しようとしていたこともあり、サトルも問題ないと言ってくれた。
ヒルダは、次に、と口に出してテーブルの上に雪の結晶を模した刺繍のされた袋を置いた。
領都内で何か困ったことがあったらこれを相手に見せて欲しい。但し、見せる相手は騎士以上の人物に限って欲しいと言った。
サトルが手に取ると、中に固い丸みを帯びた物が入っているのがわかった。ヒルダが見てもいいよと言うので袋を開けてみると、真っ黒な石に青色の透明な宝石のようなもので先ほどと同じエンブレムの形が作られている。
サトルが不思議そうな顔で見ているので、それについてヒルダが説明した。
青い透明な宝石のようなものは晶石と言うらしく、ヴィズダム家のみが製造技術を持つ物らしい。
よって、これを持つ者はヴィズダム家と関係のある者と限られることになる。なので、持っていれば領都で入門の際の身分の証明などで恩恵を受けられるとのことだ。
最後に、ヒルダが領に戻るまでの3ヵ月の間の連絡手段についてだ。
各領都と王都の間には手紙や物の輸送の公務を担当する建物がある。
そこに、手紙を届けると公の予算で手紙を届けてくれるとのことだった。
冒険者や商人に関しては、冒険者ギルド、商人ギルドに届けることも可能なので、そうやって無事を知らせ合う文化がこの世界にはあるようだった。
よって、ヒルダがサトルに手紙を送る場合は、その建物止まりでサトルが受け取りに行く必要がある。
サトルが送る場合は、聖騎士団のヒルダ宛に送れば問題ない。
そこまで話が終わって、ようやく今後のための話も終わり一息つく。
サトルが木のカップを手に取ると、カップの軽さで中が空だったことに気付いた。
どうやら話に集中していて、途中途中飲んでいたことさえ無意識だったようだ。
ヒルダも丁度残りを流し込んだところだったようで、ヒルダの分と合わせて2つ注文した。
ヒルダが果実酒を口にする。少しだけ飲み、すぐに口から離すとこちらを見ないで聞いてきた。
「ねえサトル。
いつもいるメイドさんは何なの?」
サトルと目を合わさずにカップを見ながら軽く回している。
(サポートシステムだなんて言っても通じないよな……)
サトルはなんと言うべきか悩んでしまう。
ヒルダはサトルの悩んでいる姿を見て、さらに聞いてくる。
「……大事な人なの?」
「いや、そういうんじゃないんだ。
ただ説明が難しくて」
困ったサトルは頭を掻いている。
よくわからない言い方に、ヒルダがクエスチョンマークが浮かんできそうな顔をする。
「俺がダンジョンマスターになった時に一緒についてきたんだ。
俺の世話もすると言う話で、なぜかメイド姿をしている。
そうとしか言いようがない。
だが、この世界で貴族をしていると言う体の俺のメイドだって
ことは忘れないでくれよ」
いまいち納得がいかない説明をもらったヒルダだが、サトルが真剣に困っているのを見てこれ以上困らせるわけにもいかず、とりあえずそれで納得する。
(良かった。恋人とかじゃないんだ)
しかし、ヒルダはそれがわかって満足だった。
気づけば夜も更けていたので、また三か月後に。そう言って互いに別れの挨拶を交わす。
「サトル、また三ヵ月後ね」
「ああ、また三ヵ月語だ」
サトルはヒルダを見送り、ヒルダはサトルに見送られて食堂を出て行った。
次に会うのは三か月後のヒルダが領都へ戻って来る時だ。
先週日曜日に更新しようとしたのですが、下痢が止まらずに一週間遅れました。
その代わり、頑張って今週は3話書きたい・・書きたい・・・書けるのかな。




